第4話

 休日、俺は駅近の美容室に訪れていた。


「お、お洒落な感じでお願いします」


 俺なんかがお洒落なんて言葉を使っていいのか。


「了解でーす」


 少しチャラそうなお兄さんから気の抜けた返事が返ってきた。

 ……この人が切るんだろけど大丈夫かな?


 不安になりながら、終始無言でどんどん髪が切られていった。


「完成でーす」


 一時間ぐらい経ち、完成する。


「おお……」


 鏡に自分の姿が写る。


 いつも千円カットだった。でも、今日は明莉に言われるがままに美容室に行ってみた。


 鏡に写る俺は別人のようだった。


「ありがとうございます」


「はーい」


 技術疑ってすみませんでした。

 俺は心の中で謝りながらお店を後にした。



◆◇◆◇◆◇



 美容室を出た俺は、次にショッピングモールに来ていた。

 と言うのも、明莉にどうせなら服も買ってきたら、と言われたからだ。


 とは言ったものの、服屋はどこだろう?

 ショッピングモールなんてなかなか行かないから、全く分からない。

 というか、服を自分で選んだことなんてないんだが?毎回、親父が買ってきたやつを着てたから。


 まずは地図を探さないとだな。


「やめてくださいっ」


「えぇ、良いじゃんかぁ」


「三人とも可愛いし、ちょっとだけ遊ぼうよぉ」


「だから、嫌だって……」


 視界の端に男二人に言い寄られている女性三人が入った。


 俺の足は自然とそちらに進んでいた。


「あれ、樋山さんじゃん」


 俺は女性三人の中央にいた樋山さんに声を掛けた。


「…………」


 五人が俺の方を向く。


 樋山さんを含めた五人が“誰?”とでも言うように首を傾げる。


 待て待て。


「樋山さんは知らないフリしたらいけないだろ」


 人違いみたいで恥ずかしいじゃん。


 というか女子二人も同じクラスなんだけどな。

 陰キャの顔なんてわざわざ覚えないか。


「……この声、もしかして間宮くん?」


 樋山さんが目を少し見開く。


「いや、どこからどう見ても俺だろ。間宮海翔だよ」


「ごめんね。髪型が変わってたからすぐに気づかなかったよ」


 あ、そっか。いつも目元隠れていたからな。

 それなら気づかなくても仕方ないか。


「それで、困ってる?」


 遠目から見てたから聞くまでもないとは思うけど。

 俺は樋山さんにだけ聞こえる声量で聞いてみる。


「そう見えないなら眼科をオススメするよ。というか、この猿たちしつこいんだよ。いつもは簡単に追い払えるのに……」


 樋山さんは毒を交えながら俺の質問に答えた。


 困っているのか。なら、助けたいところなんだけど……


 何も考えてなかった。知り合いの樋山さんが困ってそうだから、何となく行ってみたけど被害者が増えただけでは?


 警察呼ぶ?


「凄い!イメチェンしたの、間宮!?」


「えっ?」


 隣から急に話しかけられて困惑する。


「間宮っち、垢抜けたね!」


「ええ?」


 さらに、もう一人からも話しかけられて驚く。


 陰キャの俺にとって二人は眩しすぎて後ろにジリジリ下がる。

 でも、二人は興味津々のようで距離は開かない。


「さっき雫と二人でコソコソ話していたけど、仲良い感じ?」


「もしかして付き合ってたりー?」


「「違う」」


 要らぬ誤解が生まれそうですぐに否定したら樋山さんと重なってしまう。

 それを見た二人はいっそうニヤニヤしだす。


「知らなかったなー」


「しずちゃんも教えてくれたら良かったのにー」


 聞く耳ないかよ。


 あ、というか、そんなことしてる場合じゃ!

 三人ともナンパされてるところだった!


 俺は男二人に向かい合う。


「あ、あれ?」


 でも、そこには誰にもいなかった。


「さっきの二人ならどっか行ったよ。無視されたのが嫌だったみたい」


 隣から樋山さんが笑顔で教えてくれた。


 そっかあ。良かった。

 俺はそっと胸を撫で下ろした。


 助けに入ったものの、小心者でした。

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