第14話 例の、あの日記的な出来事
「ちょいと、邪魔すんでぇ!」
敵地に乗り込むときのお約束というか、礼儀はキチンと済ませ、中に入っていく。当然の事ながら、返事は返ってこない。家が屍と化しているようだ。
「どや、タニシ? 誰かの匂いとかするか?」
索敵はタニシに任せてみた。お鼻レーダーが役に立つからだ。しかも、しゃべれるようになったので、意思の疎通が出来る。魔王め、ヘタを打ちおったな! ヤツはこちらに塩を送るような真似をしたわけだ。愚かなヤツよ!
「あっちから、お兄上の匂いがするでヤンス。何かおいしそうな匂いもするでヤンス」
前足で台所のほうを指し示した。台所にお兄ぃが潜伏しているのか?とりあえず、アホ兄から粛正してやろう。
電気がついていないので薄暗い。だいたい、この時間はオカンが晩メシの準備をし始めているので、明るいはずなのだが……。やはり、二人とも魔王の軍門に下ってしまったようだ。
「ご、ご主人。あっちにいるみたいでヤンス。」
タニシは気を使って小声で知らせてくる。なんか知能まで良くなってない? ヘタしたら、アホ兄超えを果たしているかもしれない。お兄ぃはこんな気遣い等出来るはずがあらへんし。
「まさか、冷蔵庫の前にいるのか?」
家具の物陰から、そーっと様子を窺う。ヘタに顔を出すと見つかるので、チラッとしか見えないが、少し明るくなっているのが確認できる。冷蔵庫のドアが開いているようだ。
「何か食べてるでヤンスかねぇ?」
何やら咀嚼音が聞こえてくるような……。ドア開けっぱなしで食べているようだ。食べ物に気をとられている隙に身柄を確保してやろう。そーっと近付く。
「……かゆい……」
お兄ぃはボソッとつぶやいた。一体、何がかゆいというのか?場違い感この上ないセリフだ。やっぱお兄ぃはアホの子やったんや。それはそうと、やっぱりおかしい。魔王の手にかかっていることには間違いなさそうだ。
「……うま……」
更に間合いを詰める途中で、また一言。なんかもう、ゾンビ的な存在にされてしまったのだろう。チーン! ある程度近くなったので、ヤツの足元に放置されている残骸を見て、ウチはとんでもないことに気が付いた!
「ウチのシュークリームぅ!!」
ウチが昨日、タニシの散歩から帰ってきた後に食べようと確保していたオヤツである!昨日は魔王の一連の騒動のせいで食べることが出来なかったのだ。今日の楽しみに取っておいた それが、それが! 変わり果てた姿に! 引き裂かれたパッケージの袋がアホの足元に落ちていた。「ウチの!」ってちゃんと書いといたのに!
「……かゆい…うま!?」
その時、アホ兄ぃはゆっくりと顔だけで振り返った。その顔には、その口の周りには…タップリとクリームが付いていた!
「い、いやあああっ!?」
思わず、乙女みたいな悲鳴を上げてしまった。ウチのキャラには合わへんけど、それぐらいショックやったんや! よくもとりかえしのつかないことを!
「ご主人、お気を確かにっ!?」
「こ……こ……」
ウチは動揺していた。今日帰ってきたら食べようと思ってたのに! ウチの密かな楽しみを……楽しみを奪ったなぁ!
「こんなことがあってたまるかぁ!」
ウチの大声に反応したのかどうかはわからないが、立ち上がり、亡者の如くゆらりとウチに近寄ろうとしていた。もう許さんぞ、アホ兄ぃ!
「これはシュークリームの分!」
「ぶふぅ!?」
バチィ、と顔をビンタし、
「これもシュークリームの分!!」
「ゲボォ!?」
ドフッ、っと腹に拳を叩き込み、
「そして最後に……シュークリームの分だぁ!!!」
「な、な、な、ナントぉ!!??」
最後に股間を蹴り上げたった!お兄ぃは自分の名前を断末魔の悲鳴としてあげた。でも、悲鳴にも使える名前ってなんやねん。どっかのニュータイプも同じこと叫んでたような気もするが、気のせいだろう。
「全部シュークリームのことで、頭がいっぱいでヤンスぅ!」
お兄ぃは悶絶して倒れ込んだ。KOしたった! コレがシノビ・エクスキュージョン……忍殺、というヤツや!
ちなみにアホ兄ぃの名前は漢字で書くと南都。なんと(西暦710年)立派な平城京、とはよく言われるものの、名前負けしている、いい例である。しかも、平城京もとい奈良自体、南都とか言う場合もあるらしいな? 知らんけど。
「ご主人、これはあんまりでヤンス! せめて、男の急所は外すべきだったでヤンスよ。さすがに見てただけのあっしも玉ヒュンしたでヤンス!」
「知らな~い! ウチは女の子やから知らへんもん! 普通の急所は外したから大丈夫やもん!」
「ご主人の恐ろしさを思い知ったでヤンス。」
アホ兄ぃへの制裁は完了した。次はオカンか? でも、おかしい。なんで、この時間帯にここにおらへんのやろ?……まあ、ええわ。こっちはタニシの鼻っていう、秘密兵器があるさかい、見つかるのは時間の問題やろ。
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