第4話 廃棄少女テア4
私は川へ向かって一直線に低空飛行中だ。腕に支えられての飛行は楽チンでいい。そう思うと、なんか恵まれているんじゃなかろうか、と少し思えてしまう。しかし境遇だけを見れば不幸としか言いようがない。
森の中は思ったより静かで小鳥のさえずりさえ聞こえる。木漏れ日も差して明るいし、たまに兎っぽい小動物も見られる。今はワイバーンのお肉があるので狩る必要も無いから見てて微笑ましい気持ちさえ浮かぶ。川を見つけたことで心の余裕が生まれたのだろう。
そして今、私の目の前には川が流れていた。割と流れが緩やかだし、誰もいないから後で水浴びをしよう。その前にまずは火が必要だ。川の周辺は小石が大量に転がっており、燃えるものもない。ちょっと焚き木を拾って来ないとだね。
焚き木に向いているのは乾燥した木だ。理想を言えば立ち枯れた木が1番向いているけど、森林の方は瑞々しい木々ばかりで枯れ木のかの字もない。仕方ないのでその辺の落ちてる木や草を使おう。
それらを集め、石を組んでかまどを作る。別に本格的じゃなくてもある程度空気が通ればなんとかなるだろう。後は悪魔の手の性能頼みだ。
「燃えろ」
するとぼわっ、と大きな炎が巻き起こる。
「うわっ!」
ちょっと想定外で思わず尻もちをつく。下が石なのでちょっと痛い。でもまぁ、火は着いたので良しとしよう。さて、ワイバーンのお肉を焼くぞ。しかしどうやって切ったらいいんだろう。
「切断」
悪魔の手で手刀で切ってみた。すると押し潰して切ったような感じで切れた首が左右に跳ねる。細かく切るのは無理そうだ。でも切れたし、とりあえず小さい方を焼こう。不衛生だが長めの木の枝に乱暴にぶっ刺し、遠火になる位置に立てた。これで焼けるかな?
「よし、焼けるまで水浴びしよう」
どうせ誰も見ていないし、と服を脱ぐ。生まれたままの姿というやつだ。まだ9歳なので腰のくびれも胸もない。まさに幼稚体型というやつか。
「きゃっほーい!」
腕に捕まり、川の中へ入る。タオルとかないので水の中で身体を撫で、汗や汚れを洗い流す。水がひんやりと気持ちいい。水も澄んでいるし、飲んでも大丈夫なのだろうか?
一般的に川の水って飲んじゃいけないんだけど、飲まないと脱水で死ぬ。背に腹はかえられないか。川上の方に身体を向け、手で水をすくって飲んでみた。
「うんまっ!」
冷たい水が喉を通り抜け、胃の中へ入っていくのがわかる。五臓六腑に染み渡る、というやつだ。もう一口飲む。先程よりは衝撃が少ないが、やはり美味い。うーん、良きかな。さて、そろそろあがるとしよう。腕に掴まり、川の中を歩く。そして火の焚いたところへ駆け寄って身体を温めた。
「うーん、陸に上がると風が冷たいな。ちと寒いかも」
よくよく考えたら身体が乾くまで真っ裸か。でも気持ち良かったしまぁ良し。まだ身体が半乾きだけど、火に当たっていれば服ごと乾くはず。着てしまおう。そう考え服を着ることにした。
しかしこの服地味だな。まぁ、庶民だしこんなものか。一応下着も簡単なパンツのようなものがある。そしてスカートだ。そういえば幼少期のテアってどんな顔なのだろう。記憶だと結構な美少女だったけど。川の水に反射して見られないだろうか、って見えてたらさっき見てるよね……。
しばらくして待望のワイバーンのお肉が焼けたようだ。首をまるごとなんて原始時代のアニメに描いてあるようなお肉だ。つまりこれはご馳走お肉。
「いただきます」
思い切ってワイバーンの肉にかぶりつく。そしたら皮がむちゃくちゃ硬かった。歯が立たない。
「毟る!」
無性に腹が立ち、悪魔の手を使って乱暴に皮を剥がす。じっくり焼いたおかげで綺麗にとれた。そしてその下にはしっかり焼けた待望のお肉!
「今度こそいただきます!」
はむっ。
もぐもぐ……。
「や、柔らかい……。美味しいけどちょっと味が薄い。塩が欲しいな……」
うーん、時代設定とか考えたら塩は結構高級品な気がする。海があれば塩が取れるのに。
でもさすがは(多分)高級お肉。味は確かに薄いけど、コクはあるし肉汁も溢れるほどジューシーだ。じっくり玉ねぎに漬け込んで、小麦粉をつけて焼いた国産お肉に負けない柔らかさ。焼きたての香ばしさも食欲を引き立てて薄味でも十分美味しい。あんなナリでなんでこんなに肉が柔らかいのか全く分からないけどね。いいんだ、美味しんだから。きっとそういう設定なのに違いない。
「いつかこのお肉で焼肉パーティがしたいわね」
そう、出来れば愛しのレオン様と焼肉パーティ!
タレの付いた口周りを私が拭ってあげるの。そしたらレオン様が「ありがとう」って照れながら頬を染めて微笑んで……!
「ぶはっ! ラブラブお肉ぅっ!」
いかん、妄想が捗る。鼻血が出るかと思ったわ。さぁ、いつまでも妄想にふけってないで人里を探さないと……。
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