第7話、異世界の焼き魚も美味しい! けどスープは塩味ばかり。

 魔族領の結界を抜けると、一気に暑さが戻って汗がふきだす。


「まずは港町サリュを目指すのじゃ!」


 暑さもなんのその、ルルカは鼻歌を口ずさみながら、まるでスキップするかのように足取り軽く下山し始めた。僕たちも慌ててついて行く。


「ルルカ待って! そこに何があるの?」

「お主ら、軟弱すぎじゃろ? そやつは元気みたいじゃがの」


 天音が砂漠を飛び跳ねながら楽しそうに、はしゃいでいるのを指差す。そう言えば、山に登って来る時も平気そうだった。


「人間には、この暑さは堪えるんだ……」

「仕方がないの! 少し待つのじゃ」


 ルルカが、両手を広げ空に向けて大きく口を開ける。すると目の前に、大きな茶褐色のドラゴンが舞い降りた。


「すご!」

「妾は、魔物共の言葉も分かるし、しゃべる事ができるのじゃ! 時間が惜しい。さっさと出発するのじゃ!」


 僕たち人間には聞こえない声で、ドラゴンを呼んだのだと分かった。そしてもう一つ分かったのは、ルルカはめちゃくちゃせっかちだと言う事だ。今も翼を使って1番にドラゴンの背に乗っている。しかも仁王立ちだ。


「俺の背に乗れ」

「ありがと」


 リュカが僕を背負ってドラゴンに飛び乗り背に跨る。鱗がザラザラしてるし一枚一枚が大きいから丁度良い感じに尻が乗る。滑り落ちる心配は無さそうだ。天音は僕の肩にちょこんと座った。


「しっかりと、しがみついておれ」


 リュカの腰の辺りの服を、両手でしっかりと握り締める。たぶん服の裾は伸びてしまうだろう。リュカの身体つきは、がっしりしてるから5歳児には腰に腕を回して、しがみつくなんて無理だったから仕方ない。

 ドラゴンが翼を羽ばたかせフワリと飛び立つ。馬車と違って直接、風を感じられて思ったより快適だ。


「うわぁ! 地平線まで見える! それに気持ちいい!」

「そうじゃろ! そうじゃろ! そこで無愛想にしておるリュカデリクより、アレティーシアお主との方が話が合いそうじゃ!」


 そう言えばルルカが同行する様になってから、リュカは余り喋らなくなったような気がする。


「もしかしてリュカとルルカは仲が悪いとか?」

「仲が悪いとか苦手とかの次元ではないな」

「うむ! もはや天敵じゃな!」


 この2人に一体何があったのだろうか? とりあえず相性は最悪みたいだ。


「そのような事より前を見てみるのじゃ!」


 ルルカの指差す方を見下ろすと、海岸沿いに街が見えてきたり。


「わぁ! 大きな街!」

「港町サリュは、この黒の大陸で最大の港があるんだ。新鮮な魚介類も手に入るし、様々な大陸と島々からの交易品も集まるから面白いと思う」

「へぇ! 美味しいものもありそうだし面白そう! それに小さな島々だけじゃ無いんだ」

「この世界には5色の色の名前が付いた5つの大陸があるんだが、大陸同士は友好的では無いな。行き来するのは商人くらいだろう」

「そっか。海の向こうにも行って見たかったなぁ」


 せっかくだから、この世界を沢山見て回りたいと思っていたから残念。


「そうガッカリするでない! そのうち妾が連れて行ってやるのじゃ!」

「良いの?」

「もちろんじゃ! とその前に、そろそろ地上に着く。しっかりつかまっておれ!」

「楽しみにしてる!」


 再びリュカの服をギュッと握りしめる。間違いなく服は伸びるだろう。ドラゴンは旋回しながら、ゆっくりと目立たないように街からは少し離れた森の中に降り立った。僕たちが背中から降りると、ドラゴンは飛び去って行ってしまった。自分の寝ぐらに帰って行ったのだろう。リュカの服は伸びて裾の辺りがビロビロになってしまっていた。


「アレティーシアお主は極秘の旅じゃったな?」

「うん。だから僕の事はタキって呼んで欲しいんだ」

「うむ!」


 森のど真ん中、草木に覆われた狭い人ひとりが通れるくらいの獣道を先頭リュカ、真ん中僕、最後にルルカで1列に並んで歩きはじめた。天音は僕の肩で、プスゥ〜プスゥ〜と鼻を鳴らしながら気持ち良さげにお昼寝中だ。途中、ルルカが立ち止まって変身術で角と翼を消す。天音も目を覚まして眠そうにしながら、それに倣って翼を消した。


「これならばエルフで通るのじゃ」

「やっぱり隠さないとダメ?」

「魔族と人族の間には色々とあるからの」

「そっか……」

「お主が気にする事は無いのじゃ」

「にゃーん」


 しょんぼりした僕の背中をルルカがポンポンと軽く叩く。天音も僕の頬を舐めて頭を擦り寄せてきた。

 森を抜け街道まで来ると、風に乗って海の香りが漂い始め、馬車や大きな荷物を背負って歩く商人風の人々と沢山すれ違う。



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