その『概念』をぶっ壊す

篝火まろん

序章 ヘルナ事件①

〜3年前〜


あたり一面に夜の帳が降りて、夜中まで飲み歩いていた酔っぱらいや日々のストレスや不満を溜めて歓楽街に向かっていた人、あたりをふらついていた浮浪者、夜中まで店を出していた飲食店の店主たちが店を閉め、皆があるべき場所に帰った。そうして皆が寝静まった夜中の2時頃、夜がふけるまでは活気のあったヘルナ通りに1人の怪しげな男が姿を現した。


その男は、背丈はおよそ180㎝は超えており、全身に黒いローブを纏い、目は焦点が合っておらず、全身に負のオーラを漂わせて何か思い詰めた表情で必死に自分の考えを吐露していた。


「一体これはどういうことなんだ、、、。俺が今まで信じて守り抜いてきたものは全部虚構の存在なのか、、、?何がダメだった?自分は一体何者なんだ?これからどうすれば良い?」


「もう何を信じたらいいかわからなくなったよ、、、。やはり、あの組織が長年隠して研究してきた文献を読んでしまったからだろうな。今の社会に広がる常識や風潮も所詮は誰かが流布して、都合よく思い通りな社会になるように画策したものなのだろう。」


男はため息をついて、この世の闇や不条理について嘆いた。しかし、長い年月をかけて作り上げられたいわゆる〈常識〉というものは簡単に変えられるものではない。時には、真実を言ってもその時代の常識にそぐわず、むしろ異端で排除すべき存在だと考えられ糾弾され、最悪の場合には、邪魔者だとして処刑されてしまうこともある。


時代とは、社会に蔓延る常識を取り払い、全く新しい仕組みや思想を創造することで発展していくものである。凝り固まった考えばかりでは社会は全く進歩せず、衰退の一途を辿るだけだ。


「それでは、誰かが時代を変えてくれると信じて、この虚構に満ちた世界を生き続けないといけないのか?立場が上のものや強きものに媚びへつらい、自分の中の正義に嘘をつき続けて、時代にあった存在を演じ続けないといけないのか?」


今の自分の在り方を選んだのは自分だ。悪いのはそんな道を選んでしまった自分にあるのかもしれない。しかし、このままだと絶対に望んだ未来は手に入れられないし、嘘の自分を演じ続けるのは苦痛すぎる。


男の頭の中はもう壊れてしまう一歩手前だった。

心も体ももうとっくに限界だった、、、。

もう自分に残された道はないのか、、、?

そう何度も苦悩していくうちに、ある考えが男の頭をよぎった。


「そうか!!自分が間違っているんじゃないんだ!

間違っているのはこの社会には存在している悪しき常識、概念なんだ、、、

こんな社会は間違っている。

誰もやらないならこの俺がやろう。

俺がこのクソな社会を変えてやるぅ、

全てをぶっ壊してやるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!」


ついに男の心は壊れてしまい、自分の中にある悪魔が作り出した正義に従って、この社会を変えてやること決心した。

それが、間違った正義だと疑いもせずに、、。


「ヤッハッハッハァァ!

さあどう壊していこうかぁなぁ〜?

この俺を認めてくれない頭の固い奴らはみんな殺しちゃおうかなぁ〜?

そこに男も女も子供も関係ねえよなぁ〜?

俺がこの国を支配して自分の望む常識や社会をつくりゃぁよぉ〜さらに俺たちは高次元の存在に近づくってワケだよなぁぁっっっっ!!!!!」


夜の閑散としたヘルナ通りに男の狂気に満ちた叫び声が響く。

しかし、その声を聞いているものは1人としていなかった。

この場所で男による恐ろしい計画が立てられているというのに。


「手始めにこのヘルナ通りをズタボロにぶっ壊して、俺という悪が誕生したことをこの国の奴らに示さないとなぁぁぁ〜

ヤッハッハッハァァ!楽しくなってきたぜぇ!!!

ここから新時代の幕開けだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


男は黒いオーラを全身から吹き出して、口が裂けるのではないかと思うぐらい邪悪な笑みを浮かべながら、莫大な量の魔力を両手に宿し、ヘルナ通りに魔法を放った。


ドゴォォォォッッッッッッッッッ!!!!!

ゴォォォォッッッッッッッッ!!!


建物が爆散して砕け散り、辺り一体に瓦礫を撒き散らした。

崩壊した建物からは轟々と火の手が上がり、そこら中から黒煙を立ち上っている。破壊に巻き込まれた人たちが悲鳴をあげながら逃げ回っており、死体がそこら中に死屍累々と転がっており、文字通りヘルナ通りには阿鼻叫喚の光景が広がった。


狂気の笑い声をあげて破壊し尽くす男の姿はさながらおとぎ話に出てくる悪魔のように見えた。

破壊と蹂躙をし尽くして人々に絶望を与える最悪の悪魔のように、、、。






この男の名前は、オルガン=バージェス。


ついた呼び名は、『絶望』のオルガン=バージェス。




オルガンは邪悪な笑顔を貼り付けたまま、まるで散歩を楽しんでいるかのようにゆっくり歩きながらヘルナ通りの破壊をし続けていった。



その場にある男が到着するまでは、、、。




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