第2話  傭兵ギルドにて(1)

「おい、アオイ! 起きろ! もう着いたぞ! 」

『う~ん......? 』

 砂漠の暑さと戦闘で疲れていたのか、チオイに入ったまま眠ってしまったアオイは、顔にかかったポニーテールを払いながらゆっくりとした動きで上半身をおこす。目を覚ましたアオイの目の前には、レグルス砂漠で1,2を争う大都市、ガリアの煌びやかな街並みが広がっていた。

『うわ~! 凄く綺麗だねロベル! 』

「検問は今終わったところだから、これから宿に行くぞ。飯はついたら適当に作るよ。」

『ホント! ロベルのご飯楽しみー! 』

 ロベル達は検問所から15分程走った所にある予約していた宿『ドッセル亭』に到着する。ここはロベル達のような傭兵御用達の宿で、個室だけでなくガレージがついている。

 チオイの胸部装甲を開いて顔だけを出したアオイは基本的には入浴までの時間をガレージで過ごすため、二人とも宿にいる間はガレージで過ごす事が多いのだった。

「ほら、トマトスープとトーストだぞ。」

「えっと、ロベル? これ朝も食べた気がするんだけど......。」

「悪いが明日街に買い出しに行くまでは我慢してくれ。仕事を見つけなきゃ金がないんだよ。」

 豪華な食事を期待していたアオイは、夕飯に出てきた質素な食事をみて肩を落とす。ロベルはアオイを横目に素早く夕飯を食べ終えると、ハーズからグルーザーを降ろして整備を始める。生まれ故郷のレダルで一流のアーティファクト専門のメカニックを勤めていた両親と暮らしていたロベルは、専門職には劣るもののある程度の知識と技術を持っていた。

「ごちそうさまロベル。終わったらチオイの整備もよろしくね! 」

 アオイは空っぽになったカップとお皿をロベルの分もまとめると、ガレージに備え付けてある洗面台に持って行く。もちろん洗うのはロベルだが。

「アオイ、食べ終わったならこれでも見といてくれ。」

ロベルは食事が終わって、のんびりしようとしていたアオイに紙の束を渡す。

「なあにこれ? 」

 アオイはチオイの大きい合金の手で紙を破かないように気をつけながら束をめくる。

「傭兵の仕事リストだ。さっき検問所でもらってきた。」

「へ~。地方都市と違って仕事が多いんだね。」

「そりゃあそうだろ。水辺が近いからモンスターだってよってくるし、何より遺跡が多いから調査任務だって多いだろう。ま、アオイが受けたいやつを選んでくれれば問題ないさ。」

「りょうか~い! 」

 それから二人は暫くの間、ただの一言も交わさずにそれぞれの作業に集中していた。

「ねえねえロベル! これなんてどう? 」

やがてグルーザーの整備を終わらせたロベルがチオイの装甲を磨こうと立ち上がった時、アオイがロベルに一枚の依頼書を渡す。

「これは......。悪くはないが、いいのか? 合同依頼だから他の傭兵団もいると思うが。」

 アオイがロベルに渡した依頼書は、近辺で出現したサバクアリの群れの討伐という内容だったが、サバクアリの危険度が高いためか複数の傭兵団で挑む合同依頼に指定されていたのだ。

 ロベルはアオイの身体のことで合同依頼をこれまで受けてこなかったので、アオイの提案にとても驚いていた。

「確かに今まで受けてこなかったけど、たまには受けてもいいんじゃないかな? 楽しそうだし! 」

 ロベルは数秒ほど悩んだが、アオイ本人の希望ということもあって受けることに決めた。

「いいか、頼むから他の傭兵団に迷惑だけはかけないでくれよ。印象は良い方がいいだろう?」

「うんうん! 言わなくても大丈夫だよロベル! はあ~、早く明日にならないかなー! 」

 アオイはロベルの注意を全く気にしておらず、明日のことを考えて頬を緩ませるばかりだった。ロベルはアオイの興奮に多少の不安を感じたものの、彼女の喜ぶ姿に思わず笑みを浮かべるのだった。


 翌日、日が昇りきらない早朝に宿を出た二人は、依頼を受けるために傭兵ギルドへと足を運ぶ。ガリアの中央区に位置している巨大なガラス張りのビルにある傭兵ギルドは、まだ早朝というにも関わらず依頼を受けに来た傭兵たちであふれていた。

「じゃあ、依頼を受けてくるからここで待っててくれ。揉め事は起こさないようにな。」

「はいは~い! 」

 ロベルは駐車場にアオイを残して一人でビルに入る。ビルの中は外から見るよりも綺麗で、受付は依頼を受けに来た傭兵たちで列が出来ていた。傭兵の依頼は良い報酬のものほど取り合いになるため早朝は非常に混むことが多いのだ。

 ロベルは入口から合同依頼専用の探す。すると、ロビーの端、全く列のできていない合同依頼専用受付を見つける。ロベルはその受付に向かうと、依頼書を受付に渡そうとする。が、受付の中には何故か職員がおらず、周りの職員もロベルが並んでいるにも関わらずそれを気にもしていなかった。それどころか、隣に並んでる傭兵たちから失笑が起こる。

「おいおい坊や、そこは“不人気で高難易度”な合同依頼専用だぜ? 初心者は向こうだぞ。」

 そう言って中年の傭兵が指を指した先には、初心者用講座室と書かれた扉があった。ロベルは見た目の若さと一人で合同依頼の受付に並んだことから、周りから馬鹿にされていた事に気付く。

 しかしロベルは慌てることも怒ることもなく、受付の呼び鈴を鳴らす。すると受付の奥のバックルームから、金髪の若い女性が慌てて出てくる。

「申し訳ございませんお客様! お待たせしまいました! 」

 女性は受付に立つと、申し訳なさそうに何度も頭を下げる。

「いえいえ、気にしていませんよ。新人さんですか?」

「はい! アニーといいます。それで、こちらの依頼でよろしかったですか? 」

「ああ、はい。そうなんですけど、必要な人数って集まってますか?」

「え~っと......。申し訳ないのですがそちらの依頼はまだ受けて頂いた方がいらっしゃらなくて、今のままでは受付ができないんです。」

 アニーは申し訳なさそうに依頼書をロベルに返す。

 ロベルは困ったように頭をかくと、アニーにある提案をする。

「その依頼、一つの団で受けることは可能ですか?」



 






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