腐れ子息に転生したけど何がなんでも処刑ルートを回避したい
冬藤 師走(とうどう しわす)
プロローグ:悪役転生
第1話:壺
「ぷーくっく! ほら、ちゃんと壺を磨けよ! 一つでも汚れが残ってたらパパに言いつけてやるからな!」
「ひっ……精一杯磨かせていただきますので、それだけはご勘弁を……!」
ボクの一言でメイドの顔が青ざめ、涙目で必死に手を動かしてお気に入りの壺を掃除する。
下等な身分の人間をこき使うってちょう楽しい!
パパはいつも、ボクやその家族のことを「特別な人間なんだ」って言ってる。
神様に選ばれた人種? なんだから何をしてもいいんだって。
だからボクは毎日好きなことをやってる!
お小遣いで好きなものを買って、美味しい料理をたらふく食べて、気に入らない使用人やメイドがいたらパパに言いつける。
たまにボクに注意してくるような口うるさい新入りの使用人がいるんだけど、そうしたら必ず次の日にはいなくなるんだ。
これもボクが特別な人間だからってことだよね!
ボクはいつか大きくなったら、パパみたいに最高の「特別な人間」になるんだ!
そんなことを考えて一人笑いしながら、ボクはさらにメイドに言う。
「ぷっくっく! お前なんかがボクの大切な壺に触れるなんて、本来なら一生あり得ないくらい名誉なことなんだぞ!」
「は、はい……重々承知しております……」
「すごくありがたくて幸せなことなんだ! こんな仕事ができるなんて、嬉しいよな?」
「はい、嬉しいです。とても……」
メイドのその消え入りそうな声と泣きそうな表情に、ボクはとても不愉快な気分になった。
「幸せだなんてちっとも思ってないような顔じゃないか! お前、ボクに嘘をついてるのか?」
すると、メイドの顔色が青を通り越して一瞬で真っ白になる。
「ひぃっ……! そ、そんなわけございません坊ちゃま!! 嬉しいです! 幸せです! とても!!」
「なら、笑えよ」
ボクの低い声に、メイドが凍りついた。
「幸せなら、笑うのが普通だろ? 『身に余るコーエーです!』って言って、ボクに跪くのが当たり前だよな?」
そう言うと、メイドは慌てて手に持っていた布を放り出して、ボクの下に這いつくばった。そして顔を上げて笑顔を見せる。
「そ、そうです!! 身に余る光栄です!! 下等な私めなどがこのような役目を仰せつかってとても幸せです!! う、うふふふふふ……!!」
メイドが涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら笑う。下僕にふさわしいその哀れっぽい必死な姿ががとても滑稽で、ボクは大笑いした。
「ぷーーーっくっくっくっく!! そうだよ!! それでいい!! ちゃんとボクに感謝しながら壺を磨くんだぞ!!」
「は、はい……!! うふふふふ……!! ……うぅ」
あーーーーー楽しい! ボクはこの家に生まれて、パパの息子になれて本当に良かった!!!
これからもっともっと楽しいことをして、ボクは一生このまま幸せに――
……ゴゴゴゴゴゴゴ。
――うん?
突然ボクの部屋の下……いや、地面から大きな音が鳴った。
「何、この音。おいお前、なんだこれ――」
……ドゴゴゴ!!!!
「うわぁっ!!」
「じ、地震……!?」
今まで経験したことのない下からの衝撃。
このメイドは今、地震って言ったか? それ、本で読んだことがある。地面が揺れて建物が崩れ、あちこちが大変なことになってる挿絵が付いてたやつだ。
ボクはとても怖くなった。
「お、おいメイドっ!! この揺れるのを今すぐ止めろ!!」
「む、無理です……! 私には……!!」
「なんだと!? 口答えするのか、お前みたいな――」
――下等な人間が、と言う前にソレは起こった。
ぐらり、とボクが一番気に入っている壺が揺れる。メイドに磨かせていた壺。
あっ、と思う時にはもう遅かった。
壺はぐわんぐわんと揺れを大きくし、ぐらりとボクの目の前に倒れてくる。
そして――
……ドガッシャーン!!
ボクの頭に今まで経験したことのない衝撃が走り、
ボクはあまりの痛みに気を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます