第16話 襲撃への備え

 全艦が集まるまで1ヶ月を要した。

 その間観測班の活躍により艦隊の現在位置が判明した。

 現在位置から星の分布地図を作成し、最寄りの恒星、惑星、衛星、小惑星帯、彗星、ブラックホールなどを特定した。

 それによると、銀河中心部については若干見え方が違うが、見える星の配置から、1000光年は離れていないとしか言えない。

 また、彼らは星の位置から時間軸は同じか、例えズレていても大した時間ではないと分かった。

 彼らはこの星系が自分達が知る宇宙のどこにあるかはわからなかったが、少なくとも過去や未来に飛ばされたわけではないと安心した。


 取り敢えず最寄りの恒星を目指して加速し始める。これは通常航法だった。

 後ろに何かを放出して進む現代と変わらない方法・・・ではない。

 纏まった質量を重力の虜にし、その物体に対し反重力を発生させる航法だ。

 加速に1ヶ月を要し、重力の贄に航行不能艦や、大破した艦を宛てる。

 その中には重力ジャンプ以外の全ての航行機能をロストした工作艦もあり、それをコアにする。

 1ヶ月を掛け準備をする。

 食料や修理に必要な物資、補給物資の全てを積み替えたり、連結した。

 それは1つの塊としての質量を稼ぐためだ。


 しかし、この方法は速度に限界があり、重力ジャンプが可能な位置に到達するまでに30年から35年もかかると見積もられた。

 ダレン大佐はその長期間に耐えられるように、工作艦の機能を持つ艦に、コールドスリープの装置を作るよう命じた。

 彼は全艦隊に対して、コールドスリープに入ることを勧め、自分もコールドスリープに入ることを決めた。


 しかし、その前に彼はひとつの危機に直面した。


 それは少将が生き残っていたことだった。


 少将は階級的にダレン大佐の上位の存在であり、敵との戦闘で大破した戦闘艦の指揮官だった。

 少将は奇跡的に生き残り、救助された破損艦の中にいた。


 しかし、少将は半分気が狂っており、ダレン大佐から指揮権を奪おうと画策した。

 少将はこの何もない空間に放り出されたことを不満に思う者を集め、旗艦フェニックスクラウンを乗っ取ろうと襲撃を企てた。


 少将は密かに数隻の破損艦から武器、爆弾、兵士を集め、旗艦たるフェニックスクラウンに接近した。

 少将はフェニックスクラウンに侵入するために、偽装信号、暗号、パスワード等を使おうとした。

 少将はフェニックスクラウンのブリッジやエンジンルームや武器庫などを狙って爆破しようとしたようだ。


 しかし、ダレン大佐は直前に少将の襲撃に気づいた。


 ダレン大佐はフェニックスクラウンの防御システムや警報システム等、システムを発動させ、対抗手段を講じた。

 また、マクスロイ艦長にフェニックスクラウンの乗員や兵士に対し、戦闘態勢をとるように要請し、艦長もクルーに命じた。

 ダレン大佐はフェニックスクラウンのブリッジから少将と交渉を試みた。


 しかし、少将はダレン大佐の交渉に応じることはなかった。


 少将はダレン大佐を裏切り者や無能者、卑怯者と罵った。

 少将はダレン大佐を殺すと脅したり挑発した。

 まだ発表していなかったが、重力ジャンプの件は嘘を重ねていたのもあり、実際は少将の訴えは正鵠を得ており、ダレン大佐は苦笑していた。

 それは偶々なのだが、少将の行動は理由はともかく正規の手段を取らず、秘密裏に計画と準備が行われていた。


 ダレン大佐は少将のこととは限らず、いずれ発生するであろうこの手の襲撃に最大限の警戒をするのとは別に、事前準備をしていた。


 ダレン大佐は敢えてフェニックスクラウンのブリッジから戦闘指揮を執った。

 それは、自分の居場所を相手に伝えるのに等しい。

 念のため、運行クルーの半数は第2ブリッジに移動させておき、フェニックスクラウンの乗員や兵士、護衛艦に対し、戦術や作戦や指示を伝えた。


 フェニックスクラウンの防御システムや警報システム、対抗措置システムを有効に使い、少将が仕掛ける爆弾や武器、兵士を排除する事は可能だろう。


 しかし敢えて侵入させることにした。


 ダレン大佐はフェニックスクラウンの乗員や兵士を巧みに指揮し、少将が率いる侵入者や反乱者を制圧した。

 また、各艦長の協力で襲撃してくる破損艦に対処してもらうこととした。



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