廃町と銭湯跡と
「当たり前だけどここも跡形もないわねぇ」
「ん」
山を抜け、更に進めたところで町だったであろう場所に到着する。ここに来るまでの間にも建物の残骸は何軒か見かけてたけどね。
空を見れば雨はやんでおり、清々しいほどの快晴を見せていた。梅雨の時期とは思えない天気だ。
「暑くないとは言わないけど……それほど暑くもないね」
「そうね。うーん、本当に夏なのかしら。いやまあ、正確な時期なんて誰にも分からないんだけど」
それを教えてくれていた文明はとっくに崩壊している。
スマホの時計はあるけど、これが正確かどうかまでの判断は出来ないのよね。何度も言っているけれど……あくまで目安として見ているだけなのだし。
「お。あれ、銭湯じゃない?」
「ん? ……確かに。建物の見た目からそうかも」
お風呂屋さんとも言うだろうけど。
そんな銭湯らしき建物だけど、当然ながら無事ではなく、半壊している状態だった。完全に壊れている建物もかなりあるけど、半壊とか一部が壊れた状態の建物もそれなりに目撃していた。
「中、覗いてみよっか。もしかしたらお風呂入れるかもしれないし」
「ん……期待は出来ないけどね」
「あはは。まあそうね」
キャンピングカーを一度、適当な場所に止めてエンジンを切る。
私はいつものリュック、ルナはこれまたいつものポーチを取って車から降り、最後に鍵を閉める、盗まれるという心配はないかもしれないけどこういう細かいところが大事なのよ。
車から離れ、半壊した状態の銭湯らしき建物中へ足を踏み入れる。
半壊しているとはいえ、これ以上壊れる様子はないので大丈夫かな? 念のためヘッドライトも準備しておく。
「思ったより綺麗」
「そうね……」
中に入ってみたところ、ルナが第一にそんな感想をこぼす。私もそれには同感だ。思ったよりも中は綺麗だった。当然だけど、ボロボロなところもあるしヒビがあるところもあるけど。
「ここかな」
お風呂の入り口っぽいところについたところで、私はそのまま進もうとしたのだけど……。
「っと!?」
何かに思いっきり手を引っ張られ、変な声を出してしまう。
「何するのよ、ルナ……」
その何かというのはルナであった。私がそう文句を言おうとするとルナは「そっちは男風呂。女風呂はこっち」と言って反対側の入り口の方を指さす。
「えーどうせ誰も居ないんだし良いんじゃないの?」
「ダメ」
「……ほいほい」
男風呂ってどんな感じなのか気になっていたけれども……ルナがそう言うのなら仕方がない。大人しくルナと一緒に女風呂とかすれた文字で書かれた方の入り口へ向かう。
そのまま中に入り、思ったより綺麗だけどボロボロな着替え場所を抜け浴槽のある場所へ移動する。
「……開放的だね?」
「ん……」
浴槽自体は壊れておらず、そのまま残っていたけれど上を見れば綺麗に天井が突き抜けており、快晴の空が見える。
夜だったらかなりい景色になるのではないだろうか? ただ雨に降られると困るけど。
「ここに入る?」
「やめとく」
やめておこう。
水はかなり溜まっているようだけど、これ多分あれよね……雨水。流石に雨水に入るのは気が引ける。体に害がない雨なのは分かっているけど……。
そもそもこの水は溜まってからどれくらい経っているのか……まあ、入ること自体冗談で言ったようなものなのであれなのだけど。
「今日は久しぶりにシャワーでも浴びようか」
「ん」
私達の乗っているキャンピングカーはかなり大型だ。だからシャワーも搭載されているのだけど、実際のところあまり使っていない。
単純に水がもったいないというのもあるけど、使用した水を捨てるのもちょっと面倒だからだ。文明が崩壊する前にはダンプステーションとかがあっただろうけどね。
なるべく捨てて大丈夫そうな場所に捨てているけどね。生活に使用する水とかはどうしても必要になってくるから。
そんな訳で結構久しぶりなシャワーを今日は浴びることにしたのだった。
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