第33話 ヘルクス子爵
戦いが終わった後は遺体処理という結構な重労働が待っていた。なにせ倒した魔物の数は100や200どころじゃないらしい。それにオークやミノタウロス、ジャイアントボアといった魔物の肉は貴重な食糧だ。高級食材もあるので放っておくわけないか。
巨大なリアカーを引く兵士達がやって来て次々と魔物を載せていく。ミノタウロスとかはめっちゃ大きいのでその場で解体して載せていった。ジャイアントボアも同様のようだ。持ち上げるのなら私の神と悪魔の手で手伝えそうだね。
「おい、あんた見ない顔だな」
作業を眺めていた私に声をかけたのは指揮をしていた騎士だった。側近らしき兵士を後ろに引き連れている。見た感じナイスミドルな人だね。
「はい、旅の治癒士でございます。つい先程この街に着きまして」
「こんな小さいのに旅の治癒士なのか。そういや空を飛んでいたし、強力な魔法を使っていたな。どこから来たのだ?」
もしかしてこれは取り調べなのだろうか。でも普通に考えたらジャイアントボアを拘束したりミノタウロス吹っ飛ばす力を持った相手の素性は把握したいよね。
「ウォルノーツからです」
「そりゃまた随分と遠くから来たな。アルノーブルへはどういった要件で来た」
「ここアルノーブルでは魔物の大群が度々押し寄せているそうですね。それで私の治癒士としての力が役に立てばと思い、やって参りました」
本当はレオン様に会いに来たんだけど、そんなことバカ正直に言えるわけがない。
「それと、まだ子供のようだが歳は?」
「十歳になりました」
「親は?」
「いません」
「……もしかして平民なのか?」
貴族の子供がこんなとこまで一人旅するわけないじゃん。
「そうですけど?」
「……あり得ん。言葉遣い、物腰、そしてその魔法。こんな10歳の平民の少女なんて普通いないんだがな。明らかに教育を受けた子供だろ」
あ、そっちか。まぁ、中身は成人した女性だからね。同年代の子供と比べたら流石に大人びるかな。
「そう言われましても……。もしかして街の中に入れてもらえなかったりします?」
「いや、これだけ戦果をあげてくれたのに追い出すわけなかろう。職務上聞かないわけにはいかんのだ。それで、この街に留まって力を貸してくれる、ということでいいのだな?」
「はい、そのつもりです」
できればちゃんと雇ってほしいかな。そのへんは多分大丈夫だと思うけど。
「そうか、それはありがたい。自己紹介が遅れたな。私は第5部隊隊長を務めるアドニス·ド·ヘルクス子爵だ」
偉そうだな、と思ったら貴族様か。名乗ったということはちゃんと雇ってもらえそうだね。
「テアです。ウォルノーツの治癒院で働いていました」
「テアか。よろしく頼む。是非君をルーセル辺境伯に紹介したいと思う」
「本当ですか!? ありがとうございます」
私は深々と頭を下げる。
ルーセル辺境伯といえばレオン様のお父上じゃないですかー!
つまりこれはレオン様とお近づきになるチャンスなわけだ。これは実に嬉しい。
「今日は疲れただろう。宿を取り休むといい。明日の昼過ぎに騎士団の南派出所まで来なさい。そのときに報奨金も渡そう」
「報奨金もらえるんですか?」
「勿論だ。参加した冒険者や義勇兵には支払うことになっている。君は活躍してくれたから期待していいぞ。その代わり倒した魔物は全て領主であるルーセル辺境伯の物になるがね」
ああ、なるほど。素材の奪い合いになるのを防ぐ意味もあるのだろう。だから活躍に応じて魔物の素材を売った利益を分配と。確かにその方が無駄な争いは起きないかな。
「わかりました。明日昼過ぎ伺います」
「ではな、待っているぞ」
子爵はこの後魔物回収の監督に入ったようだ。なら私は宿を取って少し休むことにしようかな。なんだかんだで結構疲れたんだよね。
* * *
アルノーブルの宿に一泊した次の日、私は約束通り騎士団の南派出所へと向かっていた。場所は南門のすぐ近くなので、街に入ってすぐの所だった。派出所があるのは襲撃が頻繁に起こるためで、すぐに出陣できるよう各方面の門の近くにあるそうだ。確かにこの街は大きい。領主邸の近くとかだと襲撃への対応が遅れてしまうもんね。
その南門の方に広大な敷地があり、宿舎や訓練場もあるそうだ。そこで騎士も兵士も訓練をして街の防衛のために精進しているという。
騎士団の派出所はかなり大きな石造りの建物で、なかなか立派なものだった。ここは一般兵も在籍しているらしく、そして一般兵には治安維持の仕事もある。そのためこの南派出所にはそういった報告や相談の窓口があるのだそうだ。
受け付けをしている職員は男性の人で、事務専門なのか鎧ではなく制服を着ていた。
「あの、すいません。ヘルクス子爵様に昼過ぎに来るよう言われていたテアという者です」
「テア様ですね。お待ちしておりました。ヘルクス卿をお呼び致しますので、あちらへかけてしばらくお待ち下さい」
「はい、わかりました」
職員は私に座って待つよう伝え、奥の扉へと入っていった。ルーセル辺境伯に引き合わせてくれるためにここで待っていてくれたのだろうか。もしそうならなかなか買われたものだけど。
そして待つことしばし。扉の奥から綺麗に磨かれた鎧を着込んだヘルクス子爵がやって来た。
「待たせたね。予想したより早く来てくれて助かるよ。では行こうか。馬車を用意してある」
「ありがとうございます」
そして私はヘルクス子爵とその従者の人たちに促され、外で待機していた馬車に乗せてもらった。よくよく考えたら馬車に乗るの初めてだ。確かお尻痛くなるんだっけ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます