幻の存在だと言われていますが、存在しますよ?
蓮水和蘭
第1話 四御神(しのごせ)
我々千家の力はあまりに強大すぎる。
よって、この時より千家は表舞台に出ないことを掟とする。
この国、四御神(しのごせ)は古来より妖と戦ってきた。
力のない平民を守るため、貴族は力を尽くした。その貴族の数、ざっと千。
それらを取りまとめるための一族を千家と呼ぶ。だが、その千家も今は存在しているのかわからなくなった。
後宮。半年ほど前からここが私の住む場所だ。
後宮とは皇帝や皇子の正妃や側妃を住まわせる、その後宮の主人以外の男子禁制の建物なのだが、この国の後宮のシステムは少し違う。
まず違うのが、この後宮に姫たちを集め、その中から正妃にする姫を選ぶのだ。
一年を通し、己を磨き、次の年に皇子に選ばれるようにしなければならない。
先帝の頃からまたさらに仕組みが加わり、自分に選ばれなかった姫たちが可哀想だという理由で姫たちとは異なる家の息子たちも後宮に呼び、姫たちが必ず誰かと結ばれるようにした。
後宮に招かれる姫たちは、それぞれ東・西・南・北・南東・南西・北東・北西の八家。
また男子たちは、赤・青・緑・黄・黄緑・橙・紫・黒の彩八家から、16歳の者どもが集められる。
もちろん紫は皇家を表しているし、八家や彩八家も含めて千ほどの家がある。
だが私は正式に招かれた八家の姫たち以外の九人目として、ここにいる。
九人目ということも異例であったし、身分が明らかになっていない私は、姫たちの侍女らに嫌がらせをされることもあった。
「とは言っても依頼されてここに来ているのだし」
そう、名はさまざまあるが、ここでの名前を紅玉蘭というこの少女は自身で言った通り、ある人に依頼されて後宮に入った。
「そのようなことはあまり言わないほうが良いのでは?」
そう言ったのは、紅玉蘭の五人の侍女の一人である優蘭だ。
優蘭が言った通り、部屋にいるが、どこに耳があるかわからない。
「言わないほうがいいが刺客がいようものなら、あなたたちが始末しているでしょう?」
後宮にいる姫の侍女が五人とは少ないが、彼女たちは侍女という面でもプロだが、護衛という面でもプロである。
「まぁそうですが」
今、優蘭以外の侍女の春希、紅明、麗藍、小凛は絶賛刺客がいないか見回っている。
「それにしても、入宮から半年も経つというのに若宮のお渡りがないのはどういうことなのでしょうかね」
皇子のことを若宮と呼ぶのだが、その若宮がこの後宮に一度も来ていない。
「実際に関わらないとわからないのに、どうやって正妃を決めるつもりなんでしょうか」
「まだ半年よ。来る可能性はあるわ」
「そうですが…」
すると、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
「失礼します。麗藍です。玉様宛にお手紙が届いております」
受け取って中身を読むと、お茶会へのお誘いだった。
差出人は西家の姫、満李だった。
満李とは、結構仲が良くなり、こうしてお茶会に誘っていただいたりしている。
「ぜひ参加させてください、とお返事しておいて」
「かしこまりました」
麗藍が部屋を出ていくと、お茶を入れに行っていた優蘭が戻ってきた。
「優蘭、明日の午前に満李姫とのお茶会が入ったから」
「かしこまりました」
その日は、翌日のお茶会のための衣装合わせで1日が潰れてしまった。
翌日の朝、いつもより早い時間から支度を始めた。
昨日衣装を決めたとはいえ、化粧や髪を結わなければいけないので、時間がかかるのである。
紅玉蘭の黒髪が映える赤色の、牡丹が刺繍された衣装に身を包むと、髪をセットし、化粧をした。
「今日もお綺麗です」
「本当に」
侍女たちは皆ほうっとため息をついているが、そんな暇はない。
「みんな、満李が待つシャクナゲ宮に行きましょう」
侍女を引き連れてシャクナゲ宮に行くと、外に案内された。
「まぁ!ごきげんよう!紅玉蘭姫。外でのお茶会もいいでしょう?」
「ごきげんよう、満李姫。えぇ、とても素敵です」
そこには、手入れの行き届いた花畑が広がっており、木陰に布が敷いてあり、その上にティーセットなどが置いてあった。
「改めて、お招きいただきありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそきてくださってありがとうございます。よろしければ、満李とお呼びになって?」
突然何を言い出すかと思えば、呼び捨てで呼んで欲しいと言ってきた。
「よろしいのですか?では、私のことも玉とお呼びになってください」
ふふ、では早速呼ばせていただきますねと言って満李は玉と呼び始めた。
「そういえば、昨日公子様方がご到着されたそうよ!知っていまして?」
「えぇ、そのようですね」
公子とは、後宮に来た彩八家の男子たちのことである。
「そこで!黄緑家の双樹様をこのお茶会にご招待致しましたの!」
すると、紅玉蘭の後ろから声が聞こえた。
「やぁ。楽しそうにお話ししてるけど、こんなところに僕が入っても大丈夫?」
「もちろん!さぁさぁお座りになって!」
茶色みが強い髪に垂れ目のこの青年は黄緑家の次男らしい。
しばらく語り合っていると、紅明がスッと横に来て、手紙を差し出した。
「ごめんなさい」
二人に断って手紙の中身を確認すると、こちらに来て欲しいという内容と、依頼主の印だけがが押されていた。
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