箱庭の姫君の脱出

星 霄華

序章

序章

 贅を尽くした広い部屋の中。荒ぶる猛獣を御そうとするかのように、様々な年齢の男たちが一人の青年を取り囲んでいた。

「おやめください、殿下。危険すぎます」

「何が危険だ。このまま放っておいても、危険なのは変わりないだろうが。それも、この国にとって最悪な形の。それどころか大陸東部の混乱をも招くぞ」

 老齢の男の諫言に、王子はぎろりと周囲の男たちを睨みつけた。

 恐ろしい形相に怯んだ様子を見せながらも、別の年嵩の男が口を開いた。

「確かにこのままでは最悪の事態となりえましょう。だからこそ、この国の上層部も手を尽くすはず。それに、殿下が命を落とされる危険も」

「そんなことはわかっている!」

 王子は一喝した。

「なら俺に黙って見ていろというのか。友の危機を放って、能天気に仕事をしていろというのか」

「そんなことは、まさか」

「だったら、そこを通せ」

 王子は唸るように言った。

「こんなところで時間を無駄にしている余裕はない。中で準備をしているんだろう。邪魔をするなら力ずくで押し通るぞ」

 覇気を隠しもせず、王子は男たちを威嚇する。まるで敵を前にしたかのように、腰を低くして戦いの姿勢だ。

 男たちは硬直した。青ざめた顔を見合わせ、誰ともなく扉の前から退いた。

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