〈おまけ〉音葉とレヴィンのアフター・トーク
理:音葉さんが、仕事で依頼されてもいつも断っているやつです。
音:だって本番が終わったら妹に会うために早く帰りたいじゃん。
理:(スルー)コンサートの後、指揮者や奏者などが、演奏の裏話や自分の経歴など音楽に関わる話を聞かせてくれる、お客様へのおまけのサービスです。コンサート前に行うプレ・トークもあります。お客様はコンサートが終わってもわざわざお付き合いくださるのですから、ぜひ面白いお話を聞かせてくださいね。
音:司会のお姉さんが面白いから話しまーす。
理:わたしの面白さはどうでもいいです。では改めて紹介いたします。ピアニストの
音:はーい。
レヴィン(以下「レ」):はい、よろしくお願いします。
理:今日は、わたしたちがまだ接触していなかった「第四世界」の情報も交えてお届けしますので、楽しみにしていてくださいね。
レ:「第四世界」とは?
理:今このトークをお聴きいただいているお客様たちがいらっしゃる世界です。パイプオルガンが存在し、しかもレヴィンさんたちの世界よりもずっと進化しています。どんなオルガン情報が飛び出すか楽しみですね。
レ:それは嬉しい! 楽しみです!
音:さすが食いつきが違う。
【音葉、
理:今日の音葉さんは、黒シャツに黒スラックス。全身黒コーデなんですね。
レ:オトハはやっぱり黒が似合うね。
音:第四世界では、オルガンの
レ:オトハが助手志願(笑)。どんなことをやりたいの? ストップ操作?
音:そうそう。本番中、静かなところで急に大音量にしてレヴィンに泡吹かせたり。譜面めくる時に手が滑って全部落っことしたり。
レ:……あまりリーネルトの古傷を
音:え、リーネルト、まさかの経験済み?
リーネルト(以下「リ」):やったの全部先生ですけど。
音:客席から抗議の声が上がりましたー。助手に罪をなすりつけるなんてとんだ不良奏者ですね。リーネルト、譜面整理だけでなく記憶の整理もちゃんとしてあげないと。
理:え、えーと。第四世界のT・Kさんからの情報によりますと。助手さんの存在って本やネットじゃほとんど出てこないので、実際にコンサートへ足を運ぶ人じゃないと気づかない存在なんだそうです。でもお仕事はけっこう多いんですよね。
ミラマリア(以下「ミ」):それを見て「奏者と助手のブロマンス」を考えるのは作者くらいだけどねー。
レ:助手が二人、左右につくこともありますよ。ストップは両側にありますから。リーネルトはささっと移動して一人でやっちゃいますけどね。
音:俺とリーネルト、二人でやったら面白いだろうなー。
理:T・Kさんによると、「助手二人」も「男性助手」も見たことあるけど、「奏者と助手二人の計三人が全員男性」は見たことがないそうです。
ミ:イケメン三人揃い踏み! 壮観ですね〜!
音:全員、客席に背中向けてるけどね(笑)。
理:オルガニストは女性の方が多いらしくて。たまに男性も見ますが、かなりの高確率で「眼鏡のおじさん」なんだそうです。
レ:あ、僕も「眼鏡のおじさん」ですね。
理:レヴィンさんはまだまだ若いし、すごくカッコいいですよー!
音:そこ、
理:……失礼しました。T・Kさんからの助手ネタをもう一つ。ある教会のコンサートでのお話です。こじんまりした教会で、T・Kさんはオルガンのすぐ近くの客席に座っていたそうなんですが……失礼ながら、助手さんが座るパイプ椅子の、
レ:助手のパイプ椅子。盲点ですね、気をつけないと。
理:座り続けてる時は鳴らないんですが、助手さん、何度も立ったり座ったりするんですよ。で、腰を下ろす度にギイッと音が鳴る。あまりにも
レ:助手にはいつも大変お世話になっています。全てのオルガニストが感謝していると思いますよ。
【リモート・オルガンって何?】
理:さて、次はいよいよお待ちかね!「第四世界のオルガン」についてのお話です。
レ:はい、待ってました!
理:レヴィンさんの世界と比べて大きく進化したのは、やはりコンピューターを随所に導入している点ですね。まずはこちらの映像をご覧ください。
(……
レ:おおっ……!
理:ご覧の通り、ボタン一つ押すだけで、いくつものストップ・ノブが瞬時に出たり引っ込んだりしてくれるんです! ボタンにレジスト(音の組み合わせ)をあらかじめ
音:手で引っ張るのが当然だと思ってたノブが一瞬で出てくるって、普通にビックリするね。リーネルト、あんなに一生懸命操作してたのに……。これ、いずれはリーネルトがいらなくなるっていう話?
レ:リーネルトは必要ですよ!
理:ボタンは無数にあるわけじゃないし、少しのストップ操作ならノブを直接操作する方が早いですよね。何より、ボタンを押すよりノブを引っ張る方がお客様は喜ぶと思います。古き伝統と新しき利便性、両方をケースバイケースでうまく使い分けているんですね。
ミ:一生懸命ストップ操作してる助手さんの姿は美しいですしね!
理:さらに壮観な映像がこちらです!
(……温玉ちゃん再生中……)
レ:す、凄い。これは欲しい。
理:クレッシェンド&デクレッシェンド機能です。このように、足でペダルを踏み込むに従って、ストップ・ノブが次々に出てきて……ペダルを戻していくに従って、次々に引っ込んでいきます。レヴィンさんのように交響曲などを演奏するなら、ぜひ欲しい機能ですよね。
レ:僕が普段やってるのは、足ペダルでパイプに送り込む風量を調節する機能です。第四世界では、足でこんなにたくさんのストップ操作までできるんですね。
音:リーネルト、あんなに一生懸命……(以下同文)
レ:リーネルトは必要ですからね?
理:さらにご覧いただきたいのがこちらです。
(……温玉ちゃん再生中……)
音:これ、カッコいい! エレクトーンのゴツい版?
レ:僕の世界でいう、ポジティフ・オルガン(小型のパイプオルガン)に似てますね。ボタンも足鍵盤もペダルもしっかりある。大きさとしてはエレクトーンに近いけど、見た目がオルガンのようにクラシカルで美しいですね。
理:こちらはリモート・オルガンです! これぞコンピューター技術の結晶!
音:リモートってことは、もしかして。
理:そう! 奏者がステージ上方の壁面やバルコニーではなく、ステージのど真ん中でオルガンを演奏できるんです! リモート・オルガンでの演奏が、リモコンのように電波を飛ばして大オルガンを鳴らすんです。コンサートにいらした方は、奏者がバルコニーの大オルガンを演奏するのかと思ったらステージ上に小さなオルガンがあって、「あれ、期待してたのと違う?」と一瞬ガッカリしてしまうのですが、音が出るのは間違いなく大オルガンの方なのです。
レ:オルガンの
理:大オルガンも持って帰らないと音が出ませんよ(笑)。ところで音葉さん、オルガニストがステージで演奏するメリットって何だと思いますか?
音:客席との距離が近くなるのはもちろんだけど、めっちゃアンサンブルがしやすくなるよね。
レ:なるほど。僕とオトハは鏡が横にあるからお互いがよく見えたけど、もし同じ世界で協演するなら、同じステージでお互いの動きを見ながら演奏できるのは大きなメリットだね。
音:逆に、もしレヴィンとベンカーの協演が実現してたら、ちゃんと音を合わせられたのか疑問。
レ:ピアノとオルガンはけっこう離れてるから、やりにくかっただろうね。オファーを受けた以上は最善を尽くすつもりだったけど。
理:リモート・オルガンのメリットは他にもあります。レヴィンさん、おわかりになりますか?
レ:僕とリーネルトは、いつも二人でレジストを決めてるんです。音を決めるには、弾く人と、オルガンから少し離れた場所で全体の響きを確認する人の二人が必要なので。でもこれがあれば、奏者が一人でステージ上で弾きながら確認できてしまうのでは?
理:その通り! 大正解ですー!
音:またリーネルトが減った。
レ:リーネルト減らさないでください……。
理:さきほど話題に出た通り、助手さんのお仕事は第四世界でもまだたくさんありますので、ご安心ください(笑)。
音:レヴィンの場合、主に譜面整理とか練習場所の片付けとかで必要なんじゃないの?
レ:そ、それも含めて、色々……。
【電子楽譜って?】
音:助手に譜面整理ばかりやらせてるレヴィンに、電子楽譜をお勧めしたくてたまらないんですー。
レ:電子楽譜とは?
音:こういう、タブレットと呼ばれる機械があります。この画面に楽譜を映し出すことができまーす。
レ:楽譜が機械になったの? TV画面を薄くしたみたいに見えるけど……。
音:この中に、楽譜を好きなだけ入れることができまーす。助手に「レヴィン図書館」と呼ばれてる楽譜倉庫の在庫も、スキャンしてごっそり全部入れることができます。もちろんいつでも取り出して見ることができます。演奏しながらめくることもできるし、ペンで書き込んだり消したりも思いのままなんですー。
レ:いいなー欲しいなー。僕の世界にもいつか出てくる?
音:四十年くらい待てば。
レ:それまでオルガン弾けてるといいなあ。
音:これで譜面整理の必要がなくなるね。またリーネルトが消えた。
レ:だから消さないで! 必要なんです、彼は!
音:当の本人は客席でずっと遠い目をしてるし、もう一人の方はさっきからずっと笑い転げてるし。なんか俺、売れない漫才師になった気分。
リ:僕、ちょっと働き過ぎなんでしょうか。しばらくお暇をいただいてもいいですか。
レ:ま、待って。わかった、あとでゆっくり話し合おう。
音:奏者が助手に見限られそうになっております(笑)。
ミ:ゆっくり仲良く話し合ってね〜。そんで良きブロマンスを供給してね~(より良い師弟関係を築いてね〜)。
理:ミラマリアさん、一部「建前と本音が逆」現象が起きてますよ(笑)。タブレットの電子楽譜、練習にはすごく便利なんですよね。紙の楽譜は、曲が増えるとどうしてもかさばるし散らばるので。でも、まだ本番で使われてるのはあまり見ないかも。
音:大事な本番で不具合が起きたら困るし、クラシックの舞台だとちょっと違和感があるってことなんだろうね。みんな古臭いカッコで古臭い楽器演奏してるから。
理:古臭いって(笑)。伝統があると言ってください〜。
音:もちろん俺は古臭いのも好きだよ〜。
理:映えあるクラシック・ピアニストですものね。
音:知っての通り、ピアニストは本番で楽譜を使わない。オルガニストは必ずと言っていいほど楽譜を置いてるし、オケでも指揮者含めてみんな譜面めくりながら演奏してるのに、なんでピアニストだけ
理:クララ・シューマンですよね。シューマンの妻で、天才ピアニストの。
音:そう。彼女が暗譜という「ピアニストの伝統」を始めちゃった。ピアニストは、「どうせ暗譜してるし」という人と、「クララー! なぜーッ!(泣)」という人に分かれる。伴奏の時は譜面OK。めくるための助手を従えて登場する。
理:ピアノ伴奏者と譜めくり助手のセットは、室内楽や合唱などでたくさん見られますよね。
音:俺はもちろん全暗譜してるよ。セトリ(セットリスト)はたまに忘れるけど。
理:忘れないようにしましょう(笑)。譜面もモニターもカンペもないから、たくさん弾く時は曲順を覚えるのが大変ですよね。
音:理音が舞台袖で曲名書いたフリップを
理:舞台袖って、わりと客席から見えちゃうんですよ(汗)。
音:曲名の横に、焼き鳥の絵とお品書きを書いてもいいよ。俺、本番中絶対笑わない自信あるから。
理:なぜ焼き鳥。
音:なんかビール飲みたくなってきた。レヴィン、これ終わったらオンライン飲み会やろう。
レ:いいね!
【しめのごあいさつ】
理:色々あって予定より長引いてしまいましたが、そろそろお別れのお時間です。レヴィンさん、音葉さん、リーネルトさんにミラマリアさん、お聞きくださった皆さまも、ありがとうございました!
音:楽しかった!
レ:いいお話がたくさん聞けました。ありがとうございました!
リ:勉強になりました。あと色々とお騒がせしました。
ミ:リネもお疲れ様ー!
理:どうぞ足元に気をつけてお帰り下さい。皆様、本日のご来場、誠にありがとうございました!
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〈エッセイ〉ピアノとオルガンは現実でも協演できる?
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