第3話 エマ

「リツは私達のお兄ちゃんね」

 いつか言われた事を思い出し、リツは目を細めた。


 私達――エマとヒソカ。二人より一歳上のリツは、穏やかな振る舞いと口調、常に冷静で、その様は確かに二人の兄のようだ。

 血の繋がりはない三人がここに集った時を思い出す。ここ、廃墟リアゼルファ。禁断の地にある最果ての宝石箱。子供はおろか大人でさえその響きは恐怖心より甘美なものになる。そこに踏み入れる事を国から認められた特別な三人。

 魔法使いは大陸に多数いる。しかし三人の魔法使いは特別だった。特別だから、特別な場所にいるのだ。

 扱える魔法の種類、魔力、瞬時に適切な魔法を発生させられる頭の回転力、その他諸々。どれを比べても誰も三人にはかなわない。それを国のトップは知っていた。

 しかし三人の中でも、エマはとりわけ自分の力を過信しないように意識していた。

ヒソカが周りと自分達を比べようものなら、「そうやって自分以外を下に見るのはやめて。みんな対等なの。その中で力がまだ足りない分を、私達が補う。そして私達も助けられる。この世界は助け合いなの」ときっぱりと言い放った。ヒソカも悪気なく言ったものの、いつも柔和な雰囲気のエマの鋭い指摘に、「ごめん、そういうつもりはなかった」と即座に弁明していた。

 リツはそれを見て、自分の気持ちも改めようと誓った。ヒソカと違い滅多な失言をしないリツは、黒い気持ちを安易に口に出さない。しかし心のどこかで自分は選ばれた人間で、自分だけがこの世界を救う力があると思っていた。

 エマの真剣な表情を見て、リツは射貫かれたようにしばらく動けなかった。会話に入る前だったから何も言わないリツを見ても、二人は不思議に思わない。しかしリツはエマの言葉に衝撃を受けて、全身凍り付いたように動けなかったのだ。

「特別な力を持っていたとしても、自分と言う人間が特別なわけじゃない」

 エマの言葉にリツは何も言えなかった。彼女の真っ直ぐな瞳。しばらく目を見開いてそれを見ていた。


 リツは過去にふっと笑みを浮かべ、背伸びをした。後ろを振り返ると、規則正しい寝息が聞こえる。魔導書と格闘していた少女は、いつしか睡魔に負けたようだ。

 そっと髪を撫でて、愛おしそうな目で彼女を見ていた。

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