第17話「一緒に暮らすマッマのこと」

 2023/10/05、禁酒生活9日目(治療を始めて28日目)


 おはようございます。ものすごい雨が降ってますね……青森は今日は朝から真っ暗です。この夏は全然雨が振らなかったのに、最近は豪雨続きな日々ですね。

 昨日も夜に、無性にお酒が飲みたくなりました。

 でも、烏龍茶を飲みながらビデオ見てたら、旧に眠くなっちゃって……猛烈な眠気に負けて、FGOのAP消費も忘れて寝てしまったのです。今朝起きたら、APあふれちゃってました……失敗。こういうささいなことを物凄く気にするのが僕という人間です(笑)


 さて、今日は一緒に暮らしてる僕のマッマのお話です。

 マッマは僕やパッパと同じく、偏屈な頑固者です。しかし気立てが優しく気遣いに満ちてて、なによりも不正や不義理を嫌う人間です。話す時はほぼいつも「主語がない」という感じなので、アスペな僕とは時々?????になりますが、概ね平気です。家族だから慣れてますしね。

 で、我が家ではお酒はマッマが一番強かったんです。

 今は現役時代? の半分も飲めなくなってしまいましたし、適量を飲んですぐ寝るようになりました。また、これは以前からですが金土日の週末と休日しかお酒を飲みません。ぶっちゃけ、僕やパッパが誘わないと平日は絶対飲まない人でしたね。

 母一人子一人になった今、この人は確実に僕の母親だなと実感します。

 凄く似てるところもあるし、本当にマッマを見て育ったと確信するんですね。


 そんなマッマですが、一時期物凄い酒癖が悪かったんです。

 家族三人で宴会してても、グイグイ飲みます。因みにパッパは酒好きだけど弱いので、ちょっと飲んですぐ寝ます。で、僕が相手をするんですが、飲めば飲むほどガラが悪くなります。なんだかオラオラになっていくんですね。

 一応年寄りですし、一人にするわけにはいかないので見守りながら一緒に飲みます。それというのも、マッマはこの時期飲み過ぎて椅子でうたた寝してしまい、時には椅子から転げ落ちることもありました。危ないです、骨折したり運が悪いと死んでしまいます。

 でも、うつらうつらしても絶対に布団に行こうとしないんですよ。

 それどころか、さらに飲んで「酒ぐらい飲んでなにが悪い!」「お前は私を見張ってるんだな!」「いいからあっちに行け! 失せろ!」って叫ぶんです。

 正直、ちょっと辛かったです、泣いちゃいました。

 ただ、僕がいないと椅子から落ちるので……最終的にはニトリからマットレスを買ってきて下に敷いたりシてました。

 で、次の日の朝はなにも覚えていない。

 こんな時期もあったんですが、今は全然穏やかですね。

 マッマが荒れに荒れてた時期には、理由があったんです。


 今から10年くらい前でしょうか、祖母(父の実母)が老衰でこの世を去りました。僕は大人になってから知ったんですが、マッマは僕が生まれる前からずっと、祖母にいじめられていました。視覚障害者故に、迫害と差別を受けていたんです。しかも、祖母の一族ほぼ全てが祖母と一緒にマッマをいじめたんです。

 針のむしろだったと思います。

 パッパは長男だったので、昭和の「長男の嫁」って大変なんですよ。

 祖母は某カルト教団(S学会)の熱心な信者で、幹部でした。マッマは同居の条件として「我が家で学会の集まりをしないで」って約束してもらったんですが、当然のように反故にされてましたね。家にはいつも、信者が沢山集まってました。

 僕の出産もイッモウトの時も、祖母は「何も協力できない、絶対に手伝わない」と言い放ち、周囲の親族もそれにならいました。パッパと二人だけで僕やイッモウトを産み育てたんですね。

 でも、マッマは密かに「いざとなったら子供を守って出ていかなくては」と思ってたそうです。なので、独身時代に使ってたガスコンロ等を、こっそり隠して保全してたとか。

 そんなアレコレを僕が知ったのは、成人して大人になってからでした。

 小さい頃は僕、我が家は仲良し家族で、祖母はいい人だと思ってたんです。


 その祖母が死ぬ前後、マッマは飲んで荒れるようになりました。飲みながら怒ったり泣いたり、僕に怒鳴ったりしつつ椅子から頻繁に転げ落ちてました。

 多分、死の間際にいる祖母への怒りが込み上げていたんでしょう。そして、それをぶつける前に祖母は死にました。マッマは「年寄りには絶対に敬意を払う」というポリシーを持っており、どんなにいじめられても祖母に礼節を欠いたことがなかったんです。心の中ではこんちくしょう! と思ってても、祖母に失礼を働いたことは一度もありませんでした。

 その祖母が、いじめるだけいじめて、敬われながら死んでゆく。

 思うところがあったんだと思います。


 その祖母も、今の僕にはとても哀れというか、悲しい存在に思えます。

 祖母にとって、パッパは自慢の長男でした。幼少期から勉強ができて、学校でも生徒会長で、誇らしかったと思います。

 そのパッパが、謎の難病で突然視力を失い、障害者になりました。

 あちこち病院を回り、眼科の権威である大学病院にも生きました。

 しかし、パッパの視力が戻ってくることはなかったのです。

 祖母は絶望しました……長物家の希望、長男のパッパが障害者になったのです。

 そこに忍び寄ってきて、祖母の心の隙につけ入った卑怯者がカルト宗教でした。その宗教は「信心すれば息子さんの目が治る、献金しなさい」と説きました。心の弱っていた祖母は、言われるままに多額のお金を献金し続け、その学はトータルで一億円前後と言われています。

 そんな母(祖母)を見て育った(目は見えてないけど)パッパもまた、人生が歪められました。盲学校へ通いながら、カルト宗教にのめり込んでゆく自分の母親を見て、信仰心というものをなくしてしまったのです。

 パッパは昔から、神も仏も信じない無神論者でした。科学と数字しか信じず、実在の証明できない全てのものを否定しました。特に宗教を憎み、徹底して遠ざけたのです。僕は幼少期はキリスト教系の保育所に通ってたんですが、配られた聖書を「こんなものを子供に見せるな!」と隠したり、クリスマスを「本当に祝っていいのか、子供にプレゼントをあげるだけでも宗教的な儀式になるんじゃないか」と悩んだそうです。

 そんなパッパが伴侶に選んだマッマもまた、視覚障害者でした。盲学校で出会い恋に落ちて、パッパに嫁ぐ形でマッマは山形から青森に来たんです。


 祖母は発狂寸前だったと思います。多額の献金で信心を高め、幹部として多くの信者を従えているのに。それなのに、障害者になってしまった息子が、同じ障害者の女を嫁に連れてきたのですから。

 祖母は最後まで結婚に反対し、結婚式にも出席しませんでした。

 パッパは「母親とは絶対同居しない」ってマッマに言ってたそうで、本来はパッパの弟である叔父(次男)が祖母と暮らす予定でした。

 しかし、パッパの弟である叔父もまた、病気で目が見えなくなったんです。

 結果、同じ障害者なら長男でしょ、ってことで……パッパとマッマは同居を強いられることになりました。そこから、祖母によるマッマへのいじめが始まった訳です。


 人は辛い時、お酒を飲みたくなるし、飲むと悪く酔うこともあります。悪く酔うと他者への暴言や暴力が出たり、醜態を晒してしまったりシます。僕なんかもそうでした。

 でも、今のマッマはとても穏やかで、以前以上に僕に優しいです。

 ただ、一年前にパッパががんで亡くなったことをまだ引きずってて、常に「畜生!」「クソッ!」って言いながら暮らしてます。パッパの死が悔しくて悲しくて、時々「パッパ、1ドルが150円になっちゃったよ」「パッパ、安倍さんが殺されちゃったよ」「パッパ、孫ができたよ」って独り言を呟いています。

 マッマなりの弔い、鎮魂の祈りなんだと思います。

 そんなマッマを支えて見守り、最後まで天寿を全うしてもらうのが僕の今の生きる目的です。アルコール漬けになって、大病を患う余裕なんてないんです。とにかく健康な自分を維持して、マッマを守ってあげたいんです。

 アルコール依存症の治療を決意した理由の一つは、やはりこれですね。

 マッマを無事に見送れたら、僕の人生も一段落という訳で……それまでは、万全の体制でいるべきだと最近考え直した次第でもあります!

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