第6話 ボンジョノ・パルノ
その男の体は鍛え上げられていた。
大胆に前が開いた服の隙間から見えるのは、厚い胸板………と、胸毛。
そしてバキバキに割れた腹筋と、丸太のような太い腕、身長は2m近いと推測される。
彼の見た目を一言で言うならまさに、『筋骨隆々の大男』であった。
ただし、彼は……………失礼、彼女の場合は……
「もっぺん言ってみやがれクソガキ!!!
誰がおっさんだってぇ!?」
「どぇ!?すんまへん!?」
心は乙女…………乙女?なのであった。
先程まで気絶していたため、寝転んだ体勢のヒョータだったが、怒号を浴びせられすぐさま飛び起きた。そして、状況を把握しようと辺りキョロキョロと見渡す。
「えーと………?あの子らについとるネバネバって俺がくらったやつやない?ハクがやったんか?」
「ん、そしたらあの子達が自分達の………ママ?を呼んだ」
「ちょっと!なんで疑問形なのよ!ママはママよ!心は女の子なのよ!?」
「なのです、胸毛ぼーぼーで青ひげがあるけどママなのです」
「そうだ!!!ち◯こあるけどママだぞ!!!」
「あんた達ママのフォローする気ある!?」
「こらっ!ニノ!
ち◯こはだめよ!ち◯こは!女の子がち◯こなんて気軽に言っちゃだめよ〜?」
「そこ!?注意するとこそこなのママ!?
ていうかママが一番言ってるし!」
「……なんやコントが始まったんやけど………
ようするに、そっち系の人っちゅうことやんな?」
「ん、たぶん」
「オ、オネェの方………ということ、ですかぁ?」
「(あ、この世界にもオネェとかそういう概念あんねや………)
あ〜…………そら失礼なこと言ってもうたなぁ
お〜い!すんまへーん!」
現在の状況、そして大男がどういう人物なのか、なんとなく把握できたヒョータは、ボリボリと頭を掻いた後、大きな声でボンジョノに声をかけた。
「ん?あら、何かしら?」
「さっきはすんまへんでした!!!」
「!…………なんの謝罪かしら?」
「えーと、おっさんって言ってしもうたから……
その子達にとって、あんたはおとんや
女の人扱いせんで……失礼やったなぁって……」
「「「……………!」」」
「……ふふっ!いいわ、謝罪を受け入れましょう。
ま、あたしは女というか、オカマとして生きてるしねぇ……
けどおっさんはだめよ!お姉さんになさい!」
「どぇ!?りょ、了解や!」
「あなた……名前は?」
「んぇ?ヒョ、ヒョータ・アマハルや……」
「ヒョータちゃんね!」
「ちゃん!?」
ヒョータが先程の発言を謝罪し、それを受け入れたボンジョノは、ヒョータをちゃん付けで呼び始めた。
すると今度はボンジョノが、目を少し細め、前にかがむような体勢を取り始めた
「さて………もう少し会話を楽しみたいところだけど………気が変わったわ!デートに付き合ってもらえるかしら?」
「うんえ!?や!それはちょお……」
「!」
「白髪のイケメンくん?」
ヒョータとスピカが始めに聞いたのは、足で地面を踏み込んだ時に鳴った音………まるで地面が破裂したかのような音だった。
そして次に聞こえたのは、鈍い打撃音。ボンジョノがハクを殴り飛ばした音だった。
「――――ふぇ?」
「――――はっ!?」
反射的に、隣で鳴った鈍い音の方に顔を向ける二人。そこには先程のまでいたハクはおらず、下から斜め上に、腕を振り抜いたような体勢のボンジョノが立っていた。
呆気にとられて動けないスピカ、ヒョータも一瞬呆気にとられていたが、上空をすぐに見上げた。
そこには上空に飛んでいくハクの姿が見えた。
「!?ハ、ハク―――『とう!!!』っどわ!」
ハクの名前を呼ぼうとしたヒョータだったが、突然舞い上がった砂ぼこりのせいで中断される。横を見ると、先程までいたボンジョノがおらず、跳躍してハクの後を追っている姿が見えた。
「ハ、ハクーーーーーーー!!!!!」
ヒョータの声が辺りに響く、ハクとボンジョノはさらに奥の森まで飛んでいった。
▼
ヒョータとスピカ、三姉妹達から少し離れた森の奥、そこまで飛ばされたハクは地面に激突。二、三回バウンドした後、大の字に寝転がった。
その後、すぐにボンジョノが跳んでくると、近くで大きな音をたてて着地した。
「…………」
「よっと〜……………このへんでいいかしら?
起きなさい。効いていないのはわかってるわ」
「……そんなこともない」
「説得力ないわよ?あっさり起き上がっているじゃない」
しばらく仰向けに倒れていたハクだったが、ボンジョノの言葉を受けて、体についた砂を払い落としながら立ち上がる。
「全くの無傷……ね、あんたかなり強いわねぇ~あの子達を無力化したのにも納得がいくわ………
でも、少し意外ね………」
「何が?」
「あんたなら、あの子達を倒すくらいわけないでしょう?なぜわざわざ
「………あの子達は、僕達に攻撃してきた……けど」
「けど?」
「まるで殺意を感じなかった……実際、使った武器は足止めのためばかり、電撃のやつでさえ殺傷力はほぼ無かった……」
「だから、あんたも足止め程度にとどめたと?」
「うん」
「なるほどねぇ〜やられたこと以上のことはしないわけね………けど、それは相手に殺意が無かった場合でしょう?
もし、あの子達が殺意をもって攻撃してきたとしたら………あんたはどうしてた?」
「……………………?
殺してたけど?」
『当たり前だろう?』そう、言外に聞こえてくるような………そんなふうにハクは、事もなげに答えた。
その言葉を聞いて、ボンジョノはスッと目を細める。
「ふふっ………やっぱり、あんたはお仲間二人とは違うようね……当たり前のように殺しを選択肢に入れられる人種、あたしと同類だわ」
「そう?」
「そうよ?あんたのお仲間……特に、ヒョータちゃんはいい子ね、育ちがいいのかしら?
真っ直ぐで……穢れを知らない……敵相手にも頭を下げてしまえるくらい、優しい子だわ………あなたは、殺意があったら殺してたと言ったけど、あの子に『やめろ』と言われたら、あんたは殺しをしない………違うかしら?」
「…………まぁ」
「あたしも同じよ?盗賊団なんてやってるけど、純心な娘達の前では、人は殺さないし殺せない……
娘達の前ではね?」
「……………」
「あなたも同じでしょう?だから同類なの………
だから……………場所を変えたのよ?」
「なるほど………お互いの利害が一致したんだ。
僕も、あなたが現れて、殺意を向けてきた時に、どうやってヒョータから離れようか考えたから……吹っ飛ばされて追ってきた時は、丁度いいと思ってたけど……あなたもその方が良かった」
「そういうことよ……さぁ、始めましょうか」
「うん………やろうか」
ブワリと、ボンジョノの放つプレッシャーが上がる。纏う星力の量が膨れ上がったことで、辺りの空気が一変したように感じる。半身で中腰の姿勢となり、肘を少し曲げた左腕を前に、右腕を腰の辺り据えて構えをとった。
一方でハクは目を閉じた。構えはとらず、棒立ちの状態……………しかし、異変はあった。
ハクの体から何かが滲み出てくる。それはゆらゆらと湯気のように、炎のように、ハクの肩から、腕から、全身から………立ち昇る。
赤く、
ハクがゆっくり目を開けると―――――――――
―――――――――――その瞳が妖しく光った。
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