第13話 美味しい物を食べる

 獣人の女の子の家のキッチンを借りた。

 部屋は彼女の家族の血で汚れている。だから、そこはカメラに見せないように家に入った。

 獣人の女の子はお墓の前で座っている。

 彼女には美味しい物を食べさせたい。


 キッチンはシンプルだった。

 水道はない。コンロはない。だけど釜はある。

 インフラが整っていないキッチンである。

 水は井戸から取りに行かないといけないのだろう。釜も薪から火をつけないと行けない。

 その代わり調理スペースは広かった。

 調理スペースにコンロを置く。

 そしてまな板と包丁を借りて、バラ肉を刻む。牛である。

「肉なんて久しぶりっす」とハリーが言った。

「皆様が投げ銭してくれたおかげで肉が食えるんだ」と俺が言う。

「あーっす」とハリーがカメラの外からスマホに向かって頭を下げた。


 ガスコンロに火を付ける。

「おぉー」と2人が火を付けただけで驚いている。

「魔道具っすか?」とハリーが尋ねた。

「違う。文明の力だ」と俺が言う。

「文明の力?」とハリーが首を傾げた。

「魔法が無い世界で、人間はいっぱい考えて火を出すことが出来るようになったんだ」

「異世界っぱねぇ」

 とハリーが言う。

 彼等にとっては地球の方が異世界なのだ。


 あっ、油を買ってねぇ。

 金無い。

 油ぐらい、まぁいいか。

 テフロン加工だし。


 俺は肉をフライパンに入れた。

 ジュジュ焼く。

「おぉ」と俺は声を出す。

「油をひいてないのに、くっつかない」

「どこで驚いてるんっすか」とハリーがツッコんできた。

「驚くところは火が付くところだと思いますよ」とミカエルも言う。

「ココが驚くポイントだろうが」と俺が言う。

 そして肉に焼肉のタレをかけた。

 ジューと音がして、胃袋を鳴らす匂いが充満した。

「なんっすかコレ? めっちゃいい匂いっすね」とハリー。

「だろう」と俺は言って肉を炒める。

 肉を炒めたらキャベツを千切り。

 前世なら肉を切ったまな板は衛星的じゃないから使えなかった。だけど水道のインフラが整ってないのだ。まな板を洗おうと思ったら井戸に行って水を汲んで来ないと行けない。邪魔くせぇ。

 キャベツの千切りは慣れてなくて少し太めになってしまった。

 パンを4枚並べてキャベツを盛って、その上から焼肉を乗せる。

 ドデカアタマ特製の焼肉パンである。


 ゴクリと2人の弟分から生唾を飲む音が聞こえた。犬みたいにヨダレを垂らしている。


「食べていいっすか?」

 とハリー。

「待て」と俺が言う。

「みんなで食べよう」


 木で作られた皿を借りた。

 俺が2皿、ハリーが2皿を持って獣人の女の子が座ってる墓場まで持って行く。

 彼女は体育座りをして、頭を膝につけていた。

 ハリーとミカエルはお腹を空かせた犬のように焼肉パンしか見ていない。

 ミカエルが撮影しているスマホ画面にも焼き肉パンしか映らなくなった。

「座れ」と俺が言うとハリーとミカエルは獣人の近くに座った。


 みんなの前に焼肉パンが置かれた。

 撮影しながらは食べにくいだろうからミカエルから俺はスマホを受け取り、撮影を代わってあげた。

「よし、食べていいぞ」

 と俺は言う。スマホで3人を映した。

 相変わらず彼女は体育座りで顔を膝に付けていた。

 ハリーとミカエルは親の仇のようにパンに食いついた。

「んっめ」「んっめ」と2人は言いながら必死に焼肉パンを食べた。

 んっめ、と言うのは美味しいということである。


 獣人の女の子が膝から顔を上げた。

 真っ赤な目で焼肉パンを発見する。

「食べていいニャ?」と彼女が尋ねた。

「どうぞ」と俺が言う。

 彼女は口いっぱいに焼肉パンを頬張り、ボロボロと涙を流した。

「美味しいニャ」と彼女が泣きながら言った。

「こんな物、食べたことないニャ」と彼女が泣きながら言った。

「そうか」と俺は言う。


 ミカエルが食べ終わるとスマホの撮影を変わってもらった。

 俺も焼肉パンを食べた。

 日本の食パンの柔らかいこと。

 そして甘辛い焼肉のタレ。

 シャキシャキのキャベツと絡んで、舌が幸せである。


 焼肉パンを食べ終わり、

「お前、名前なんて言うんだ?」

 と俺は獣人の女の子に尋ねた。

「デッキ」と彼女が言う。

「行く当てはあるのか?」

 と俺は尋ねた。

 ポクリと彼女は頷いた。

 どうやら行くべき場所はあるらしい。

「どこだ?」

「ヤバヤバ森林ニャ」と彼女が言う。

 通称ヤバヤバ森林は魔物が多く棲息する場所である。本来の森林の名前を俺も知らない。みんなヤバヤバ森林と呼んでいる。

「なんで、そんなところに?」と俺は尋ねた。

「そこに獣人の村があるって聞いた事があるニャ。お父さんとお母さんは、そこの村の獣人ニャ」と彼女が言う。

「それじゃあ、なぜデッキの家族はこんな場所に住んでいるんだ?」と俺は尋ねた。

「わからないニャ」と彼女が言った。

 村から追い出されたのではないだろうか? と俺は思った。

 もしかしたらデッキが村に行っても受け入れてくれないんじゃないか?

「でも、その村には親戚がいるはずニャ。そこに行ってみるニャ」

「俺達も一緒に行く」と俺が言った。

「でも迷惑かけれないニャ」

「俺達は行く当てがあるわけじゃねぇ。どこに行こうが一緒なんだ」

「……でも」

「女の子が危険な場所に行こうとしてるんだ。付いて行かせてくれ」と俺が言う。

 もし村に辿り着いたとしても、また彼女は嫌な目に合うかもしれない。

 どうしても1人で行かしたくはなかった。

「行くっす」とハリーが言った。

「……いいの?」

「当たり前だろう」と俺が言う。

「ヤバヤバ森林に行くなら武器とか装備しないといけないっすね」とハリーが言った。

「一つ心当たりがあるニャ。岩に突き刺さった剣で、選ばれたモノしか抜く事ができないって言われてる聖剣がこの森にはあるニャ」

 とデッキが言う。

 それって勇者が抜く剣では? と俺は思う。

 だから勇者達はこの森にいたのか、と俺は納得する。

「この森に住んでいるっすけど、見たことないっすよ」とハリーが言う。

「隠された場所にあるニャ」とデッキが言う。

「それじゃあ明日その武器を取りに行くっす」とハリーが言った。

 














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 そして『家出少女を拾ったので部屋に連れて帰って一緒に寝たら、その子は魔王の娘で俺はチート能力を無駄遣いしているおっさん勇者だったけど、女の子が懐いてきたのでバカップルになる。そんなことより彼女がクソカワイイ』という作品も同時連載しておりますので、もしよろしければソチラの方も読んでいただければ嬉しいです。

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