第69話 無人艦のテスト

 損傷した離反艦に対する初期修理の結果、何とか艦隊に随伴するところにまではできた。しかし、その機動力は輸送艦に随伴するのが精一杯で、武装も半数の艦が右舷か左舷の武装が破壊尽くされておりそのままだった。


 また、半数は武装がほぼ全損しており、廃棄艦の武装を移植したため故障のリスクが高く、まともな戦闘参加が危惧された。

 結局状態を加味して書く輸送艦に2艦ずつつけての護衛艦とし、本来護衛を担っていた艦を前線に投入する案が出された。反対意見も出たが、ダレンはそれらを退けて実行を命じた。今はノロノロと0.1光速でジャンプ可能宙域へ向かっていた。


 ダレンはジャンプポイントまで数日かかるということで、修理に関わらない者たちに模擬戦闘を命じた。無人艦の改造に興味を持っており、その性能を試すためにも敵の基地を攻撃するというシナリオを考えた。


 ダレンは自分の考えた模擬戦をホロで映し出し、無人艦の操鑑を担当するAIと通信しながら、遠隔指示で無人艦を指揮した。


 輸送艦につけられた護衛艦は、自分たちの役割を自覚していた。

 彼らは輸送艦の貴重な物資や人員を守るために、敵の攻撃に身を挺して立ち向かうことになるのだ。彼らは自分たちの艦が不完全であることを知っていたが、それでも最善を尽くすことを誓った。


 2艦のクルー達は自分たちの艦が無人艦に改造されることを望まなかったが、それは叶わなかった。

 彼らは自分たちで艦を操りたかったのだが、本来廃棄する艦になっていたのを無人艦として残る事がせめてもの救いだろう。


 新たに前線に投入される艦は、自分たちの任務に胸を膨らませていた。今までとは違い敵と正面から戦う機会をようやく与えられることになるのだ。ただ、かなりの数のクルーは自分たちの艦がAIに支配されることを恐れ、自分たちの艦が自分たちのものでなくなることを悲しんでいたが、あくまで生命維持の厳しい艦にのみ無人艦とするダレンの方針に安堵する。


 無人艦の改造は新たな挑戦であり希望であった。ダレンは改造された軽巡洋艦たちがテスト運用を開始するのを遠くから見守ることになるが、実際に艦が動くのは先の話だ。

 その艦たちが再び戦場を駆ける姿は壊れたものを取り戻し、新たな形で戦いを挑む彼らの意志を象徴していたのだ。


 それに先立ち艦の運用を託すAIに関して討議も行われ、テストの結果ある程度のコミュニケーションが取れるのだと分かった。元々研究中のAIを持っており、自爆装置と組み合わせる事で運用する決断をした。そこで彼らに模擬戦に参加してもらうことになった。ただ、スペックは計画通りに修理と改造が出来たらとした。


 テスト運用の日、ダレンは旗艦のブリッジで無人艦の状況を確認していた。目の前の端末には無人艦の映像やデータがホロで表示されていた。模擬戦の戦闘開始前、索敵の段階でダレンは無人艦の操鑑を担当するAIと通信していた。


「AI、無人艦の状態はどうだ?」


「全艦正常です。目標地点まであと5分です。」


「敵の反応は?」


「現在は確認できません。しかし、敵の防衛網に近づくと、攻撃を受ける可能性が高いです」


「了解した。無人艦は敵の防衛網を突破し、敵の基地を破壊する。その後、艦隊本体に帰還する。それが任務だ。すぐに行動しろ。絶対に失敗するな」


「はい、任務を遂行します」


 ダレンは無人艦にエールを送った。無人艦には人間がいないことを知っていたが、それでも彼らは感情を持っていた。ダレンは彼らが無事に帰ってくることを願っていた。


 AIの危険性は映画【ターミネーター】が物語る危険性から、クローズネットワーク上でしか機能させていなかった。

 AIもその危険性と、それを行っても滅びる、つまり滅ぼされると判断し、人間を仲間として共生するのが生き残る可能性が高いと弾き出していた。


 一方、無人艦に改造された軽巡洋艦の中では、AIと人間の協調制御が行われていた。AIは無人艦の基本的な操作や状況判断を行い、人間は最終的な決断や指示を出す。人間は旗艦から遠隔操作で無人艦を操鑑する。彼らは無人艦の中にいるわけではなかったが、それでも無人艦の感覚を共有し、無人艦と一体化していた。


 タイムラグが問題にならない範囲ではそうし、タイムラグが問題になる場合、命じた基本方針をもってAIに任せる事になっている。

 また、有人の軽巡洋艦は大気圏突破は厳しいが、無人艦であれば別だった。加速補正も艦が分解しない事を考えるだけなので、それなりに無茶な機動が可能だ。そこでテスト的に惑星に侵入しての強襲を試みる。大気圏の下でないと目標を確認出来ないから有効なのだ。


「司令、目標地点の射程距離に到着しました。敵の防衛網を突破します」


「了解。全艦突入準備」


 とはいえまだ2艦だ。


「敵の反応を確認しました。レーダーに12機の敵機が表示されました。」


「全艦、敵機に対して攻撃を開始せよ」


「攻撃を開始します」


 無人艦は敵の防衛網に突入した。敵のレーザーやミサイルが無人艦に向かって飛んできたが、無人艦は敏捷に回避しながら反撃した。無人艦の武装は強化されており、敵機を次々と撃墜し、敵の防衛網を突破し敵の基地に接近した。本来人が耐えられない機動を行う為に被弾率が極めて低い。


「敵の基地を確認しました。目標は中央の司令塔です」


「全艦、司令塔に対して攻撃を集中!すぐに行動しろ。」


「攻撃を集中します」


 無人艦は司令塔に向かって猛攻を仕掛けた。司令塔は厚い装甲で覆われており、一撃では破壊できなかった。無人艦は何度も何度も攻撃を繰り返したのもあり司令塔は徐々に損傷を受けていった。


「司令塔の装甲が剥がれました。核反応炉が露出しました」


「今だ。全艦、核反応炉に対して最終攻撃を行う。絶対に失敗するな」


「最終攻撃を行います。」


 無人艦は核反応炉に向かって最後の一撃を放った。核反応炉は大爆発を起こして司令塔は破壊され、敵の基地は火の海と化した。


「司令塔の破壊を確認しました。敵の基地は壊滅しました」


「よくやった。全艦、本体に帰還せよ。模擬戦は終了だ」


「はい、本体に帰還します」


 無人艦は見事に任務を果たし敵の基地から離れて旗艦に向かっていった。


 ダレンは無人艦の帰還を見て感激した。模擬戦ではあるがAIによる無人艦の操艦が成功したことを心から喜んだ。また、無人艦の性能に感嘆し、自分の考えた無人艦の運用方法

 、まだ模擬戦レベルだが、有効だったことを確信した。


 そして無人艦(AI)に声をかけた。


「無人艦たち、ご苦労だった。君たちは素晴らしい仕事をした。私は誇らしい」


 そうして無人艦のテストたる模擬戦が終わった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る