第57話 主砲再び
その頃、ジルテット率いる艦は重力ジャンプ可能な所へ這々の体で向かっていたが、ジャンプ可能な所まで来てもジャンプせずそのまま進んでおり、何もない虚空を進んでいた。
殆どの艦は中破している。
中には最早デブリとしか言えない状態となり、漂いしかなく救助を待つ艦となっていた。
共通して言えるのは、全て中破のみで爆散はない。
航宙に必要な機関部を中心に壊され、漂って救難信号を出している。逃げられた艦も重力ジャンプ装置が破壊され、重力ジャンプ可能な所へ来てもどうにもならず、追ってくる艦から逃げている。
恐らくわざと中途半端な状態で残し、救助のために戦力を割かせる狙いと思われる。
猶予のない艦が漂っている。
敵は700艦ほどと、こちらの倍以上だった。
フェニックスクラウンは敵が集中している所に向け主砲を放とうとしていた。
かなりの艦が地球ほどの体積におり、その中にいた艦は防御不可でなすすべなくなく破壊されていくはずだ。
「本艦はこれより主砲を発射する。全員主砲発射に備えよ!これは訓練ではない。1度全電源が落ちる。無重力に備えよ!目標は敵本隊中央部。発射せよ!」
ダレン司令は照準を指示し、確認すると戦術士に命令した。
「了解しました。発射します。5、4、3、2、1、ファイヤ!」
戦術士がカウントダウンの後、主砲発射用のトリガーを引いた。
すると4つに開かれた砲身の中に貯められたエネルギーが集束され、フェニックスクラウンの主砲から超陽子共鳴ビームが発射された。
その光は太陽よりも眩しく、宇宙に轟音を響かせ、その光の奔流は敵本隊の中心部に襲い掛かり、見方のすぐ手前まで達していた。
もちろん計算してのことだ。
ビームがターゲットの敵艦に当たるとそこから光が弾け、細かい網のように光が暴れ狂い次々と敵艦を飲み込んでいく。
敵の中心部の艦は精々握りこぶし大の破片に分解され、多くの艦を消失させた。
光に包まれた敵艦は一瞬だけ耐えるも、すぐさま爆散し、或いは枯れ葉を握りつぶすが如く細かく砕けていった。 渾身の一撃を放った側のフェニックスクラウンだが、停電に見舞われた。 艦内は一瞬真っ暗になるも、数秒後に非常電力に切り替わったが、しかしながらこれは想定内の出来事だ。
今のフェニックスクラウンは、砲身やエネルギー関連装置の冷却にほぼすべてのエネルギーを使わざるを得なく、生命維持に必要な分以外が冷却に回されており、慣性で進んでいるに過ぎない。 進路変更も不可だった。
戦術士たちは緩慢に惰性で進む艦上で必死に動き回った。
「ダレン大佐、敵艦の数を再算出したところ、700艦のうち、550艦程を主砲で仕留めたことを確認。敵の残り150艦の内、25艦は救難信号を出し漂っている艦と交戦して残りを追っています。残りの125艦が集団を形成し、我々に接近しています」情報士が報告した。 ダレン大佐は顔色一つ変えずに深くうなずき、目を閉じた。黙々と変化する情勢を考えていた。
「ダレン司令、新たな報告があります。敵残存艦の内、25艦が救難信号を出している離反した艦を追うベクトルで敵陣を離脱しています。残り100艦が集団を形成し、こちらに接近中です。我々の艦は今のところ損傷はありません。ミサイルは全て撃破済み。離反艦は約半数が中破、殆どの艦が何らかのダメージを受けています。また、フェニックスクラウンとその盾艦の防御ラインは維持されています」
情報士官の報告を受け、ダレン司令は沈痛な表情を浮かべた。
「よくやってくれた。被害報告と敵の動きを続けて監視してくれ」
主砲のエネルギーを再充電中、フェニックスクラウンは再び防衛線の中心に位置し、盾艦たちがはるかに上回る敵の攻撃に耐えながら、連携を取り防ぎきった。ダメージは一部の盾艦の表面装甲が焦げたくらいだ。 ダレン大佐はブリッジの士官たちに向かって言った。
「我々の仲間が脱出し、自由を手に入れようとしている。それが今の状況だ。我々の残りの力で、敵を食い止め、更なる破壊を防ぎ、更なる命を保護するのだ。全員、覚悟を決めて戦闘に臨むがいい。我々が守るべきは、ただ一つ、命だ。今こそ、全力を尽くす時だ。共に戦おう!」 大佐の力強い言葉が艦内に響き渡り、士官たちは彼の指示に従い、それぞれの職責を果たすために行動を開始した。激戦はこれからだと、全艦は固唾を飲んで敵艦の襲来を待つしかなかった。
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