第3話

 樋山さんが三年生のイケメンに告白されてから数日が経った。

 その間に、樋山さんが告白されることはなかった。彼がフラれたことで自信をなくした人が多いようだ。


 かと言って放課後の例の集まりがなくなることはなかった。


「ここのパフェって美味しいのかな?」


「俺が食べたことあるわけないだろ」


 今は二人で雑談をしていた。

 話題は最近できた駅前のカフェ。


 意外なことに樋山さんの愚痴は三日ぐらいで鳴りを潜め、それ以降は談笑していた。

 この数日で樋山さんのことについて少し知った。


 どうやら、樋山さんは毒舌なだけであって根は優しいようだ。

 基本的に人の悪口は聞いてない。いやらしい目で見てきた男に毒を吐く程度だった。


「あ、ごめんね。ボッチの間宮くんに私ったらなんて酷いことを……」


 ……これは、本心ではなく、いじりだな。

 友達とのやり取りに近い。

 友達ではないけど。


「良いんだよ。俺には可愛い妹がいるから」


 俺は胸を張って答える。


「それは虚しくない?」


 樋山さんにジト目で見つめられて、俺は視線をそらした。

 その様子に樋山さんは小さく笑った。


 確かに、妹に縋っているのは虚しいな。

 友達募集するか。


「はあ、今日も良い感じにストレス解消できたよ。じゃあ今日は解散しよっか」


 隣に座る樋山さんが腰を上げた。

 そのまま樋山さんは屋上から立ち去って行った。


 一人残る屋上。グラウンドからは部活動生の声が聞こえる。


 樋山さんとは軽口を言い合うぐらいには仲が深まった。

 でも、やっぱり友達ではないと思う。


「よし」


 俺は決意した。



◆◇◆◇◆◇



「ただいまー」


 家に入るとすぐにトタトタと足音を立てて明莉がやってくる。


「おかえり!」


 可愛らしい妹がお出迎えしてくれる。

 それだけで俺の心は満たされる。


「……今日もあの人といたんだね」


「う、うん。ただ話していただけだよ?」


 でも、最近は少しだけ暗い表情をするようになっていた。樋山さんの匂いを嗅ぎ取ったときにだ。

 どうやら明莉は樋山さんの匂いを嗅ぎ取ることができるらしい。そして、それがあまり快くないらしい。


 まあ、すぐに元に戻るから触ないようにしている。


「あ、明莉」


「なに、お兄ちゃん?」


 俺は屋上である決意をした。

 それを明莉に相談することにしたんだ。


「俺、友達作りたい」


 そう思ったのは別に樋山さんに笑われたわけではない。

 わけではないんだけど友達を作りたいと思った。


「うん」


 明莉は一つ頷いた。


 少し静かな間が生まれる。


「どうすればいい?」


「……あ、作り方を知りたいんだね」


 明莉が苦笑を浮かべる。


「そうだね。髪切るのはどうかな?」


 髪かあ。最後に切ったのはいつだっけ?

 2ヶ月前とかだったような。今は目が隠れるぐらいには前髪が伸びている。

 陰湿だなあ。俺は自分にそんな感想を抱いた。


「おしゃれにしてもらったら自信とか付くんじゃないかな」


「そっか!そうするわ、ありがとな明莉」


 自信つけて積極的に話しかけろ作戦か。良いな。


「カッコよくなって彼女とか作っちゃダメだからね?」


「いや、できないから」


 髪切ったら凄いイケメンでした!なんてラノベみたいな展開にはならないから。


 とりあえず友達を作る。

 そして、笑いやがった樋山さんを見返してやる。

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