異世界への切符 五枚目
門番の案内に付いていき、屋敷の玄関に馬車を止めた。
馬車はそのまま門番の人に預かってもらうことになる。
使用人が出迎えてくれ、直ぐに控室に案内された。
そして、ナビ婦人がやって来た。
自分より年下のはずなのに、その振る舞いは落ち着いて優雅だった。
胸を患っているのもあるのだろう。
常日頃、冷静沈着に過ごせるように心がけているのかもしれない。
「よく、いらしてくださいました。お待ちしておりました」
ナビ婦人がにこやかに、
「……」
「
ナビ婦人が不思議そうに
気になって
「な? 何で泣いてるの?」
私達は慌てた。
「ご、御免。御免。……」
と、涙を拭きながら謝るだけの
「どうしたのだ? 急に? ナビさんがびっくりしているじゃないか?」
と
びっくりした。
いったい何があったのだろう?
私は
ナビ婦人は、お茶を用意して来ると言って席を外してくれた。
私は、戦争の時にナビ婦人に会っているし、帝国時代にも会っているそうだが、私はナビ婦人に強い印象はない。
だから、初対面とあまり変わらない。
だけど、
そして、その後は何度も世話になっている女性なのだ。
工作員としての引退と結婚で、どちらかというと秘密裏に隣国の貴族様の奥方様になって行ったから、簡単に会うことが出来なかった。
ましてや、私への気兼ねもあって、ナビ婦人について話すことはなかった。
幼馴染の様だったと
あの涙を見て、その重みが私にもズッシリと伝わってきた。
「落ち着かれましたか?」
ナビ婦人は穏やかな顔で私達に言った。
この人私より年下なんだよな。
何で、こんなに落ち着き払っているんだ?
「二人とも御免なさい。自分でも知らないうちに込み上げてきて。恥ずかしい」
「
「本当に御免」
「まあ、良いのだ」
「うふふ。仲宜しいんですね」
とナビ婦人。
「ナビさんにも恥ずかしいところ見せた。御免ね」
と
「いいえ。お構いなく。とこで、海は寄ってこられましたか?」
「うん。綺麗だった。僕のいた世界の海とそっくりだった」
「そうですか? では、ナビも
ナビ婦人も私と同じ様な感想を述べた。
ナビ婦人の出されたお茶を飲みながら、そのまま話を続けた。
ただ、荷物だけは先に運んでもらった。
少し世間話や戦争中の話をしてから部屋に案内された。
うーん。
流石貴族様の部屋だ。
ベッドもふかふかだ。
服を着替え、案内された部屋に入った。
「ナビさん。リリィが大怪我した時に、旦那様には大変お世話になりました。そのお礼も兼ねてやってきました」
と
「はい、ありがとうございます。主人は城におりまして、今日は帰りが遅くなるそうです。主人も本についてのアドバイスを頂けて嬉しかったと申しておりましたよ」
「そうですか? お役に立ててうれしい」
「ナビさん。
私はナビ婦人に礼を言った。
「お互い様です。それにしても、リリィ様がご無事で何より。大聖堂では、本当に大変だったそうで」
「うん。まあな」
「それで、リリィを狙ってきたアルキナや帝国皇帝が、リリィの『能力』を狙っているらしく、それが戦争の火種にもなったんですよ」
「ええ、聞いております」
「何とか今回は退けることが出来たけど、今後も帝国皇帝やアルキナの様な奴が出ないか心配なんですよね」
「確かにそうですわね」
「暗殺の暗い道からリリィを引っ張って来られたけど、これから先は僕にどうして良いのかわからない。リリィも自分の『能力』については詳しくわからない。親方様は多少なりとも知ってるかもしれないけど、今は語ってくれない。まあ、聞いてもいないんだけど」
「ですが、そのご様子では、何か感じるところがあるのですか?」
「うん。僕がこの世界に来たのは、リリィが呼んでくれたからじゃないかと思っているんだ」
「まあ。どこにそんな繋がりがあるんでしょうね?」
「やっぱり薄いかな」
「そうですね、わかりませんが。ですが、何か深い縁がお二人にあるのでしょうかね?」
「だといいね。リリィ」
と
「うん。そうだな」
と私。
「リリィさんのお父さんとお母さんが、何かあるのかなと思っているんだ」
「親方様ならリリィのご両親について知っていることがあるかと思っているけど、まだ聞かないようにしているんだ」
と
その後、
「リリィ様」
とナビ婦人は、私の顔を見て語り始めた。
「リリィ様には、きっと大きな使命があるとナビは思います。
もしかしたら、リリィ様では、その片鱗を見せることしかできない様になっているのかもしれません。
そして、多分ですが私も親方様はリリィ様の御父上ではないと思います。
ただ、どんなことがあってもリリィ様は守るとお約束されてたのでしょう。
そのお約束は、リリィ様の父上様と母上様の両方か、あるいはどちらかの方に。
だからこそ、何度もリリィ様の危機に駆け付けて来られたのではないでしょうか?
親方様にとっても、リリィ様のご両親はとても大切な方だったに違いありません。
あれだけ寡黙な方が、リリィ様には熱く語られるのでしょう?
きっと親方様に大きな影響を与えた方なのでしょうね。
それはたぶん、リリィ様のご推測のとおり、母上様の方かとナビも思っています。
もしかしたら、リリィ様の『能力』というのは、神聖な力なのかもしれません。
それは、今は失われてしまった力なのかも知れませんね。
けれど、その力は、リリィ様の中に眠り続けながらも受け継がれているとナビは思います。
リリィ様の母上様は、それを信じて親方様にリリィ様を託された。
その予知の様なことを知って託された。
あるいは、そうせざるを得なかったと思います。
だからこそ、
リリィ様は、一目会っただけで我を忘れるほど思いを向けられたのではないでしょうか?
ナビは、そう思います。
そして、そんなお二人が、ナビはとても素敵で羨ましく思います」
私は、熱く語るナビ婦人の様子を見て、
私が帝国で思い悩んでいる時に、ナビ婦人は
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