第30話 子供の順応力

 私が幼稚園の時の話ですが。

 うちの父は転勤族でしょっちゅう転勤してたんですね。それで、幼稚園の頃にやっぱり引っ越しがあったんですよ。

 引っ越し先はなんと秋田県! ちょっと前にも出てきた秋田県湯沢市ウラマチ(音だけで覚えてたので漢字は知りませんし、今でもその地名があるのかどうかわかりません)にお引越ししたんです。

 でね、お引越しって忙しいでしょ? それなのに幼稚園児がいる。しかも未満児の妹もいる。妹はまだ二歳なんですよ。大人にしてみたら我々は邪魔で邪魔で仕方ないんです。それが二人もいるわけ。せめて片方くらいいなくなって欲しいんですよね、親としては。そんなわけで私は引っ越し翌日から問答無用で幼稚園にぶち込まれました。

 ところが関東から引っ越していきなりの秋田弁ですよ。ぶっちゃけ異世界です。何言ってるか全くわかんねえ。

 大人はいいですよ、引っ越しても会社の人が手伝いに来てくれましたからね。それでも言葉が通じなくて大変だったようですけども。でもこっちは忖度してくれる相手じゃないんです。みんな幼稚園児のガキばっかりだから。

 私はいったいどうやってその日を過ごしたのか全く覚えていないんですが、母の凄い証言が出て来たんです。

 朝、幼稚園へ行くときの私は普通に関東人だったのに、帰って来て開口一番こう言ったそうです。


「あすだべんどっごさもっできてけれって」


 母は「?」です。もちろん父も「?」です。もう一回言いました。


「あすだべんどっごさもっでごいって」


 ちょっと言葉が変わったので、そこが単語の切れ目だとわかったようなんですが、依然として何言ってるかわからない。

 両親が「?」となっているのを見て、会社の人が「明日、お弁当を、持って来なさい、って先生に言われたんだなす」

 せっかく標準語に変換してくれたのに、最後に緊張が抜けて「す」がついてしまったらしい。


 その話を大きくなってから聞いて「子供の順応力って凄いな」と、他人事のように思いました。

 

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