ツインズ~身体を求める者たち~

丸井メガネ

第1話 序幕

「あ~......。熱いよ~。」

 灼熱の日光が肌を焦がす巨大な砂漠を行く二人乗りの三輪バイク、『ハーズ』の後部座席で少女が愚痴をこぼす。少女の前で運転している青年は何も反応せずただアクセルを踏み続ける。

「ちょっと~、聞いてるのロベル? 」

「聞いてるよ。でもどうしょうもないんだから、少しは我慢してくれよアオイ。それかスーツに入ればいいだろ。」

「え~。だってこれ息苦しいんだもん。」

 そう言ってアオイは後ろに積んである彼女のアーティファクト、『チェイン・オブ・インテンション』略して『チオイ』に目をやる。3m弱の大きさを持つこの巨大なアーティファクトは操縦者と意識を繋いで動くロストテクノロジーの一つで、幼いころに身体の四肢を失くした彼女の身体でもあった。

「だったら我慢してくれよ。もう後2時間もすればガリアにつくからさ。」

「はーい......。」

 カプセルから頭だけを出していたアオイは諦めてまぶたを閉じる。ロベルはなるべく車体を揺らさないように気をつけながら、果ての見えない砂漠を進んで行くのだった。



ドンッ!


 ロベル達がしばらく進んだとき、不意に轟音が響く。驚いたロベルが辺りを見渡すと、前方の砂丘を超えた先からの黒煙が見える。その直後に、同じ場所に緑色の煙が上がる。その煙を見たロベルはすぐにアオイを起こす。

「起きろアオイ! 救難信号だ! 」

 カプセルを叩かれたアオイはすぐにめを覚ます。

「救難信号? オッケー、すぐに出して。」

「ああ、もちろん。」

 ロベルはすぐにハーズを停めると、アオイが入ったカプセルを素早くチオイの心臓部にはめる。するとアオイの顔はたちまち覆われて見えなくなり、それと同時にチオイの目に蒼い光が入る。

 アオイはチオイの合金の身体を素早く起こすと、チオイのジェットパックを使ってあっという間に砂丘の向こう側へと消える。

「アオイ、どんな様子だ? 」

『うーんと、商隊が野盗に襲われてるみたい。数は戦車が2、歩兵が14、ジープが3かな。戦車の内の一機は二砲身重戦車だね。商隊の方は護衛がやられちゃってるみたい。』

「分かった。なら突っ込んでも大丈夫だろ。俺も丘を登ったらすぐに援護するよ。」

「オッケー。じゃ、行ってきまーす! 」

 アオイはジェットパックのスロットルを勢い良く回すと、野盗の軍団に一直線に向かうのだった。



「うほー! 結構金目の物持ってんな。」

 両手を後ろで縛られた商人や護衛達の目の前で、野盗達は彼らに見せつけるように物資をあさっていた。

「おい、大人しく投降したんだから約束通り家族や仲間は見逃してくれるんだろうな。」

商人の風貌をした太った男が大柄な野盗のリーダーをにらみつける。

「ああ、安心しろよ。約束は勿論まもるさ。ただ......。」

 男は商人の隣で縛られている少女に近づくと、彼女を急に担ぎ上げる。

「この女はもらってくぜ。」

「なっ! む、娘をどうする気だ! 」

「あ? 女の使い道なんざいくらでもあるだろうが。ま、安心しなよ。沢山使ったら奴隷商にでも売り飛ばしといてやるからさ。」

「ンーー! 」

 少女は逃げようと暴れるが、筋肉のついた男の腕は一切緩むことはない。

「た、頼む! 娘だけは勘弁してくれないか! 」

「はっ! ま、弱かった自分を恨むんだな。ハハハハハハッ! 」


ドガアアンッ!


その時、急に野盗の戦車が一台、轟音とともに吹き飛ぶ。

「なんだあ! おい、どうしたんだ! 」

 突然の爆発に野盗達が混乱していると、次は近くのジープが爆発する。

「おい、報告しろ! 襲撃だな! 」

「そうですリーダー! ただやばい奴が......うわっ! 」

「ああ? 」

 驚いた部下の目線につられてリーダーが後ろを向くと、そこには野盗の返り血を浴びたアオイが立っていた。

「うわわあ! 」

 リーダーの男は驚いてその場に尻餅をつく。

『どうもー。貴方がリーダー? 』

 アオイはリーダーの男に銃口を突きつける。

「は、はい! そうですそうです! 」

『今すぐ投降するなら命は取らないわ。それとその娘さんははなしなさい。』

「はひ、た、ただ今! 」

 リーダーの男はすぐに娘を離すとその場で両手を上げる。アオイは離れた場所にある戦車が動いてないことを確認すると、ロベルに無線を繋ぐ。

『もしもーし。こっちは終わったよー。』

 しかし、リーダーの男は一瞬の隙を見逃さなかった。

「撃ち殺せー!」

 男の号令で、動きをとめていた二砲身戦車が素早くアオイに狙いを定める。しかし次の瞬間、戦車は砂丘から飛んできた一発の弾丸で吹き飛んだのだった。

『おお~。ナイスショット! 』

「アオイはもう少し緊張感を持ってくれないかな? おかげで爆裂鉄鋼弾を使っちゃったじゃないか。」

 ロベルは彼の銃型アーティファクト、『グルーザー』を畳むと、ハーズに乗ってアオイの元に向かう。

『さて。戦車もなくなったわけだけど、まだやるの? 』

「......すみませんでした。」

 野盗のリーダーは今度こそあきらめたのか、がっくりとしてうなだれている。

『よしよし、これで一件落着ね! 』



「いやはや、本当になんとお礼を申し上げたらいいか......。ありがとうございました。」

「いえいえ、こちらこそこんなに沢山物資を頂けたのでありがたいです。」

 ロベルは商人と握手を交わすと、ハーズに乗り込む。

 脱ぐのが面倒なのか、アオイはチオイを着たままハーズで待っていた。

『終わった? 』

「ああ、ちょっとした情報も手に入ったよ。ま、詳しいことは街についたら話すさ。」

『よしよし、それじゃあしゅっぱーつ! 』

「はいはい、しゅっぱーつ。」

 ロベルはめんどくさそうに返すと、ハーズのアクセルを踏み込む。ハーズは物凄い勢いで速度を上げていき、あっというまにその場からいなくなってしまった。

『おー! 結構飛ばすねロベル! 』

「寄り道したからね。急がないと門が閉まっちゃうからな。」

『はあ~、早くお風呂に入りたいよ~。』

「はいはい、急ぎますよ。」

 二人は軽口をたたきあいながら、砂漠の道を進んで行くのだった。



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