第17話、白の大陸への旅立ち


 深夜に再び開かれた正式な作戦会議で決まったのは、先に僕たちが白の大陸へ入り探って協力者たちに鴉を飛ばす。


 ただそれだけだ。


 やる事は単純だけど行き先は敵の本拠地、覚悟と気合いを入れて海を渡る必要がある。


 遂に出発の日。


 早朝、ヴァレリーの操るドラゴンで馬車を飛ばし港町サリュに到着すると、既に前日のうちに白の大陸まで乗せてくれる船を、父さんが懇意にしている商人に用意させていた。そして今は長旅に備え水や食料品を積み込んで、準備を整えている所で港と船の周囲は人で溢れて賑やかだ。


「父さん、母さん、兄さん送ってくれてありがと!」

「絶対に生きて帰ってくるんだぞ」


 がっしりとした男らしい手で、クシャリと父さんは僕の頭を撫でる。


「無理はしないでくださいね」


 母さんの優しい両腕でフワリと抱きしめられる。


「何かあれば俺が助けに飛んでいくからね!……本当はそんな危ない所になんて行って欲しくないんだけどね……」


 ヴァレリーは、力の限りギュウギュウと僕を抱きしめ、ついでにリュカを睨む。


「絶対死んだりしないし、絶対帰ってくるよ!」

「アレティーシアは、オレが必ず守ると誓います」


 リュカは、僕の手を握りしめ、父さんたちに深くお辞儀をする。


「頼んだぞ」

「はい」


 父さんはリュカの肩を軽く叩いた。


「よろしくお願いしますね。けれど貴方も無理をしてはいけませんよ」

「はい。分かってます」


 母さんはリュカの手をソッと取り握りしめる。


「俺の分もアレティーシアをしっかり守れよ!」

「もちろんだ」


 兄さんはリュカの背中をバンバン叩いて送りだす。


 今までとは違う命懸けの旅。


 けれど……。


 リュカがいれば、大丈夫だと思えるし信頼関係も作ってきた。それに仲間も沢山出来たからね。


 父さんの腕輪と、大精霊の加護と、未だに持ち歩いているルルカの胸毛……いや、お守り、もあるから心強い。


 だから大丈夫!


「行って来ます!」

「行ってまいります」



 船に2人で乗り込んで甲板から手を振る。みんなの姿が小さくなっていくまで降り続け、見えなくなってからリュカと一緒に甲板に座り込む。



「天気も良いし今のところ大丈夫そうだね」

「あぁ。だが情報が漏れている可能性を考えると油断は出来ないな」

「だよね」


 朝が早かったせいで、天音は僕の胸元で小さな寝息を立てて今も夢の中だ。


 リュカと2人で、ゆっくり流れる雲を見ていたら、色黒だけど細身の男性が靴音を鳴らしながら籠を持って僕たちの方に歩いてきた。


「いきなりの出航で、船員は船長と私カダを含め5名ですが、よろしくお願いします」

「こっちこそよろしくね! そして危険な旅に付き合ってくれて本当にありがと!」

「よろしく頼む。見張りはオレも交代するから声をかけてくれ」


 立ち上がって挨拶を交わし握手をする。


「助かります。あと危険は承知の上です。私は自ら志願したんですよ」

「そうなんだ。もしかして何か事情があるの?」

「はい。居なくなった弟を探したくてアデルギィのギィ婆さんの所にいたのですが、ちょうど船員募集の張り紙が目に入って行く事を決めました」

「そっか……。弟さん見つかるといいね」

「特徴とかは無いのか?」


 リュカの言葉に、男は「うぅ〜ん……」と顎の下に手をやりながら悩んでから。


「私と同じ赤毛で緑の目、あと額、左目の上に斜めに傷跡が残っています。名前はミダと言います」

「分かった。見かけたら知らせる」

「ありがとうございます。あとこれは王様からお預かりしていたお弁当です。それでは、そろそろ交代の時間なので行きます」


 リュカにお昼ごはんの入った籠を渡し、お辞儀をしてカダさんは仕事に戻って行った。


「各地で人々が攫われているって、聞いてはいたけど無事に見つかって欲しいな……」

「あぁ。出来れば行方不明の者たち全てを見つけたい」

「うん」


 リュカも僕も信じたく無いから声には出さなかったけれど、カダさんの弟ミダさんは奴隷にされ操られている可能性が高い。



「籠、開けていいかな?」

「そうだな。早朝から出かけたから腹がすいたな。朝昼兼用で食べよう」


 実は、僕が寝坊したから朝食抜きだったんだよ。ごめんリュカと心の中で謝っておく。


 籠を開くとサンドイッチと、天音には小魚クッキーが入っていた。しかも紅茶の茶葉と蜂蜜まで入っていて豪華な昼食になりそうだ。


 僕がお湯を召喚して紅茶を入れる。その隣でリュカがサンドイッチを分けてくれた。葉っぱに包まれた天音の小魚クッキーを、カサカサ音をたてて出していると、天音が僕の胸元から飛び出してヨダレをたらす。


「じゃ! お昼より少し早いけど、いただきます!」

「いただきます」

「にゃにゃん!」


 茶色のパンには贅沢にレタスと卵が挟んであってボリュームもある。それを口を大きくあけて齧り付く。


「ん〜! 美味しい!!」

「美味しいな。リデアーナ様は料理の腕前も素晴らしいな」

「だよね!」


 母さんが褒められるのは嬉しい。でも料理上手なのは確かだと思う。


 パンは硬めだけど、レタスはシャキシャキで卵はふわふわ、シンプルな塩味だけどかなり美味しい。蜂蜜入り紅茶はほんのり甘くて喉越し抜群だ。


「うみゃい! うみゃーい!!」


 僕たちの前では、勢いよく天音が小魚クッキーを口いっぱいに頬張って夢中で食べている。


 再びフィラシャーリに戻って来るまで、食べられないと思うと一口一口を大切に時間をかけて味わってしまう。


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