温泉巡りの湯本さん

みけめがね

第1話 陰キャ女子高生、雪国に降り立つ

「ゆ、雪しかない…」

菜花温泉駅の前には雪に覆われただだっ広い駐車場が広がるだけでコンビニなどは一つもない。近くには自販機が2台だけ置いてあったがかなり心細い。

(キャリーバッグで来たのは間違いだったかな…)

雪が若干柔かくなった十一時三十二分。重いキャリーバッグを転がせずに持ち運んでいるのですでに疲れが溜まっている。ちょっと歩いたところに屋根もないベンチ一つだけのバス停があった。錆びた時刻表を指でなぞりながらバスの時間を探す。

「菜花温泉町行きのバスは……に、二時間後!?」

都内だと最高でも三十分ほど待つことはあるが明らかにバスの本数が少なく昼の十一時から一時までの間には一本しかない。

「嘘…でしょ…?」

絶望する私の目の前を大きなタイヤの黄色いブルドーザーみたいな車がチェーンの音をじゃらじゃらさせながら通っていった。私は思わず目で追ってしまった。(デカ…なんだろあれ)

「除雪機だよ」

(!?)気がつくとベンチに自販機で買ったであろうココアで暖をとる高校生くらいの制服姿でチェックのマフラーを首に巻いた女の子の姿があった。

(心を読まれた!?ってか地元の子かな?)

「君、都会の子でしょ?そのキャスター付きのキャリーバッグにショートブーツ、『こっち』の子ならそんな無謀なこと絶対にしない」心の中では若干イライラしていたが返す言葉もないので

「ごもっともです…」と私が返すと

「観光なら多分菜花温泉行きのバスに乗るんだよね?あたし菜花温泉に住んでる雪代佳代子。あなたの名前は?」

「ほえ?湯本柚ですけど」

「んー湯本さんかどこの地区だかわかんないなー…」

「えっと…どうかしたんですか?」私は雪代佳代子と名乗る女の子に尋ねる。

「あー田舎あるあるだと思うんだけど苗字で大体住んでる地域特定できるのよ、百パーセント当たる訳じゃないけどね」と彼女はニカっと笑う。

(田舎って結構フレンドリーな人多いって聞くけど逆に怖いな…)

「お、親きた」駐車場に雪代さんの親が運転しているとみられる車が一台入ってきた。それに向かって雪代さんは手を振る。

「佳代子ぉなんだぁその子ぉ?」

「おとうさーん今さっき会ったばかりの子なんだけど菜花温泉まで連れていって欲しいんだって」

「え!?私そんなこと言ってないですけど…?」

「そうか…じゃあ乗ってけ!!!おらちまで乗っけてってやる」私の遠慮は全無視で私は雪代家の車に乗せてもらうことになった。「あんた、どっからきたんよ?」そう聞くと雪代家のお父さんがタバコを吸うために窓を開けた冷たい風が車内に吹き付ける。

「東京です…さむぅっ!」

「あっはっは!寒いよなぁ!この時期はマイナス五度になる日もしょっちゅうよ!」そう言いながらお父さんはダウンジャケットを脱いだ

(絶対種族が違う…!!!)

「佳代子ぉ!」

「何〜?」

「この子温泉に連れてってあげな!」

「え?温泉?」流石にフレンドリーな佳代子も頭にクエスチョンマークが浮かんだようだ「おう!家の近くに温泉あるから一緒に行ってこい!裸の付き合いってやつだ!佳代子都会の友達欲しいって前言ってただろ?」

「あはは、それ小学生の頃の話じゃない?まぁいいか!湯本さん…いや、柚ちゃん一緒に温泉行こ!」

「ええええぇぇ!!!?」

これは私が雪代佳代子と出会った高校二年生の冬休みの話。

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