奈落

@Mamama_Mimimi

第1話 外へ

 八月一日。彼は予約した新作のゲームカセットを購入する為に大阪の大型家電量販店に足を運んだ。

 彼の名前は東岡命(アズオカメイ)。歳は十八の高校三年生。

 高校三年生の夏と言えば受験を控えた大事な時期。しかし彼は適当な私立大学を受験するので勉強は必要は無いと思っている。その為今大阪の地に立っている。

 イヤホンを付け音楽を流しながらお目当てのゲームコーナーまでエレベーターで昇っていく。エレベーター内は夏休みの影響もあり人で溢れ少し息苦しかった。目的の階層に付き人をかき分け降りていく。人がいない端で立ち止まり財布に入れた予約の紙を取り出しレジへと向かう。

「え?」

 一歩足を前に出したその瞬間、床が抜け下に落ちる様な感覚が命を包み込んだ。

 命が目を覚ますと辺りは暗闇に包まれていた。先程までうるさいほど鳴っていた音楽も映像を映していたテレビも何もかもが消えていた。

「地震で停電でもしたか?」

 命はイヤホンを外してスマホを取り出しSNSで「地震」と調べようとしたが圏外と表示されていた。スマホを長持ちさせる為に機内モードに切り替えライトを灯した。恐る恐る歩くと何かがつま先に当たり命は驚いて尻もちをつく。店の制服を着た店員が寝転んでいた。

「あの、大丈夫ですか?」

 軽く肩を叩くも反応が無い。

「首触りますね」

 そう言って首を触ると脈はある。命は胸を撫で下ろす。

「動かないって事は怪我してるって事だよな。一回外出て誰かに伝えないと」

 停電だからエレベーターは動かないと考えた命は階段を探す為辺りをうろつく。すると”割引商品”と書かれたポップの付いたワゴンを発見し、その中に置かれていた商品の懐中電灯を発見する。箱から取り出し光る事を確認した後、箱と少し多めのお金を先程の店員の横に置き階段を探す。スマホのライトとは違い強力な光で捜索はスムーズに進んだ。途中で沢山の気絶している人を見かけたがやはり誰も反応しない。

 階段を踏み外して怪我をしないよう慎重に階段を下りる。数分かけて七階から一階に辿り着く。

「明るい」

 電気が通っている為明るかった。懐中電灯を消して出入口へ歩く。だが少し気掛かりな事があった。一階は家電などが置いている為、人も店員の量も多い、しかしまだ気絶している人を見かけない。全員が逃げたのだとしたら「ここから避難できますよ」と案内する声もあっていいはずだ。

「おかしい」

 そう思った瞬間命の左足に何かが噛みついたような痛みが走る。命は驚いて全力で出入口へ走る。そして扉をタックルで強引に押して外に飛び出ようとするも施錠されているのかビクともしなかった。痛む肩など気にせず他の扉もガチャガチャと開けようと押したり引いたりするもやはり開く気配がない。

「閉じ込められた?」

 絶望。その二文字がしっかりと脳裏に浮かび上がる。一回深呼吸をしてから先程痛かった足を見る。するとそこには動物に噛まれたような穴が開いて血が出ていた。

「何だよ……これ……」

 どこかに引っかけたのかと思っていた痛みは予想外な傷によるものだった。しかし色んな事を気にすると気が滅入ると考え偶然負った傷がこうだったと自分の中で片付けこれからどうするかを座って考えていた。

「下が駄目なら上だ」

 屋上から状況を確認する。思い立ったら即行動。十分な休憩を行い立ち上がると少し頭がクラッと眩む。前を向くと黒い霧の様な何かが見えた気がした。両頬を叩いて気を引き締め歩き始める。

 暗い階段を昇る為、懐中電灯を再び再点灯し七階へと上がっていく。

 上に上がるにつれて微かに音が聞こえてきた。その音の正体は七階にあるゲームのPVを流すモニターなどだった。

「一階と七階だけ電気つくって変だなぁ。まあ変なのは今に始まった話じゃねーか」

 何かが動いた気がした。野生の勘と言えば野生で生きていない人間が使うと笑われそうだが直感的に右に何かがいると思った。

「黒い靄?」

 何度目をこすっても消えない。本物だ。何かはわからない。四足歩行の大型犬の様な姿に靄を被せた姿だった。犬でも虎でもライオンでもない。ただその獣の様な靄は眠っていたあの店員に近づき”噛みついた”。

「っ!」

 命は即座に物陰に隠れる。”ヤバイ”その一言しか出てこなかった。人を襲うという事は自分も例外ではない。出口もまだ見つかってない状態でどう逃げるのかなど頭の中で情報が混線する。

「さっき俺に噛みついたのはアレ? てかあの人大丈夫なのか?」

 ジーと隠れて見ていると黒い靄に噛みつかれて数分で長いシャツから見えていた手が炭の様に黒く変色していき砂の様になり服だけになった。

「は?」

 目の前で起きた現象。靄に噛みつかれると砂になって消える。漫画やアニメの世界での現象を見た命は思わず口から言葉がこぼれる。するとその靄は顔らしきものをこっちに向け走ってきた。

「やば」

 命は後ろを振り向かず階段を必死に上り屋上を目指した。

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