タイトル不明
@eigenji
第1話
「こんにちは。私もそれ好きなんですよ!気があいますね」
露程も思っていないことを数秒ほどで片手でもっている端末へ書き込み、端末に相手がさきほどの露程も思っていない文字を確認することを待つ。
数秒、数十秒、数分・・・。もう書き込みはないだろう。
私は端末を静かに机に置き、顔をあげた。顔をあげると
目の前に大きな窓があり、外にはたくさんの人が窓の外を歩いている。たくさんの人はこちらに人がいないかのように顔や目を向けず、ただ目的地へと歩いて行くのだろう。私は窓の外の人に目線が合わないように、ただ無意識を装って一呼吸おき、目線を上へ向ける。何かを考えている、だから私は目線を上にあげたのだと。特定の人がみているわけもない、各地域にはどこにでもある喫茶店の店内で、私は振る舞っている。
ほぼいつものことである。いや、このいつもというのは、生まれてからのことではない。つい1年ほど前のことだ。
私はこの喫茶店の近くの会社に勤めている。会社の玄関から歩いて3分。とても近い。こんなに近いのでは昼食以外でも寄ってしまうのも無理はない。
私はこの会社が初めてではない。何社目かである。何社目かであるかは忘れてしまうほど、いろんな会社を転々としている。むしろこの会社で働いているのが一番長いくらいではなかろうか。
さきほど、昼食前に上司から取引先への提出する書類のことで指摘され、修正案を検討していたところ、上司が昼からは急遽休みをとるという話を盗み聞きし、早速私は早めの昼食を勝手にとることにしたところなのだ。
いつもより三十分早い食事は格別に気分がいい。私は呼びベルのボタンを押し、従業員を呼んでいつもの定番であるサンドイッチとコーヒーを注文する。注文したいつもの定番が私の席に届くまでの間、個人でもつ小さい端末で、異性と出会うことができるはずのチャットサービスで淡々と思ってもいないことを書き込んで、直接出会うことを目標にしているのだ。目標にしてはいるが、この目標は達成できたことがない。出会いまで到達したことがないのだ。メッセージは淡々と事務的な会話しかしない。必要最低限のこと以外は話さない。顔もかっこよくない。その3点がそろっていれば、普通は誰も近づきたくないだろう。私だってそちら側ならそう思うだろう。
サンドイッチとコーヒーが届き、きりがよいところでチャットが終わり、顔をあげ窓の外をみて、そこからコーヒーを少し飲んでから、サンドイッチを食べはじめる。私のいつもの流れである。今日は訪れたのが三十分早いが、サンドイッチとコーヒーが提供されるスピードは変わらないし、店の中が大きく客数が異なるわけでもない。しかし私は会社の昼食の時間より早く訪れているので、今日は長くこの喫茶店に残ることができるであろう。店の中でたいしてやれることは少ないが、会社の昼食時間の終わりまではまだ十分時間がある。
ひとまずサンドイッチを食べ終わってから、小さい端末を使ってどう時間を潰すかを考えることにしよう。私は目線を上に向けたまま、鼻から空気を吸い込んで、一呼吸をし、瞬きをしたのち、サンドイッチを食べるために下へ目線を向けた。サンドイッチは厚いハムとたまごをパンに挟んだランチタイム限定のサンドイッチだ。私は3つあるサンドイッチのうち1つをなんとなく左手で掴み、口の中に運ぼうとした。
何かこちらをみているような違和感を覚えたため、窓の外を見るように少しだけ顔をあげた。
何か がいる。
私は左肘を机におき、手を口元に当てた。
タイトル不明 @eigenji
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