第30話 宿場町にて2
「ぶ、部分的に感覚が麻痺……?」
「ええ、痛いの嫌でしょ? はい、これでもう痛みはないはずだよ」
神の手の能力で相手の痛覚を麻痺させる。どういうわけか治療の力に分類されているんだよね。ゲームの世界だし別にいいんだけどさ……。
「ほ、本当に感覚がねえ!」
「じゃ、まずは曲がった骨を真っ直ぐにするから」
私は男の腕が真っ直ぐになるよう神の手を操って調整する。そして治癒の力を発動しせた。男の腕が淡い光に包まれ腫れが引いていく。そしてほんの数秒程で骨はくっつき腫れは完全に治まった。
「はい、くっつきましたよ。まだ少しの間腕は痺れて動かないけど我慢してくださいね」
「すげぇ! あんた相当腕のたつ治癒士なんだな」
腕がくっついたことで男が思わず笑みをこぼす。いかつい強面なのでいい笑顔とは呼びたくないけどね。
「それよりアルノーブルの話を聞かせてもらいたいですね。あそこに座って話しましょう」
「あ、ああそうだな。せっかくだし面白い話もしてやるよ」
空いてるテーブルを指差し座って話すことを提案する。男は快諾し、私達はお互い向かい合わせに座った。
「まずはアルノーブルの状況から教えてやるよ。あそこは今魔物の大群と戦争状態になっていることは知っているか?」
「ええ。それっていつからなのかは知らないですけど」
「もうかれこれ2年になるか。確かに昔から魔物の多い地域ではあったが、それでも魔物がこんなに頻繁に街を襲う事自体非常に珍しいことだ」
「そうなの?」
「ああ、そうだ。そもそも魔物といっても種類の違う魔物同士が群れる、なんていうことは普通あり得ないんだよ。2種類の魔物がいれば大抵はどちらかが捕食者でもう片方は餌になるのさ」
なるほど、食物連鎖というやつか。そういや設定上はゾーア教団が裏で糸を引いているんだったっけ。
「つまり裏で糸を引いてる奴がいるってことよね」
「まぁ、そうなるな。それが何者なのかなんて誰も知らねぇし、そういうふうに言われているだけなんだけどよ」
黒幕については私も原作知識で知っているけど周りは知らないよね。もっと有益な情報はないものか。
「今のところ魔物たちも精強なアルノーブル軍によって撃退されちゃいるけどな。特に辺境伯の御子息のレオン様だよ。まだ12歳だっていうのに前線で大変な活躍をされているらしいな」
おおっ、レオン様の情報キター!
私は思わず机に乗るように前のめりになった。
「うんうん、それでそれで?」
私は早く知りたくなってその続きを急かす。男は乗ってきたな、と少し顔をニヤつかせた。
「つい最近、といっても先週の話だがな。鈍重なオークどもの大群に街が襲われて苦戦を強いられていたらしいが、レオン様の指揮する部隊が来るとたちまち戦況をひっくり返したらしい。レオン様は次期剣聖とも言われている方だからな。精神的支柱になっているんだろうよ」
おおっ、さすがレオン様。実力があって人望も厚いイケメンの活躍はこの宿場町にも届いていたんだね。私としても非常に嬉しいことだ。
「嬢ちゃん随分ご機嫌だな。レオン様のファンというやつか? まぁ、普通なら平民がお近づきになれる相手じゃないが、嬢ちゃんならアルノーブルで重宝されてお近づきになることもできるかもしれんな」
「え? 私顔に出てました?」
「わかりやすいほどにな。そうそう、アルノーブルにはちょっとした怪談っていうかそんな話もあるんだが聞くかい?」
怪談?
そんな設定知らないなぁ。よし、ちょいと聞いてみることにしよう。
「是非」
「そうかい。これは先月の話なんだが、その時も魔物たちの襲撃があったんだ。もちろんそれは撃退したんだが、そのときに前線で活躍した女騎士が連れ去られてな。6日後にその女騎士はふらふらになりながらもアルノーブルに帰ってきたらしい。当然保護されたんだが、衰弱が酷くてな。結局翌朝には亡くなり、手厚く埋葬されたそうだ」
この時点で既に怪談な気がする。翌朝には死んじゃうほどに衰弱していたのに、どうやって帰ってこれたんだろうね。魔物の多い地域なはずなのに、襲われずに帰ってこられる可能性があるとも思えないし。
「で、埋葬された次の日に事件は起こったんだ。なんと、死んだはずの女騎士が墓から這い出てきて街の中で暴れたらしいんだよ」
「ゾンビかなんか!?」
あのゲームにもアンデッドはいたっけ。詳しいアンデッドの設定は設定資料集にもないからよくわかんないけど。
「ゾンビじゃねーな。その女騎士は黒いオーラを発して高笑いをあげながら人々に襲いかかったそうだ。身体の一部も変化してて超人的な身体能力を持っていたらしい。真っ昼間だったからヴァンパイアでもねえ。女騎士は剣聖の辺境伯によって倒されたけど原因不明なんだとよ」
屍人蘇りの怪談か。十中八九ゾーア教団の仕業なんだろうけどね。恐らく魔神の血を与えて実験したのだろう。どこまでが実験なのかはわかんないけど、教団はあの薬で死んだ人間が息を吹き返すことを把握していたのだろうか?
そもそも、私が廃棄されたのは教団側が死んだと判断したからのはずだ。つまり、あの時点では把握していなかった可能性が高いということになる。なぜなら把握していたなら屋外に放置はしないだろうからだ。少なくとも監視体制ぐらいはないとおかしい。
「どうした嬢ちゃん、怖い顔してるぞ」
「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事しちゃいました」
もしも教団側が私が生きていることを知ったら奴らはどう出るのだろうか、という懸念はある。しかし実験体全員の顔や特徴を把握しているとは考えにくいよね。
うん、杞憂だ。私の心配はきっと杞憂に終わるはずだよね。私は不安を飲み込むように口の中に溜まった唾液をゴクリと飲み込んだ。
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