一章


携帯のアラームより前に目を覚ますと、単調な一日が始まろうとしている事を感じる。

白いカーテンから朝の光が透けている。

そっと窓を開ければ、目を射す朝日と共に律の風が吹き込んでくるだろう。

しかし、その秋らしいやわらかい風を頬に受ける気分にはなれない。


簡単に朝の洗顔と歯磨きを済ませる。

真面目一辺倒に見える様に薄く化粧をする。

ブラウン系のアイシャドーをぬり、軽くマスカラを伸ばし、ピンクベージュの口紅を最後にぬる。

黒く艶やかな長い髪を一つに結ぶと、白のシャツに黒のタイトスカートとパンプスを履いて出勤する。


外に出れば、誰もが太陽の下に平等に晒される。

少しこの陽の光を眩しく感じて目を細めると、グレーシルバーの車に乗りこみ職場に向かう。

車がスピードを上げると、賑やかな大通りにも関わらず窓から見る街の景色は、こんなにも地面に頑丈に建物が建っているのにどんどん後ろに引っ張られながら伸びてゆく。

地球は自転をしているのに、びくともそれを感じることができない。

この不思議な現象を地球に生きている以上私達は享受しているが、物理を勉強してこなかった私には未だにこの謎は解けない。

早速、大通りの信号に引っかかる。

ひとつ引っかかれば、時速60キロで走っていれば、大体次々と引っかかってゆく仕組みになっているようだ。


多種多様な人間がこんなにたくさんいるにもかかわらず、交通ルールを守るという共通意識の下で繋がり、これだけの人が今同じ方向に進んでいる。

ぼんやりとこの光景を眺めている。

少し苛立つ気持ちを抑え、私は淡々とブレーキとアクセルを交互に踏みながら車を操る。

マンションから20分もこの行為を続ければ職場に辿り着く。


佐枝 歌奈 27歳


5年前より文化会館で、事務兼イベントスタッフをしている。

今のところ、この仕事にこれと言った不満はない。

ただあるのは、まぁこんなものだろうという自分の現状に対して、少し諦めにも似た気持ちだ。


職場の事務室のドアが開いた、8時10分丁度、館長の出勤時刻だ。

「おはよう」というが先か、荷物を置くが先か。

そういうなり、彼は珈琲メーカーに直行していく。


「おはようございます」そう返す私達3人を一瞥し、珈琲を味わう。

これが彼なりのスタイル。

「佐枝、今日はなんか面白そうなニュースはあったか」、

「いいえ、今日は朝のニュースのチェックは未だです」

「だめだな。良い年なのだから、それくらいのことが出来なくてどうするのだね」

「すみません」

「いいか、男とニュースはよくチェックしておけ、そして結婚は博打だぞ」と忠告にも似た話をする。

そう、ワイシャツに緑のギンガムチェック柄のズボンをはいている事からも、彼がかなりの個性の強い上司だとわかる。

その割に仕事に対しては保守的なのが、いつも私には矛盾を感じさせる。


伝統的な使い古されたアイディアを形にしたり、その中でもめげずに隙をつき私なりの提案や新企画をまとめたり、素晴らしい演奏家やパフォーマーを調べたり誘致するのが仕事だ。

しかし、仕事の大半は、会場を市民のための練習会場としてカルチャースクールに貸し出す事や、地域の祭りやイベントの手伝いだ。

あと、あるとするならば、この上司の嫌味やオヤジジョークに適度に相槌をにこやかにうつこと。

そして、隠しているつもりなのだろうが、この甘ったるく見つめ視線を交わしあう若い男女の同僚達に対して気付かぬふりをすることだろう。


しかし、ガラス張りの明け透けな狭い空間に4人でいるこの空気感は、なかなか息苦しくもある。

そして同時に思い知らされてしまう、自分の孤独を。



一日の仕事を終えてお酒を飲んでいる。

酔いが回るといつも同じ所で思考回路がループしてしまう。

現在、恋人もなくただ生きていくのに必要な仕事をこなすために淡々と生きている。

いつからだろう。

こんな乾いた気持ちになっていったのは。

きっとあんな熱い気持ち、あんなに誰かを激しく乞う気持ちはもう自分にはないだろう。

ありったけの恋の熱情をおそらく私は使い果たしてしまったのだろう。

きっと将来はこのまま年老いてゆくのかも知れない。

それもわるくないのかも知れない。

最近はそんな風にさえ思えてくる。



けれど、何かが頭の隅で引っかかっている。

忘れられない恋の残り香が、私の中で残火としてチリチリと燃えている。

そんな感覚がどうしても離れない。


この残火を私にもたらした彼の事を思い出すたびに、不思議に思う時もある。

たんに飽きられたのかもしれないとも思う。

いや、そう考えるのが普通なのだろう。

27歳にもなると、現実が周りの入れ知恵と共に見えてくるものだ。

彼とは急に連絡が途絶えた。

本当に会話が盛り上がっていて、いつものようにすぐに返信があるだろうと思っていたのに、急にプツリと止んだ。

いや、私のせいなのだろうか、今は分からない。


そしてその間、記憶の奥底から彼と交わしたメッセージのやり取りがふと浮かんでは消えていく時がある。

朧気な記憶と、強い想いが相互に絡まりあっている。

まるで湖面に強い月光をまっすぐに投射させて、月の光を閉じ込めたように。

漣のような波紋により揺ら揺らと永遠に捕まえられない実体のない感覚のようだ。





私には長年続けていることがある。

ノートに文章を思いつくままに書いてゆく事。

それは、時に詩だったり、創作する短い文章だったり、短編小説のようなものだったりだ。

落ち着きのない私の内面を表すように書いている。


どういう経緯で書きだしたのか。

私は、学生の時から映画が好きで、映画に携わる仕事に就きたいと思っていた。

そう思いながら、結局今の仕事に落ち着いている。

いつか映画の脚本を書いてみたい、それは今も変わらず持っている気持ちだ。

そんな気持ちを抱えていたころ、彼、真崎 昂との繋がりが始まった。


始まりはインターネットの海の中の偶然の出会い。

たまたまあるアプリに登録し、タイミングが合い知り合った存在に過ぎなかった。

まさか、こんなに長い期間連絡が続き、私の感情を大きく揺らし、人生を左右することになるなんて思いもしなかった。



初めてのやり取りは、他愛のない世間話だったと記憶している。

5年前の5月、桜の花びらが散ったあとの新緑の季節。

社会人一年め、映画業界で働きたいという夢から逃げ出し、なんとか現実に適応しようと日々緊張している。

私は求める世界と現実の生活の狭間に落ち、結局心に従わず生活という現実を取ったのだという、何とも言えない敗北感を自分の中で抱えていた。

そんな時、ストレス発散に誰かと話したいと思った。

この寂しさや虚しさをさらす勇気はなかったが、何かで気持ちを繋げていたいと思った。


そして始めたのが、携帯アプリでの匿名でのメッセージのやり取り。

彼の前に何人かとやり取りしたが、3日と続かなかった。

なんだかつまらなく感じたり、感じられたゆえの事だろう。

5人目くらいだろうか、適当にクリックした相手だった。


「こんにちは」からのはじまり。

「なんの仕事してるの?」と彼。

「普通に事務、イベント系の」と私。

「僕も事務だよ、車のる?」

「乗るよ?」

「僕は車の運搬を指示してドライバーさんに運んでもらう人員の手配とかサポートとかそういうことをしているんだよ」


「へー、たくさんの人の都合を合わせたり文句聞いたり毎日大変そう」


「そうなんだよ、わがままな人もいて大変だよ。

でも環境もいいし、これさえ我慢すればやりがいがある」と、パンダのスタンプがいりまじり返ってくる。


「へー、じゃあトヨタとかに勤めてるの?」

「まさか!」

「愛知の人って大半がトヨタで働いてて、トヨタ車に乗るのが鉄則なのかと思ってた」

「そんなわけないよ」



何となく彼のもつ空気感や明るさと、正直さ、会話のテンポが心地よかった。

昂にしても私と合うと感じたのか話題が尽きない。

そして、気づけば3か月ほど、日常の会話や冗談などを送りあっていた。

彼に会いたいという気持ちもあったが、なんだか、言い出せずにいた。

それは、彼には長く想いを寄せている人がいたから。



ある時、恋の話になった。

「彼氏は? 」

「いないよ」

「どうして? 」

「さぁ、もてないからじゃない?  」

「まぁ、それもそうだな」

そんな冗談のやり取りが続いた。



「本当はどうして? 」

「言いたくない、私は恋愛が怖いから」

しばらくの間があった後、返信があった。

「僕もだよ、でも幸せな恋愛だったな」

「ふーん、いい恋愛したんだね、そう思えることって稀だよ」

「そうかもね」

「で、何があったの?」

「初めて付き合った人に、浮気されて振られたの」

「あ、ごめん、そんなやつ止めて正解」

しばらくの間を置いたと思う。


「そっちは?」

「言いたくない」

「ずるい」

「でも、まだ彼女を愛している」

「そっか」

たしか、そんなやり取りをしながら胸がズキっとしたのを覚えている。



それから2週間他愛のない会話が続いた。

そして、ある日のこと。

「そういえば、昔何になりたかった?」

ドキリとした。

私は小さい頃も今も夢は変わらない、物語を作ること。

特に、何かのきっかけがあったわけではない。


映画が好きな子供だった。

映画や本の世界に心を飛ばせていれば、その間だけは、嫌な現実を見なくて済むから。

一種の防衛本能だろう、少しでも希望をもって生きていきたいという生への執着でもあったのかもしれない。


返事を返すのに、少し時間がかかった。

自分の甘く柔らな部分を容赦なくえぐられたらどうするのだろうという恐れと、彼ならば、何か心に抱えていたこの靄を少し軽くしてくれるかもしれないという期待がせめぎ合っていた。


しばらくは迷ったが、思い切って話すことにした。


「物語を書く人になりたかったなぁ」

「今からでもできるんじゃない?」

「うん、書いてはいるんだよね、でも才能ないし」

「みんな言うよね、そういう事。でも僕はそれを決めるのは自分じゃない

と思う」

「どういうこと? 」

「例えば、歌奈はその作品を人に見せた事はある? 」

「ないない、怖いもん、どう思われるかわからないし」

「全然だめだよ、スタートしてないよ」

「僕は好きな漫画家がいたとして、面白いとか、その人の持ってる感性を求めてたら、だんだん読みたいという衝動的な気持ちが高まる」

「そして、その人自身の構築する世界に引き込んでほしくなる」

「それができる人が、才能あるっていうんだと思うんだ」

途切れ途切れに、何個もメッセージを少しでも早く届けてくれようとする彼の気持ちが嬉しかった。


「確かに私もそう思う」

「漫画みたいにダイナミックに絵や文章ですべてを伝えることもすごいけど」

「表現する過程において、景色の隅々まで、心の僅かな機微を表情やしぐさで表せる人や、独特の緻密に構築された空気感を持つ人って何を読んでも繊細な優美さがある」

と急いで返事を返してしていた。


「へぇ、意外と食いついてきたね」

ニヤリと笑うスタンプ。

「やっぱりそれなりには本を読んだり書いてるの?」

「人並には」

「僕は、その人並みにはとかの謙遜は信じないよ」

「ねぇ、なにか書いているものを見せてよ? お願いだから」

「長いの? 短いの?」

「どっちでも、ただ歌奈らしいのが読みたい」

少し躊躇ったが、勇気を出すことにした。

「わかった、ちょっと待ってて」





時の砂


時は移ろう

指の隙間から時間の砂粒が零れる

多くの時、歓喜のとき惜別の涙

この砂の中に多くの想いが溶け込んでいる


この砂粒を、小瓶の中に詰め込む

せめてこの祈りを、想いを詰め込んで

忘れないように


そして、また新たな時の移ろいを感じた時

そっとこの小瓶の想いを解き放つ


新たな風に砂を運んでもらうため

風とともに想いはゆくのだろう





「歌奈、正直にいうよ、僕は文章ってよくわからない」

「でも、歌奈は書き続けていく方がいいよ、綺麗だ」



はじめて、人に心の繊細な部分を認められた気がした。

自分に才能があるのかさえも、運があるのかさえも何もわからない、けれど素直に嬉しいと思えた。

これだけで書き続けて行けるとさえ思えた。



「どうして夢を追いかけなかったの?」

「経済的なこともあるし、どう動けばいいかわからない」

「本当に進みたいなら、情熱のままに突き動かされない? 」

返す言葉がなかった。

そして、映画に携わる仕事がしたかったが、大して努力してこなかった自分、時間の流れを甘く見ていた自分、怖気付いた自分。


心の安全地帯であるこの夢が壊れた時、何を支えに生きていけばよいかわからないという、

何よりの恐怖に足がすくんで動けなかったことを見透かされた気がした。


「じゃあ、昂はどうなの?」

「僕には、夢を追えない理由があるんだ」

「どうして?」

この些細な喧嘩と沈黙を境に、2週間連絡が途絶えた。



2週間はとりあえず待ってみよう。

そう思い、待ったが何の連絡もなかった。

私は、日常の仕事にも集中できず、とても混乱し彼に落胆し傷ついていた。

こんなことなら、いっそのこともう彼の連絡先を消そうとした矢先彼から連絡が入った。


「元気?」

彼から連絡がきた。

それも、突然に。

私はこのタイミングにとても驚いた。

怒りもあった、何故今まで連絡もなかったの?

と言う思いもあった。


けれど、一呼吸おいて尋ねた。

「何があったの? 」と返すと、

「家族が病気になって、いろいろあった」

私は驚いてしまった。

この2週間で彼にあった変化に、どう返事をしたら良いかわからなかった。


「そっか、大変だったんだね」

「大丈夫なの?」

「もう手遅れらしい」

心配になり電話に切り替える。


いろいろストレスが溜まっていたのだろう。

久々の連絡にもかかわらず長時間電話で話した。

瞬時に前のように、時間が、空気が戻ったようだった。

いかに、彼が父と折り合いが悪かったか、夢を反対され潰されたかという怒りと、寂しさのような感情もあるのだと伝わってきた。


そして、電話を切る前に、

「心配だね、気を落とさないで?」

「なんて言えばいいかわからないけど、とにかく支えるから」

「ありがとう」

彼と心が繋がった気がした。


その後も、途切れ途切れではあるが、彼との連絡は繋がっていた。

彼は、仕事と彼の父が入院する病院の往復に忙しそうだった。



けれど、当時を思い出しても今でも気にかかることがある。

「歌奈、今何歳?」

と突然話を振られた。

不思議に思った、22歳と23歳で会話していたのに……


「え? 22だよ?」

「俺、今24だよ」

私は違和感がしたけれど、いつもの冗談と、疲れが溜まっているのだろうと特には気には留めなかった。


それから暫らくたった頃、彼から連絡があった。

「親父が永眠した。穏やかだったよ」と。

私は、何とも言えず、ただ、

「ご愁傷さまです、お疲れ様でした、安らかに」

というメッセージを送った。

彼からは、「ありがとう」と返事があった。



実は、私の父はもっと早く亡くなっていたので、家族が亡くなると、悲しむ暇もなく事務続きや葬儀に追われることを知っていた。

そして、彼の悲しみも理解できているつもりでいた。



その一週間後、彼から

「会わない?」と連絡があった。

私は、返事をした。


「会いたい」

「でも、どんな服がいいかな? 」

雰囲気を明るくしたくてわざと書いた文章。

彼からは、

「俺は、服にはあまり興味がない。似合えばなんでもいいよ」



最近まで僕と自分を表していた彼が俺に変わっていた。

彼の父が亡くなった後で大きな心境の変化でもあったのだろう。

ただ、私は今までのテンションを維持する事しかできなかった。

彼は尚も続ける。

「オシャレって、醸し出すものだよ。

人格、生き方、癖がにじみ出る。

服は単にその表現方法の一つの手助けに過ぎない」


何となく、考え方や文章まで大人びてきたような……


やっぱり父親という、大きな大きな防波堤であり、超えるべき壁と言う存在を失うということは、男性に取り大きな変化なのだろう感じた。


とにかく、混乱しながらも話を繋ごうと思った。

「へぇー、意外と詳しく人を見ているんだね、服ってより人格重視? 」

「当たり前。

表情、しぐさ、言葉、間に全てがでる。

このタイミングがちょうどよく感じることが、色気であり粋なんだよ。

服なんて清潔感さえあれば何でもいいよ」


急にどうしたんだろう。

違和感も感じるが、相変わらずパンダのスタンプや所々から彼の癖が伝わる文章なので、彼本人だとは感じる。



そして、彼と会う約束をした。

2週間後に私と彼の中間地点である大阪梅田駅で。

けれど、約束が実現することはなかった。

約束の三日前またしても連絡が途切れたからだ。



27歳、最近の私は車でラジオを聞きながらドライブすることが多くなった。



この日も海岸線で車を走らせていた。

一帯に工場と倉庫が並びその隙間に狭い海が覗いている。

その真ん中を左右4車線がひらけている、割とスピードを出せる道だ。

その道をある程度の好きな速度で運転しながらラジオを聞いている。

ラジオの何が好きと問われれば、軽快なおしゃべりと流行りの音楽、仕事にも役立つし新しい流行も人の考えも同時に耳から入るこの感じが好きだ。



ある日の午後3時のFMで男性パーソナリティーが喋っている。

「いやぁ色気ってね、 俺は若い頃は、表情や仕草、言葉や、喋る間の空気が何となくその人のだすカラーだと思っていたんですよね」と言うと、

相手のパーソナリティーが、

「なにそれ? お洒落系の話じゃなくて、人としての色気の話? 」と茶化す。

「そうそう、このタイミングが合うことが呼吸とか感性が合うってことだよ。

お互いに高めあっている感じがすることが粋なんだよ。

服なんて一種の擬態だよ、カメレオンが色変えるのと同じだって」と語る。

「でたー、また語りだしたよー」

そんな合いの手の入った軽妙なやり取りが続いている。



私は耳を疑った。

こんな珍しい考え方をする人がほかにいる?

少しの引っ掛かりと波紋のような心の動揺。

きっかけは偶然にして些細なことだった。



急いでマンションに戻る。

さっそく先程の番組を検索する。

日曜の午後3時からのFM、いくつかの番組情報があらわれた。

よくわからない、彼が有名な人なのかさえも。

ただ名前を頼りに探して行く。

やがてたどり着く。


番組名 疾走するまま

パーソナリティー

真山 爽 



違う、私の記憶によると彼は確か昂と名乗っていた。

こういう人たちは芸名を使うことも多々ある、彼もそうなのかもしれない。

偶然からの興奮、そして、勘違いかもしれないという冷や水を浴びせられたかのような、そんな両極端の思いが私の中に湧き起こる。

不思議に思い、この真山 爽で検索をかけるとSNSをやっていて日々の考えや番組宣伝などの配信を行っているようだ。

簡易的なプロフィールしかない。



真山 爽 

大学卒業後、一般企業に就職するがラジオDJへの夢を追い上京。

現在は日曜3時よりの、疾走するまま」において活躍中。

誕生日 1991年11月22日

血液型 A型

出身地 愛知県

趣味  旅 バイク 



そしてもう一つ私の気持ちを高まらせたのは、彼が1991年生まれだと書いていること。

これは当てはまる。

そして、バイクと旅という趣味も。

何度もやり取りをしては出てきたキーワード。

よく色々な旅の話や写真を送ってくれていた記憶がそのまま写真と共に鮮やかに蘇る。

美しい景色の写真、おいしい食べ物の写真、そしてあの景色……

けれど今はこの気持ちにも記憶にさえ蓋をしよう。

彼という記憶の時間にまるで鳥籠の中の鳥のように閉じ込められることが怖いから。


ささやかな抵抗を試みる。


けれど、昂だとしても爽だとしても本人かどうかはわからないが、

とりあえずこの爽なる人物の番組を聞いてみることには決めた。

一週間の猶予を自分に与えることにした。


パソコンを閉じる前に、ついでにネットニュースを見て回ることにした。

面白いニュース、政治経済、芸能などたくさんのニュースがごちゃ混ぜになり情報の洪水として一気に押し寄せてくる。


近年はいろいろな情報が世の中に溢れかえっている。

たくさんのSNSを選べる。

自分なりにどの種類を選び改良していくか、何を書き何を載せるかでどれだけの集客をよべるか、または、その数を自分の価値だと思い込む風潮さえある。

それは、人間力とでもいうようなセンスを問われているような気さえする。

現代に生きる以上は、このインターネットという独特であり、個人でも仕事でも使う見えない回線を通すこの引力に絡めとられ逃れることはもうできないだろう。


人はいかにこれを使いこなすか。

個人としてのモラルが試される非常に難しい果実を手に入れたのではないか。

大きな大衆の意志という流れに逆らえば、偏屈とみなされる。

何を考え何を選び何を信じ何を支えに生きれば良いのかさえ分からなくなり、時々何もかも投げ出し叫びだしたい衝動に駆られる時もある。



今日はデモで撃たれて死亡した学生のニュースを見た。

きっと彼は政府のやり方や意見を捻じ曲げて伝えるメディアに対して、正しい意志を持ち正当な怒りに燃え抗議を表現したかったのだと思う。

不幸にも、弾圧を鎮める政府側の流れ弾に当たり亡くなったのだと。


もし神様がいるならば、心正しく生きる人間を贔屓して平気で罪を犯し続ける人間を罰してくれるだろうか。

いづれにしてもすぐに出る答えではない。

人の人生の時間は長い人も短い人もいる。

その人生において何があり、その影響で心と言動がどう変わるのかさえ本人でありえない私が知る由もない。


勿論、今回のような事件では、どちらが悪いかは本当の深い意味において私には全く判断できない。

ただ、彼が亡くなったことに対してのうっすらとした残念な気持ちはある。

だが、その政府に対して、悪い人間に対しての感慨も憤りも特にあるわけではない。

しかし、彼が殺人という行為で熱い気持ちが摘まれたことは理解できる。

彼と政府がどう悪行と善行を積んだかはわからない。



ただ、私には昔から漠然と思うことがある。

人間は人生のどこかでは犯した罰が何かで返ってくるのだろうと思う。

人を通し何かの出来事を通した現象で。

これは生き物に課せられた自然の流れと制裁だと思う。

神と言う存在が創り上げたシステムではないだろうかと。



私にしては珍しく真剣にこんなことを考えていた。

時計を見ると18時をさしている。

夕飯を作ろうと思いキッチンにたつ。

今日はおなかも空いているし、心が温かくなるものが食べたい。 今までサツマイモやカボチャという野菜は甘くて苦手だった。

けれどどうだろう、年を取って丸くなってきたからか味覚の変化か、

最近は甘い食材を使って料理をするようにもなった。


今日はサツマイモのスープを作ろうと思う。

かといって大した腕があるわけでなないけれど。

サツマイモを蒸してペースト状にする。

これだけで大地の蜜にも似た滋養に溢れた甘い香りが漂う。

これに牛乳を加え少しのコンソメと塩コショウを味付けにしめる。

そして、サーモンをオリーブオイルとレモン果汁でソテーしたメインと少しの付け合わせ。

こんななんでもないけれど、手作りの滋味あふれる手作りの料理が最近好きだ。

体に滋養が溜まり、素材から生きるための力やエネルギーをもらっている

気がするからだ。




明日から仕事だけれど、眠ろうとするればするほど眼が冴え渡る。

何か飲もうかな。

ホットワインにしよう、私はあまりお酒は好きではない。

けれど寝付きが悪い時に少し飲む。

赤は私には渋くてキツい。

スッキリ爽やかな白の方が好きだ。

けれど、最近はロゼを飲む。

飲みやすい上に、シナモンスティックを浮かべるのに少し赤い方が合うからだ。

少し温めたらちょうど飲み頃になる。


何となくカーテンを開けてみる。

夜風と鈴虫の鳴き声が心地良い。

秋の夜風がすこしずつ飲むワインに火照らされた体に心地良い。

虫はどうして短い期間に命の叫び声をあげるんだろう。

今を盛りと、青春の短い瞬きを凝縮させた命なのだろうか。


このきれいな鳴き声に耳をすませ、体に風を感じ、鼻はシナモンの香りを嗅いで、味覚は少し酸っぱく苦い液体を味わっている、視覚は窓から見える夜景を。

五階だからたいした景色ではないけれど、それでも、眼下には明かりのついた家やマンションが溢れ、上を見れば丸い月が微かに潤んで霞んでいる。

今日は少しだけ、彼との距離と謎が縮まった気がして神経が興奮していた。

けれど、このいつもの景色を含む五感に少しだけリラックスしたらゆらゆらとやわらかい眠気が訪れ始めた。



夢は私にやさしい。

やわらかいブランケットに体を包まれ眠る至福のひと時。

今だけは何も考えずただ温かな自分の体温と鼓動を感じている。

安心して眠れる。


いつの間にか、静かに眠りに落ちていた。

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