第4話 【守護星晶】は、いずこ?



 宙船そらぶね【アース・トランブルー】


 星型の船首が付いており、青を基調にカラーリングされた船体は、丈夫な木材が使われているため、火の玉が当たったメインマストの上部、直接地面に接した船底以外は無傷と言える。

 船底についても、多少傷ついてはいるが穴が空くようなことはなく、船の命である竜骨も問題はなかった。


 ただし、メインマストの上にあった、【宙船そらぶね】にとっての命と言える――――


「しゅ、【守護星晶しゅごせいしょう】がなくなってます〜!?」

「な、なんや?【守護星晶】?」

「あ、やっぱり無いんだ」

「知っとるんか?ハク。なんやそれ?」

「ざっくり言えば、【宙船】にとって必要不可欠な……人の【星力せいりょく】を必要としない、特異な【星晶】のこと…だよね?スピカ」

「へぇ!?は、はい!そうです!」

「………知らん単語のこと聞いたら、知らん単語が増えたんやけど……

 要は、その大事なもんがどっかいってもうたんか?」

「メインマストの上に固定してあったんですが……

そ、そういえば!プラードンに息吹ブレスを当てられた時に……」

「あの火の玉のこと?………そういえば、当たった時に何か落ちてた………あれが【守護星晶】かな」

「お、落ちた瞬間を見たんですか!?ど、どこに落ちたか、分かりますか!?」

「あっちの森の中に落ちた」


 そう言ったハクが指差したのは、ハクとヒョータが転移してきた森だった。

 木の上に登った際に、アースが被弾する瞬間を見ていたハクは、同時に守護星晶が落ちる様子を目撃していたのだ。


「あ、あの森は……」

「そこまで危険度は高くないらしいけど……

 が出るから、【旅人】とか特殊な職種の人以外は侵入禁止だって」

「せ、せ、星獣っ!」

「旅人っちゅうことは、俺らも入れるんやんな?」

「………そうだね、でも準備は必要。主にヒョータの」

「え?」

「せやな、とりあえずまた【ギルド】に行けばええんか?」

「ん、初心者用の支給品……装備ももらえるらしいから」

「え?え?あの……お二人も旅人の証トレジャー・ライセンスを持って………

 い、いえ!あの!て、手伝って……くださるんですか?」

「ん?おお!もちろんや!乗りかかった船っちゅうやつやで!

 ………ええか?ハク」

「ん、ヒョータとスピカだけじゃ心配だし」

「あ、あ!ありがとうございます〜!!!」









 ハクとヒョータは、共にスピカと守護星晶の捜索を行うことに決め、行動を始めた。

 三人は一度街に戻り、森に入る準備を整えると、再び街を出て、森を目指し草原を歩いていた。


「お、お二人とも……すいません……

私のことなのに、手伝っていただいて……」

「そんな気にせんでええって、ギルドでついでの依頼も受けたんやから、それ手伝ってくれたらちゃらにしようや」

「森に自生している薬草の採取……定番だね」

「(うぅ……お二人とも凄く優しい……)」


 一人では心細かったため、手伝うという二人の言葉にすぐさま飛びついたスピカだったが、『善意に漬け込んでしまった……』と、現在は少し反省気味である。

 実際、二人がギルドの依頼を受けたのは、一度ギルドの依頼を経験するためということもあるが、依頼をスピカに手伝ってもらうことで、申し訳なさそうにしている彼女の気持ちを、少しでも和らげるためだった。


 ちなみに、先程から話に上がっている【ギルド】とは、旅人に対して依頼、つまりは仕事の斡旋をしている機関のことである。ここで新規の旅人・旅団ブリケードの登録や、ランクの昇格や降格なども行われている。

 その他にも、初心者用の武具の貸し出しや、星獣の素材の買い取りなどもあるが………ともかく、このギルドで、ヒョータとハクは依頼を請けたのであった。


「ほ、本当にありがとうございます……

 ところで、その……ハ、ハクさんは………何も武器を持たなくてもいいんですか……?」

「ん、大丈夫」


 ヒョータが初心者用のショートソードと防具を身に着けているのに対し、ハクはスピカが言ったように手ぶらの状態、リュックを背負っているだけだった。


「僕はこの方がいい……スピカのそれは……銃?」

「あ、えっと、はい………一応【星晶武具】になります……」

「(また知らん単語が増えたなぁ……)」

「……もしかして自作?」

「え!?そうなんスピカ!?」

「へぇ!?あ!いえ!その、一から作ったわけじゃ……わ、私に合うようにカスタムしただけです……」

「それでもすごいやろ!」

「そういえば……宙船の損傷や動作の確認も早かった……すごい」

「そ、そんな大層なものでは!?

 む、昔から機械をいじったり、物作りをしたりするのは好きでしたが…////」


 謙遜しつつも、どこか嬉しそうに話すスピカ、その様子を温かい目で見守りつつ、ヒョータは考え事を始めた。


「(さっきハクに、【星力】や【星晶】のことは教えてもろうたけど………

 まだまだ知らんことが多そうや……ほんでもおいそれと、この世界の人には聞けらへんしなぁ…)」


 そんなことを考えつつ、ヒョータは先程のハクとの会話を思い出していた。












 時間を少し遡り、森に入る準備をするため、ギルドに向かう途中、二人は一度スピカから離れて会話をしていた。


『なぁ、基本的なこと教えてくれるんはええけど、スピカとかギルドの人に教えてもろうた方がええんちゃうか?なんちゅうか、現地の人ら何やから…

 ほんで、何でハクはそんな詳しいんや』

『一つ一つ答えていくと………まず僕が詳しいのは、この世界に来てからスピカが起きるまで、街の図書館やギルドで情報収集をしたから……だね』

『宿屋探しやらスピカの看病を俺に任せたんはそのためやったんか……お前が言っとった「しばらく街をぶらぶらしてくる」はそういう意味やったんやな』

『そういうこと……次にこの世界のことを現地の人に聞かない理由だけど………

 僕たちが別の世界からの【転移者】であることをなるべく知られないため……かな』

『知られたらあかんのか?』

『調べた限りでは、過去に【転移者】のような人がいた記録はないけど………話せばギルドとかに不審に思われる可能性があるし、話すことにメリットがない以上、とりあえず秘密にすべき』

『そんなら、正体言わずに聞いたらえんとちゃうん?』

『【旅人の証】を持ってる人……どころか、普通なら子どもでも知ってるようなことを、聞いたとしても?』

『………あぁ〜そら確かに怪しいなぁ』

『ん、そういうわけで、基本的なことは自力で調べてきた。とりあえずヒョータには、【星力】と【星晶】について、簡単に話しとく』

『よろしゅうたのんます!せんせぇ!』

『まず、【星力】について。これはこの世界に生まれたなら誰もが持ち合わせている力………ゲーム的に言えば、魔力みたいな感じ?練習すれば、体に纏って自身を強化することができる。また、魔法のような事象を引き起こすための、動力源と言える力……かな』

『おお!なるほど魔力的なもんか!

 異世界転移っぽいなぁ!』

『次に、【星晶】について。星晶は星力の質量を強化、及び効率よく流すことのできる鉱石のこと。さっき言った、魔法のような事象……炎を出したり、風を吹かせたりする時に、星晶を使うのと使わないとでは、大きな差が出るらしい』

『ふんふん、ようは星力を強うする、強化アイテムっちゅうところやな』

『そうなる。車で例えるなら………【星力】がガソリンで、【星晶】がエンジンって感じかな』

『なるほどなぁ……

 スピカが言っとった【守護星晶】ってなんや?』

『それは……無事に回収した後に話す。

『?……まぁ考えがあるっちゅうことやな?了解や




 ん〜………それにしても気になるなぁ……』

『何が?』

『いや、俺らって……―――――――――』













「どれくらい星力あるんやろ…………」

「へ?せ、星力ですか?」

「ん!?あ、声に出とったか!?」


 回想をしていたヒョータだったが、思わず出た言葉をスピカに拾われ、意識を現在に引き戻した。その様子を見ていたハクは、少しため息を吐き、ヒョータとスピカの会話に割り込んだ。


「僕とヒョータは、しばらく自分の星力の量を測れてない。

 ギルドで測れるけど………訳あって、他の人に数値を知られるわけにはいかないから………あそこは、ギルドの職員に数値を開示しないといけないでしょ?

 だから、今自分達がどのくらい星力をもっているか、把握できてないんだ」

「そ、そう!そうなんや!訳は聞かんといてな!」

「な、なるほど……(な、何で急に星力量が気になったんでしょうか………?)」


 本当は、二人とも星力量を測ったことすらない。だが、【旅人の証】を得る際に、一度ギルドで星力を測らなければならないことを、ハクは知っていたため、しばらく測っていないことにしたのだった。

 一方、話を聞いていたスピカは、『あ!そ、それなら……』と言いながら、鞄の中をあさり始めた。そして、鞄の中から細長い、手のひらサイズのとある道具を取り出した。


「も、もしよければ………こ、これを……」

「ん?なんやこれ?体温計?」

「そ、その……星力の測定ができる……道具です」

「……星力の測定が?………まさか、作ったの?基本的に、ギルドとか大きい組織にしか置いてないって聞いたけど」

「は、はい……恥ずかしながら自作です……

 そ、そこに数値が出るんですが……じ、自分で試した時は、ギルドで測った時と同じ数値だったので………た、たぶん正確に測れると思います……」

「おお!ほんなら俺らの星力を測れるっちゅうことやんか!なぁハク!」

「……うん

(以前、ギルドで星力測定器を見かけたけど、あれは大きな水晶……いや、星晶に星力を流し込んで測るものだった……

 たぶん、これは違う測り方をする上に、もし本当に正確なんだとしたら……気軽に持ち運べるレベルにまで軽量化されてる。

 この子、技術者としては、ひょっとしてかなりの才能が………)」

「ほんで?どうやって測るんや?」

「あ、えっと………





 く、口に咥えていただければ………

 測り終わったら『ピピッ』っと音がなります」

「……体温計?ちゅうか、それスピカも使ったんよな………?」

「?………………!?

 だ、大丈夫ですよ!?ちゃ、ちゃんと洗ってありますからぁ!?き、汚くないはずです!?」

「あ!すまん!大丈夫やから!?俺も変なこと言うてごめんな!?」

「とりあえず測ろうか」

「いつの間に!?もう咥えとるし!」


 二人がワタワタとしている間に、スピカの手から測定器をとり、すでに口に咥えていたハク。

 スピカが『はわ……はわわわわぁ……』などと言って悶えていたがスルーしていた。


「『ピピッ!』ん、測るの早いね………」

「お!どうやった?」

「は!?わ、私は数値を見ないように、離れておきますね!?」

「ありがとスピカ。えっと―――――――――



 ………………………………………なるほど」

「何や?俺も見てええか?」

「いや、とりあえずヒョータも測って」

「お?おぉ、わかった。ほんなら―――『はい』

もごぉ!?」


 自分の数値を測った後、ハクはヒョータに測定器を手渡………さずに口の中にそのまま突っ込んだ。


「は、はわわわわぁ!?(か、間接キス!?)」

「もが!?もごぉ!」

「はいはい動かない………『ピピッ!』測れた」

「ぶはぁ!?何すんねん!?」

「………なるほど」

「いやなるほどやなくてな!?」

「いいから結果見て……だった」

「なんやねんもう………ええっと?



 ……………………………………あ〜

 そういう感じなんやなぁ……………」

「(だから、【旅人の証】が初めからポケットに入ってたのか……)」

「ま、それならしゃーないわ………

 

 おーいスピカー!終わったで~!」

「は、はい!」


 スピカに測定器を返した後、三人は再び歩きだし、いよいよ森の入り口へとたどり着いた。


「さ、いよいよやな!絶対見つけるで!【守護星晶】!」

「ついでに薬草採取もね」

「よ、よろしくお願いします〜!」


 こうして三人の旅人達は、【守護星晶】の捜索と、薬草採取の依頼を行うため、森の中へと入って行ったのだった――――――――――














 追記


 星力測定について、特に星力を鍛えてこなかった、一般的な成人の星力量の基準値を『100』とした時、ヒョータ・アマハル、及びハク・カライの星力量は―――――――








―――――――――――共に『0』

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