世界は神の掌で

@HinokiKonnbu0707

神が神となった日

自分は、小説家だった。


最初はファンタジーから始まり、SFや恋愛にも手を出した。とにかく、自身が生きている内に様々なストーリーを書きたかった。


とにかく思いついたシーンを作るためにそれを書くための小説を書き始めるのが常だった。


もちろん、そんな唐突に書き始めたものは全て、商業化しているものとは別の趣味創作の範疇のため時間はいくらあっても足りないのだが。


そのため、自分は毎回書くべき原稿が上がるまでは飲まず食わず寝ずで過ごすことが多かった。


とにかく体力面で追い込み、思い付いてる物を全て吐き出し切って、食事、睡眠、入浴等の生活の時間を執筆に費やした。


…………気付いたら自分は過労死していた。


気付かないうちに、眠るように死んでいた


ではなぜ自分が死んだことに死んだ後に気付いたのか?


簡単だ、死後の世界があったからだ。


今目の前には、現実で言う神と形容すべき姿をしている生物が居るのだ。


自分の足はすでに腰から下が無く、喋ることもできない。


思考のみ働く。


目の前に佇む、白い長髪と髭を大きく靡かせた、身長170cmの自分が見上げてしまうほどの爺さんは、ゆっくりとこちらを見下ろし語ってきたのだ。


『人の子よ、其方の生涯、見届けさせてもらった。中々に愉快な作品を多く生み出して、我はとても好きであったぞ。』


「…………そりゃどうも?」


展開が早すぎる、と言いたいとこだが自分でも今説明したこと以外説明しようがない。


だから、おそらく神であるこの巨大な老人に自身の作品のファンであることを打ち明けられても、驚きの感情よりも呆然とした感情しか湧いてこない。


『しかしこのまま死んでしまっては、二度とお前の作品の新作を見ることが出来なくなってしまう。そこでだ、お前にも神と同レベルの権能を渡してやる、その能力でお前の頭の中にある面白い作品を、その知恵が続く限り生み出し続けよ。これは命令だ。』


一見ただ自分の作品が好きすぎるだけの老人に聞こえる、ただよく聞けば上に立つ者特有の傲慢さが醸し出されている。


簡単な話、あなたの作品が好きなので、死なない体にしました、思いつかなくなるまであなたの作品を作り続けて下さい。………ってことか。


面倒…………と思うのが一般人の回答かもしれない。


しかし自分的には、そのとやらによっては願ってもないお願いかもしれない。


「別にやっても良いけど、その神の権能ってどういう能力?

それによっては自殺しようと思うんだけど………。」


『………ふむ、神を臆さぬその態度、まさにだな。神の権能は、所謂全知全能というやつだ。お前の住んでいた世界の事柄は、隅々まで知識をインプットし何でも創れるようになる。簡単に言えば【創造】の能力だな。この能力なら世界を一から創り出せる、お前だけの世界を創って、お前だけの世界を我に見せて欲しい。命令はそれだけじゃ。』


それだけで済む願い事じゃないけどなぁ………いや、神にとってはそれだけで済む願い事なのだろう。


概要は分かった、自分で世界創ってそこで小説みたいなストーリーを現実でも創っちゃいなよYou!ってことだ。


………今更ここでめんどいから死んでやると言っても、死後の世界があるからには死んだ後も色々手続きとかあるだろうから、死ぬ気が起きないし、なら飽きるまで作品を作り続けてやろうかな。


「良いよ、じゃあやる。早く世界を創らせろ、せっかく良いストーリーが5~6個生まれたんだ、忘れたくないから創らせろ語らせろ。」


すると、神はニッコリと微笑み、自分の前に両手を突き出した。


そこから、自分は白い光に包まれていた。


気付いた時には、一人虚空にポツンと佇んでいた。


虚空と言っても、宇宙みたいな暗い空間でも、先程の神の世界のような真っ白な空間でもない、360度何も無い青空にいるような感じだ。


…………気のせいかどうかは分からないが、身体に全能感が溢れていた。


なんとなく分かった。


今、自分は『神』に成ったのだと。


なんとなく分かった。


自分の生きていた世界のことがなんでも。


なんとなく分かった。


自分は、神に創られた人形だったのだと。


なんとなく分かった。


あの世界は神が創った創作物なのだと。


なんとなく分かった。


自分はもう、自分じゃなくなったのだと。


………これ以上考えていると、気が滅入りそうになる。


ここで一人で思考に耽っていてもこの虚無な空間から解放されるわけでもない。


そう思い、ふと神の権能とやらを使ってみたいと思った。


神は言っていた、だと。


つまり、自身で無から有を生み出せるのではないかと、自分はそう考えた。


適当に、石を思い浮かべた。


携帯電話のような、手で持ち歩ける程度、しかしそこまで丸くもない。


河川敷なんかで見つけたら、思わず石切りをしてしまいたくなるような平たい石。


思い浮かべ、なんとなく念じる。


それが、自分の手から出てくるような気がしたから。


すると、手からにゅるりと石が生み出された。


何の変哲もないただの石。


それを、これまたなんとなく落としてみる。この虚空に。


すると、石は自由落下せずその場に


それを見て自分は気付いた、そうかここは『無』の空間、自分が今この地面も無い虚空にポツンと立てている様に、石も空間にポツンと立っているのだ。


ここは何もかもがない世界、何かがプログラムされる前の一番初めの段階。


言うなれば、絵を描く前の白い画用紙。


言うなれば、ビックバンが起こる前の宇宙。


そこには無限大の可能性が秘められている。


そして、その可能性を広げていくのは、神となってしまった自分。


宇宙も、惑星も、重力も、空気も、水も火も植物も、生命体全ても。


自分の手によって生み出さなければいけない。


これは……………。


「相当、めんどうくさいぞ?」





















とりあえず、やりたいことをやってみた。


創った石、重力を与えた。


石は落ちた、真っ直ぐに。その内、自分のいる場所からは見えなくなった。


永遠と続く虚空に落ち続けているのだろう。


今度は、虚空の範囲を決めた。大体高度100km程、地球からその高さを測ると、大まかに宇宙と定義されている距離である。


現在は地面が無いため、100kmより下に落下してしまうと高度100kmからまた落ちるということにした。


しばらくすると、自分の目の前を、自由落下により隕石並みの速度に達している石が通過して行った。


自分が何となくそう言う物理法則を知っているからだろうか?そう設定していなくても、石は勝手に、落下すると速度が上がる、という現象を設定せずとも引き起こしていた。


次は、なんとなくその石が通過する軌道に、手を差し出してみた。


石は、自分の手とぶつかり、止まった。


アニメやマンガみたいに本当に一瞬で止まって少し面白かった。


手は痛くなかった。


特に勢いによる衝撃も伝わらなかった。


そういう設定をしていないからだ。


日々自分がぼんやりと思っている、落ちてきた石は何かに当たれば止まる、という曖昧でおそらく答えでは無い答えを、この空間は勝手に解釈して実行したのだ。


石を生み出し、それが浮かんだ辺りから薄々気付いてはいた。


神が言っていた言葉が頭の中で思い出される。


『お前だけの世界を創って、お前だけの世界を我に見せて欲しい。』


この権能があれば、間違いなく世界は創り出せるだろう。


自分が住んでいて、日々を過ごした地球もほぼ完璧な状態にして創り直せるだろうし、自分がよく読んでいたライトノベルの世界を新しく生み出すこともできるだろう。


宇宙を一から生み出して、火星人や金星人何かも生み出せる。


地球上に勇者と魔王を降臨させることだってできるし、ブラック企業に捕まったサラリーマンを剣と魔法の世界に導くことだってできる。


好きだったマンガのストーリーを現実に創り、BADENDをHappyENDに捻じ曲げることもできる。


間違いなく、自分の思いのままにできるだろう。


だが、間違いなく途方も無い時間が掛かる。


自分一人の脳は今、全知全能の知識を得た。


全知全能の能力も得た。


自分だけの世界を創る空間も今目の前にある。


だが、それらを創るのに掛かる時間は、とにかく長い。長すぎる。


さあどうする、どうするんだ自分。


ここまで来て、やっぱり死んでおこうはおそらく神が許さない。


これを考える時間はいくらでもある、さあどうする、自分の脳内に溢れる世界を1mLも取りこぼさず効率よく生み出すための方法を…………。


















そして………数十年後(※多分。)


新しい地球が誕生していた。


そこは、今までの地球と同じようで同じじゃない。


自分が死んだ時点での世界196ヶ国はもう無い。


日本は日本じゃないし、それ以外の国も今までの名前じゃない。


全知全能で全てを知っているし、そのままの地球を創ればもう十年は早くこの世界を創れた。


だが、そうはしなかった。


全知全能とは言った。


だが、ミスをしないわけじゃない。


現に自分を生み出した神でさえ、ミスしなければあんなに地球が汚れる程人類が自堕落になるだろうか?


………まあそれすらも神が楽しんでいたというならもう自分には全てが分かり兼ねてしまう。


196ヶ国の名前を全て言おうと思えば言えるし、その位置、そこに住んでいる人々が使う言語、食べる物、住んでいる動物、風土、そこでは歴史的に何が起こったか。


全部言える。


けど、それを元神のお人形さん(自称)の脳内に全て積み込まれたからと言って、その場で全てそれを常時覚えているわけではない。


○○の国の有名人全て言って!


とお題を示されて、初めて、はい、△△です。


という答えが出せる。


だから、いっそのこと地球を自分が覚えやすいものにしちゃいましょー!ということに。


言語は日本語統一…………はさすがにキツイので………。


独自に言語を日本語+αで5ヶ国語程創った。


5ヶ国語の理由は、地球に創った国を196ヶ国から20ヶ国に変更したため。


3ヶ国で1言語、という感じに変更。


名前も、国名は何とか拙いネーミングセンスから捻り出し、日本以外の19ヶ国を命名。


日本の全国の名前とかも、別に自分の世界だし………と廃藩置県ならぬ廃都道府県を実行。


簡単にギリシャ英語で呼ぶことにした。


『エリアα』~『エリアΩ』までの24エリアに。(なんとなく付けて気付いたけど約半分だな。)


そして、地球だけでは少しつまらねいね?


と自分の脳内会議で結論が出て、剣と魔法の世界、所謂ファンタジーな異世界を同じ世界線に共存させることを決断。


地球から約500光年程遠い場所に生成、あとはテキトーに我が全知全能を使い地球から見えていた位置にポンポンポンと星々を設置。


天文学ガチ勢のみが分かる超大規模な銀河まちがいさがしの誕生である。


この異世界では、皆様ご存知剣と魔法が主流の弱肉強食世界。勇者もいるし魔王もいる。


ギルドもあるし、お城もある。


ドラゴンも、エルフも、スライムもいる。


そして、転移や転生の現象も………。


そしてそしてそして、これらの世界を見守る世界があると嬉しいよね?


とこれまた自分氏による有効的な案が発足、検討なんかはせずに即実行に移し、これらの間を取り持つ『天界』を設置。


この世界は所謂自分の部屋、自室です。


ここで自分の創った世界に居る人物を操作しちゃって、ゲームみたいに動かせたり、世界に色んな災害だったり絶望や希望を与えて色々なドラマを生み出すことも出来る。


それこそ、一般高校生に横断歩道で轢かれそうな子供を助けさせ、その際に突っ込んできていた大型トラックに轢かれさせ、魂だけこの場に召喚し、「お前を転生させてやる。」なんて言う転生させてあげる神様役を演じたりもできる。


役じゃなくて本物なんだけどね。


色々グダグダと喋ってしまったが、要するに、自分の世界を創り出す土台を今完成することができたのだ。


これを数十年で完成させ、自分でも満足の行く仕上がりにできて嬉しい。久しぶりに達成感というものを味わっている。


さて、どうやってこんなにも早く(当社比)自分がこれらの世界を創り出せたのか。


簡単な話だ、一人じゃ遅いなら、自分をもっと増やせば良いというわけで。


軽く自分以外の自分を十人生み出した。


自分で自分の名前を呼んでもややこしいので、生み出した順番に、響きが好きなドイツ語の1~10の数の呼び方で呼んだ。


1なら『アインス』、2なら『ツヴァイ』という風に。


ちなみに自分はオリジナル、0人目ってことでコピー達には『ヌル』と呼ばせている。


全知全能は自分のことさえも知り尽くしているため、簡単に自身のコピーも作製できてしまうのだ。


こうして生まれた10人の自分+1のオリジナルの自分で、今説明した全てを試行錯誤して創り上げたのだ。


三人寄れば文殊の知恵ならば、十一神寄れば新世界創造、とでも言えば良いのかな?


つまりまあ、脳内会議とかも本当にちゃんと自分で会議をしているわけなのだ。























さて、長々と喋ってしまったが、ようやく本題に移せる。


ここまでまるで誰かに語り掛けているかのように喋っていたが、これはその通りで誰かに語り掛けているのだ。


そう、


あなたが今これを読んでいる世界も、たぶん自分か、もしくは自分を創り出したもう一個上の神が生み出した世界だろう。


これは、あなたがいない方の世界で起きている出来事を、神の視点から、またその主人公である者の視点から、自分の気が向けばその他大勢の出演者の視点から、綴り、語り、残していく物語だ。


自分は『神』となった。

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