第37話 仮面の魔人2

 最初に突撃してきたのはゴブリンだった。


 予想した4時間より少し遅れ戦端は開かれた。ゴブリン達は魔狼に跨り、奇声をあげて棍棒を振り回す。しかし盾を装備した重装長槍部隊に届く前に長槍で貫かれ、残った魔狼も長槍の餌食となっていった。


 で、私はというと北門前に展開した守備隊の上から戦場を見下ろしている。位置的には陣形の第2層の真上なので友軍の弓矢や魔法に当たることはない。


 ゴブリン達も次々と長槍に貫かれ、部隊の前はゴブリンの死体で壁ができそうだ。そしてこの壁は私達にとって有利に働く。


 ゴブリンどもは何かに取り憑かれたように真っ直ぐ突っ込んで来た。私から見たらむざむざ死にに来ているように見えるほどだ。というかこれも教団の狙いの一つなのだが。


 そして間を置きオークどもがやって来る。そのオークの部隊に混ざって一際大きな1つ目の巨人が3体。あれがサイクロプスか。無駄に大きい単眼はどう見ても弱点だよね。動きが巨体の割に素早いらしいけど、動く前に仕留めてしまえば問題ない。


 ピリリリリィィッッ!


 レオン様が笛を鳴らすと部隊の入れ替えが始まる。そう、今回この部隊を指揮しているのはレオン様なのだ。私がいる限りレオン様には指一本触れさせませんとも。


 死体が増えれば後続のオークも動きを阻害されてしまう。その間に矢に貫かれたり魔法の餌食になったりと容易く葬られていく。そのため交代はスムーズに行われた。


 私もやっちゃうよ。あのサイクロプスは2体くらい私がやった方がいいだろう。1体くらいは訓練がてらお任せしますけどね。


 私は2体のサイクロプスめがけ悪魔の手を差し向ける。射程は私の見えている範囲なので余裕で届くんだよね。あの目って確か高く売れるらしいので首を切断するか。


「切り裂け!」


 魔力の刃がサイクロプスの首を跳ねる。切り離した首を悪魔の手で掴み、回収。もう一体のサイクロプスは目の前で仲間の首が飛ばされたのに全くの無反応。やっぱり周りが視えていないね。とりあえずもう一体葬るとしますか。


「切り裂け!」


 さらにもう一体のサイクロプスの首を跳ねてしっかり首を回収する。首がお土産なんて普通にサイコパスな気もするけど、高く売れるらしいしレオン様も喜んでくれるだろう。


「なんだ!? いきなりサイクロプスの首が弾け飛んだぞ」

「お、おい。サイクロプスの生首がこちらに向かっているんだが……」


 後ろで待機していた部隊がその様子を目撃してざわつく。そりゃそうか、私の能力を全員が知っているわけじゃないからね。


「な、なんにせよ大型モンスターが2体も減ったんだ! こいつは勝てるぞ」

「だな、今回も生き延びられそうだ」


 最も警戒すべき大型モンスターが減れば友軍の士気も上がるというものだ。私はさっさと回収したサイクロプスの首をヘルクス子爵に届ける。するとヘルクス子爵はどういうわけか頭を抱えていた。


 やはり魔物とはいえ、首をお土産はサイコパス過ぎたのだろうか?

 別に次はお前だ、っていうメッセージを込めたわけじゃないんだけどな。


 サイクロプスが2体倒れ、勢いづいた守備隊はオークの進撃を容易く防いでいた。


 ゴブリンの死体の数だけ障害物ができているわけだから、身体の重たそうなオークじゃ乗り越えるのはさぞ大変だろう。実際避けて通ったところを槍で貫かれ、止まっているところを矢で射抜かれとまともに攻められていないのだ。


 しかし魔物共に後退の2文字はなく、考え無しに突っ込んでくる。この戦いが終わったらヘルクス子爵にその理由を教えるきっかけができるだろう。


 戦闘開始からはや2時間。昼過ぎに始まった戦闘は殆ど終わりを迎えていた。残るはランドタートルと数体のオーガか。


 そして地響きを立て、ランドタートルがその姿を現した。ランドタートルは名前の通り巨大な陸亀なんだけど、そのやたらと硬い甲羅が厄介な魔物だ。竜ではないのでブレスを吐くとかの能力はないが、その圧倒的なタフネスとパワーの前には大盾による防御など無力と言っていい。


「おい、亀の上に人が乗っているぞ!」

「なんだ? 変な仮面をつけてるな。それに赤い翼か。新手の魔物かもしれん」


 うん、確かにいるね。レオン様の過去編に赤い翼の魔人というのが出てくるけど、きっとそいつだろう。そしてこいつこそレオン様の左腕を奪った張本人なのだ。


 しかしわからないのは随分登場のタイミングが早いことか。レオン様の過去編はレオン様の14歳のシーンしかないからこれがシナリオ通りなのかわからないんだよね。


 それにしてもあの魔人、随分と身体が小さい気がする。私とそう変わらないんじゃなかろうか。魔人だから幼くても強いんだろうけどさ。


 とりあえず先にランドタートルをなんとかしてしまおう。いくら硬かろうが動けなくしてしまえば倒すのは難しくない。


 私は悪魔の手をランドタートルめがけて飛ばす。爆発で大きな穴を掘って身動きできなくしてしまえば後は簡単だからね。上手く行けばひっくり返るかもだし。


 しかし、信じられない事が起こった。


 私の悪魔の腕が爆発を起こす前に弾き飛ばされたのだ。遠くてわからないが、感覚的に弾き飛ばしたのは平手打ちだろう。それもオーガ並みの手のサイズだ。だがその手がオーガのものじゃないのは間違いない。私の操る腕の最大サイズとほぼ同じ大きさの腕。もしかしてあの魔人のものだろうか?


 なるほど、レオン様の左腕を奪っただけあって生半可な相手じゃなさそうだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る