第8話 刷り込み
リーノの問題発言を軽くスルーして終わらせたトーナ。金持ちの気まぐれだと深くは考えない。だがアレンとランベルトは別だ。あれからピッタリとトーナの側におり、決してリーノと2人きりにしないようにしていた。
「なんでまた変な奴に気に入られてるんだよ」
アレンは口を尖らせている。
「リーノくんは悪い人間じゃないけど、強引な所があるから心配だよ……」
ランベルトの方は先ほど飛竜を倒した人間とは思えないほどオドオドとしていた。
「金持ちの気まぐれよ。気まぐれが続いてるうちに飛竜の素材分けてもらお~!」
当の本人は呑気なものだ。
今回の討伐メンバーの中から選ばれた精鋭隊が飛竜の巣のあった場所へと向かう。ひび割れたタマゴがあるはずだ。飛竜は幼体と言えども少しも油断できない。
(なんで私がこっちに?)
錬金術師として雇われたのにいつの間にやら主力としてカウントされていたトーナは当たり前のように精鋭隊の中に入れられていた。
(まあいいや……タマゴのカケラでももらえればラッキーだし)
今更カマトトぶっても仕方がないと、ランベルトに向かってくる魔物の残党を刈っていた。
「あれだな」
飛竜の巣は大きな鳥の巣に似ていた。タマゴは前世で見たダチョウのタマゴの2倍ほどの大きさで、黄金の雷模様が刻まれている。報告通り、大きな亀裂がいくつか入っていた。それが時々揺れて、小さな飛竜が殻を突き破って出てこようとしているのがわかり、一同は緊張する。
だが、注目すべき所は別にあった。
「地面だ!!!」
地響きと共に地面が盛り上がり、大型の魔獣が大きな口を開けて出てきた。パクンと一飲み狙いだったようだ。ランベルトはまんまと魔獣の腹の中に入ってしまっている。
(モグラ!? 大亀!!?)
島にいる魔物は倒しきったかと思っていたが、地中に潜んでいたのがランベルト参戦によって炙り出された。彼のことを誰も心配していないあたり、精鋭組はランベルトの
「雇った甲斐があったな!」
面白そうに笑うリーノと彼を守るために必死の形相の護衛達の表情の差は広まるばかり。何故なら、
「上にもいるぞぉぉぉ!」
(げぇぇぇ!!!)
これまた巨大な首の長い怪鳥が、こちらに向かって急降下してきていた。が、ランベルトが魔獣の腹の中にいる今、残りのメンバーでやるしかない。
「飛竜に比べたら!!!」
実際飛竜の時とは違い、彼らの攻撃は怪鳥に届いた。矢や投げナイフが羽を傷つけ、
「距離取られる前に行け!!!」
アレンがトーナを促すと同時に、彼女は今日2度目の空だ。そして、
「風刃じゃ~!!!!!」
重力落下に身を任せながら大声で自分自身に気合をいれたトーナの魔術で、怪鳥の頭と胴体が2つに分かれた。
ドスンと2度大きな音を立てて、魔物の身体が空から落ちた。
「どいてどいてぇぇぇえ!!!」
そして大きく回転し続ける風の刃を今度はゴツゴツと硬そうな大亀の甲羅に叩きつける。バリバリッ! と音を立てて、甲羅に割れ目が入った。
(解除っ!)
中にいるランベルトまで真っ二つにしては大変だと、急いで魔術を解除する。気を利かせたアレンによって、着地はふわりと上手くいった。
「グワァァァ!!!」
魔獣は叫び声と共に地響きを作りながら横倒しに倒れた。本体は甲羅の方だったのだ。
「そんなことある!?」
「魔物はまだまだわからないことが多いからな」
予想外のことにギョッとしながらアレンと2人でのぞき込む。他の冒険者達は明らかにホッとしていた。
さて、この中からランベルトを取り出さなくては……そう周囲が動きだしたところ、それは余計なお世話だとすぐにわかることに。
「ブハァ!!!」
血まみれのランベルトが魔獣の体を突き破って出てきた。
「びっくりした~~~」
えへへとなぜか照れている。
「死なないからって適当にやんなよな」
アレンが手を伸ばして引っ張り上げた。
「いや~外は硬そうだったから中からの方がいけると思ったんだけど違ったみたいで……お恥ずかしい」
「トーナに礼を言っておけよ」
「ありがとうトーナ! ……トーナ?」
トーナは身動きせず固まっていた。
(あ……あああ……どどどどうすれば!!?)
彼女は見つめ合っていたのだ。殻から出たばかりの真っ白な飛竜の幼体と。この騒ぎのさなか、誰にも気づかれないうちに生まれていた。幼竜はキョトンとしたままだ。
「た、食べる?」
どの道捕獲しなければならない。生きた竜を捕まえるまたとないチャンスだ。トーナは倒れている魔獣を指さした。
幼竜はキュウキュウと可愛らしい声を上げて生まれたばかりだと言うのに、しっかしとした足取りで餌まで辿り着き、勢いよく食べ始めた。
「孵ってしまったか」
リーノはまあ仕方ないな、とお付きたちに捕獲用の檻を手配するよう指示する。
「捕まえた後はどうするの? 見世物小屋?」
「いいや。オレが飼うのさ。金持ちっぽいだろう?」
言い方は別として、実にワクワクしているのが伝わってきた。リーノは珍しいものが好きなのだ。飛竜の飼育方法など存在しないが、それも含めて面白いと思っている。
「小さいうちはいいけど大きくなったらさっきのアレよ~? 大丈夫なの?」
「はっ! オレはロッシ商会の跡取りだぞ? どうとでもなる!」
そんな会話の最中でも幼い竜は魔物を食べ続けていた。
「飛竜は魔力があるものを好んで食べるって話だけど」
「ああ。だから魔物か魔術師が先に狙われる」
「餌としてはね……」
竜種は知能が高い。敵とみなせば餌でなくても攻撃する。しかも一度攻撃態勢に入れば、人間側は絶望するしかない相手だ。
バリバリと骨まで食べる音が聞こえてくる。
(あれを噛み砕く顎の力がもうあんのね~……流石竜種……こわっ!)
そんな幼竜は全てを食べ終わると、一歩引いた所で様子を見ていたトーナの方へ急いで走って来た。
「えっ!? なになに!!?」
もちろんトーナは身構えるが、どうもあちらから攻撃性は感じない。キュウキュウと鳴きながら甘えているのだ。
「まさか……まさか……!?」
周囲もなにごとだ!? と、ただ様子を見守っていた。
「はは! お前、親だと思われているぞ!」
「うそー!!?」
楽しそうな声のリーノとは真逆で、トーナは悲痛な叫び声を上げていた。だがその声すら、幼竜は嬉しそうに反応する。ついには空中を飛び、トーナの周りをくるくる回った。
「あ、あのねぇ! 私はアンタの親の仇なのよ……!?」
なんて言ってわかるわけがないというのに、どうにか状況を変えたくて幼竜に訴えかける。もちろん無意味に終わるが。
「刷り込みだな」
アレンは呆れた声だった。あーあ。と言われているようだ。
「生まれた直後に見た動くものを親と思うってヤツ!?」
「ああ。……領地の学者が、竜種は生まれた直後に見た最も強い者を親だと認識するようだと話していたことがある……だから生まれた直後に魔物を狩る姿を見せるのだとも」
トーナは一瞬間を置いて、
「ラ、ランベルトは!!?」
そう言ってランベルトの方へ幼竜を促すも、トーナの側から離れない。
「怪鳥に止めを刺したのも、大亀の甲羅に亀裂を入れたのもトーナだろ」
「でもあれはサポートがあったから上手く決まっただけだよ!?」
「アッハッハ! そんなことは竜には関係ないんだねぇ」
ランベルトは笑っていた。
「フム。親から引き離すのは可哀想か」
頼みのリーノがいつもとは違い、真面目な顔をして頷いていた。
「う、うちペット禁止……」
やぶれかぶれで意味の分からない言葉を発してしまうほど、トーナは困惑している。
周囲からの、何言ってんだ? という視線が痛い。
(ど、どうしよう……)
キュウキュウと頬ずりする竜をただ撫でていた。
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