宝玉の使い手はなにも知らない(仮)

プロローグ


 今、俺は、何を見せられているんだろう。

 目の前には飛び切りの美少女と、飛び切りのイケメンがいて、なんだかわからないけどその二人はめちゃくちゃ強くて、突然現れた得体のしれない魔物をあっという間に蹴散らしてしまったんだ。


 ……そう、まさに蹴散らしたというのが表現としては一番近いと思う。ざくざくと切り刻んで、そして魔物は跡形もなく消えてしまった。あれは、一体なんだ?


「シャバの空気はうまい、ってか」

 イケメンが満足そうにそう言った。美少女はそんなイケメンを冷たく一瞥して、何かを言いかけてやめた。


「あの……あなたたちは一体…」

俺は間抜けな声でそう尋ねるのが精いっぱいで、今見ているものが夢なんじゃないか、とか、実はもう俺は死んでるんじゃないか、とか、そんなことが脳裏を過っていた。


「怪我はないか、シリオン」

 美少女が心配そうに俺を見て名を呼ぶもんだから、意味もなくドキドキしてしまったんだけど、本当に、あの、これって……


「シリオン、呆けすぎだろ。頭でも打ったか?」

今度はイケメンが近付いて来て、俺の頭に手を置く。ヤバい。イケメンに頭撫でられた。なんかいいことあるかも…、


「…じゃない!」


 俺はイケメンの手を払いのけ、自分で自分の頬をパン、と叩くと、すっくと立ちあがり、言ったさ。ああ、言ってやったとも。大きな声でね。


「一体これってどういうことなのか、ちゃんと説明してくれるんだろうな!?」

 二人は黙って顔を見合わせていた。


*****


旅の始まり


 物心ついた時から、俺は守られていた。


 何から守られていたのかはよくわかっていなかったが、とにかく世間一般の子供とは違うんだ、ということは、周りの大人たちの態度を見れば一目瞭然だった。


 俺が生まれたのは大陸カナディアの東側、大きくも有名でもない、なんてことない小さな町だ。街道の端にあるため、人の出入りは多く、珍しい品や食べ物も充実している平和な町だった。

 そこで俺は、父と母、数人の使用人たちと、丘の上にある屋敷で暮らしていた。両親はとても優しかったし、何の不満もなかった。でも、違和感だけはいつも持っていたんだ。


 例えば母。


 男の子を育てる母親なんてのは、いつだってガミガミ煩く付き纏うもだろ? でもそんな風にされたことは一切なく、ある一定の距離を置かれていたように思う。心の底から出てきた言葉、ってのを聞いたことがない。いつも当たり障りのない、上辺だけのやり取り。だからといって冷たくされているのとも何かが違う。そんな違和感。


 父に至ってはもっと大きな違和感がある。仕事をしていない。少なくとも、昼間はずっと家にいたように思う。時々、夜中にどこかに出かけていくようで、だからといって不貞をはたらいているのでもなく…というのも、いつもではないが母も一緒に出掛けて行くからだ。そして二人で出かけた翌朝は、決まって機嫌がいいのだ。


 そんな生活を十五歳までしていた。

 そしてそこから先はもう、何が何だかわからないほどめちゃくちゃだった……。


*****


「さあ、これを持って!」

 母さんが俺に慌てた様子で俺に荷物を背負わせる。何が入ってるかはわからないが、結構な重さだ。

「シリオン、よく聞きなさい。これからお前は町を出て、大陸中央、ネロム山脈を目指しなさい。途中でお前の力になってくれる人が現れるはずだ。その人たちの力を借りなさい。いいね?」

 父さんは俺の肩に手を置き、早口でそう言った。

「え? 一体どういう…」

 何のことかわからずキョトン、としている俺だけを置き去りに、家の中はとても緊迫した空気が流れていた。


「旦那様、時間がありません!」

 女中の一人が言うと、父さんは床に敷いていたラグをバッと剥がした。そこに現れたのは、小さな扉。

「シリオン、ここから降りて! 道はまっすぐ町外れまで繋がっているから、そこから先は一人で行きなさい。いいね?」

「ちょ、何言ってるの? どうしたんだよ、父さん!」

「シリオン、説明してる暇はないんだよ。これ以上ここにいてはいけない。さぁ、早く入って! 絶対に戻ってきてはならないよ」

「シリオン、気を付けてね」

 母さんが寂しそうに笑いながらそう言った。俺は訳も分からず地下へと続く階段に放り込まれ、暗い中を壁伝いに進むしかなかった。後ろからバタン、と扉が閉まる音がすると、途端に暗闇となる。


 ポゥ


「え!?」

 遠くの方に明かり。

「誰か…いるの?」

 恐る恐る声を掛けたが、返事はない。

 すると、遠くに見えた明かりは二つ、三つとその数を増やし、地下通路を照らす道しるべとなった。


「どうなってるんだ、これは」

 おかしなことだらけではあるが、今はとにかく前に進むしかない。俺は黙ってひたすら前へと進んでいた。


 しばらく進んだ時だ。ドォォォォンとどこかで大きな音がして、揺れを感じた。なんなんだ? 外はどうなっている?


「なんだよ、この感じ……」

 背筋を冷たい汗が伝う。

 いやな予感、というのか。いや、もっと大きな……とてつもなく嫌な感じ。俺はいつの間にか早歩きから小走りへ、そして全速力で地下通路を走っていた。



********************************


はい、これは三部作で書くつもりだった話の2本目ですな。

アルディオスの心臓、と同じ世界です。

そして冒頭の二人ですが……

ま、それはいいかw

いつかは書きますよ。

案は、あるので。


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