第31話 魔神の血再び
宿場町で一晩過ごし、次の朝に旅立つ。町の中では徒歩だけど、外に出れば神と悪魔の手に乗っての移動だ。だから外に出てからの移動は早く、既に領境の森林にまで来ていた。ここを越えればアルノーブル領。その先にはレオン様がいるのだ。あー、なんかもう今からドキドキしてきちゃったよ。
話によると、この森林は魔物が多いとか。強力な魔物もいるため冒険者もあまり近づかない場所で、通常アルノーブルへ行く場合はこの道ではなく森林を迂回するのが一般的だそうだ。
私も迂回すればいいんだろうけど、この道を突っ切った方が早いんだよね。私は空も飛べるから空を飛んでいけばいいし。
そんなわけで私は今森の上を空の散歩中なわけである。で、まぁお約束というべきなのか、空の魔物に遭遇しちゃってたりするんだけどね。
「クェェェッッッ!」
鷲のような顔をした図体のでかい空の魔物が翼を広げて私を威嚇する。確かグリフォンとかいう空の魔物だ。それが3体。なんか凄く強そうなんだけど。
そのうち一匹が素早い動きで私に襲いかかった。足の爪を広げており、掴むつもりなのだろう。避けようと移動してもグリフォンは私に合わせて軌道を修正してくる。
「ええい!」
避けるのは無理と判断し、神と悪魔の手でグリフォンの急襲を受け止める。カウンターで逆に捕まえてやりたかったけど、受け止めた瞬間既に離脱に入っているようだ。反撃は難しいかも。他に2匹いるのだから連携を取られるとまずいかな。
「クェェェッッッ!」
私を襲ったグリフォンの嘶きで他のグリフォンも高度を上げ始める。まずい、3匹がかりで一気に仕留めるつもりか。空中戦は不利だ。森の中へ逃げるしかなさそうだね。
方針を固め、私は森林の中へ逃げ込む。木を隠れ蓑にして撒くしかない。私の移動速度では追いつかれるのが目に見えているからね。
林道を無視して雑木林の中をランダムに進む。ランダムといっても目指す方向だけは間違えちゃいけないんだけどね。それでもグリフォンは私を見失っちゃいない。そりゃそうか、いくら子供でも小動物よりは大きいもんね。鳥の魔物が地上の獲物をそう簡単に見失うわけがないか。
「これはちょっとまずいかも。素直に遠回りしときゃよかったなぁ」
そしてこういうときにもお約束がある。それも残念なお約束が。
そう、突き進んだ先で大量の小汚い緑色の小鬼どもに遭遇したのだ。確かこれってゴブリンとかいうやつだな。ゲームじゃ雑魚なんだろうけど、私にとっては危険極まりない魔物だ。
「地上のゴブリン、空のグリフォンか。なにこの終わってる状況は?」
愚痴ったところで状況なんて改善しないんだけどね。それでも愚痴りたくもなる。命がかかってるんだから。
「ギェギェギェッ!」
ゴブリンどもは私を見つけると一斉に取り囲むように動き始めた。唯一の逃げ道は空だけど、そこにはグリフォンがいる。私が上昇すればたちまち襲って来るな。
地上でゴブリンと一戦交えるには数の不利が大きすぎる。それに隙をついてグリフォンに急襲されたら回避は困難だ。かといってグリフォンと空中戦とか勝てる気が全くしない。
「これは詰んだかな……」
ゴブリンどもが私に向かって歩き始める。こうなったら強行突破だ!
「どいてぇぇぇっっ!!」
私は敢えて数が多く見えている場所に特攻をかける。そして悪魔の手による魔法球攻撃を繰り出した。魔法球の威力は凄まじく、命中したゴブリンの頭を吹き飛ばし、身体に穴を空けたりして始末していく。
そして私の前方のゴブリンは蜘蛛の子を散らすように逃げ、道を開ける。よし、これなら逃げ切れる!
ドスッ
突然私の右腕に激痛が走った。
「痛っ!」
不意の痛みに身体をよじらせる。そのせいで身体のバランスが崩れ、私を支えていた神の手が離れた。そして私の身が投げ出され、その身を木で打ちつける。
「うあっ!?」
ぶつけた痛みに悶え、次の行動が遅れる。落ちた私にゴブリン達が近づいてくるが、痛みですぐには動けない。そして、眼の前までゴブリンが迫って来た。
「グェゲゲゲゲ!」
ゴブリンどもが私を見下ろし嫌らしい笑い声をあげると、手に持った棍棒を振り上げた。
「あ……!」
抵抗しなきゃいけないのに、恐怖で私の身体が動かない。軽いパニックなのか、どうしていいかわらなかった。
(コロセバイイ。カンタンダロウ? 殺意ニ身ヲユダネレバイイノサ)
またあの声だ。ああ、そうだった。私の力ならこんな魔物を殺すくらいわけない。
ニゲラレナイナラ全部殺セバイイ。
ナンデコンナ簡単ナコトガワカラナカッタンダロウネ。
「邪魔」
私を中心に闇が弾けた。その闇は波動となりゴブリンどもを吹き飛ばす。腕に刺さった矢はその闇の波動で跡形もなく消滅した。さっさと治してしまおう。神の手の治癒ならこんな傷をすぐに治る。
「破滅の爪牙」
悪魔の手があちこちの虚空を引っ掻く。すると引っ掻いた空間に赤い爪痕が生まれた。その爪痕は赤い衝撃波となり一直線に突き進んでいく。その射線上にいたゴブリンのみならず、木をも切り倒していった。
その後も赤い爪痕を幾つも作り、ありとあらゆる方向にいたゴブリン達の命を狩り尽くしていった。なにせ触れたモノ全てを切断してしまうのだ。ゴブリンごときの命を狩るなど草を刈るのと大差ない。
全てのゴブリンの命を狩り尽くした頃には辺りの木々など殆ど切り倒されており、森林特有の暗さなど微塵もなかった。グリフォンは既にいなくなっている。破滅の爪牙を見て身の危険を感じたのだろう。
「……また呑まれちゃったな。でも仕方ないよね、こうしなきゃきっと私は死んでいたんだし」
魔神の血の囁やきに耳を傾けてしまったのは拙かったかもしれない。そしてはたと私の身に起きた変化に気づいた。
「赤い、羽根……?」
いつの間にか私の背中には赤い蝶のような羽根が生えていた。そして私はこの羽根を知っている。
「これって、テアがラスボスになったときに生やした羽根そっくりじゃんか……!」
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