第24話 氷爆の魔術師
「ここから先はスケルトンが出る。僕が全部倒すから、皆はダークウルフに備えて。ペースも落とすから、万全にね」
「「おう!」」
「「はい!」ニャ!」
21階層からエストが指揮をとって進む。
ゆっくりと歩いて進み、道中で現れたスケルトンは火と光の属性融合魔術で倒す。
試しにとガリオが火魔術を使うが、エストほど即座に灰にすることは出来ず、首を傾げていた。
しかし、横からマリーナが「経験の差でしょ?」と言うと、納得してしまったのだ。
光属性も混ざっているとは露知らず。
「ニャ〜、エストっちは今まで見た魔術師で頭ひとつ抜けてるニャ。しかもこれでマリーナより歳下なんでしょ? 凄いニャ〜」
「ミィは褒めてくれるから好き。ありがとう」
「えへへ〜、本当に凄いニャ」
「でも、僕より凄い人は沢山居るよ。師匠なんて、僕が10人居ても敵わない。絶対」
「エストっちのお師匠様、とんでもないニャ」
ミィとエストの雑談を聞いていると、段々と自分の描いている魔術師像が崩れていく3人。
体力が少なく、使える魔術も1属性で3つやそこら。
そんな印象を簡単にぶち壊したエストに、一周まわって何も感じなくなっている。
幼い見た目だが、魔術に関しては誰よりも造詣が深い。
おとぎ話の賢者も、幼い頃から沢山の魔術を使えたと言う。ガリオがそんなことを考えていると、2時間足らずで30階層の主部屋前に着いた。
「ダークウルフに僕の魔術が通るか分からない。もし無理だと判断したら、すぐに援護に回るよ」
「分かった。基本として、ディアと俺がエストとマリーナを守り、ミィが遊撃する形でいいか?」
「うん。あと、ミィは複数のウルフには矢を放たないで」
「どうしてニャ?」
「一気に複数体向かったら危ないから。自分の命を優先して立ち回って」
「……うん、分かったニャ」
ジーンと胸が温かくなるミィ。
淡々と無表情に話すエストだが、自分を良くしてくれる人にはとことん甘い傾向がある。
そんなミィを見て、マリーナは密かに闘志を燃やした。
「ディアさん、怪我をしたら言ってね」
「ん? おう、分かった」
「ガリオさんは頑張れ」
「……雑だなぁ」
「信用してるから。あ、自爆はやめてね」
「やらねぇよ! それにお前怒るだろ!」
「うん。あの使い方は面白くないから」
「なんだそりゃ。まぁ、分かってるよ」
「マリーナは死なないように。僕は全員を守れるほど強くないから」
「分かった。私も命を優先するね」
そうしてエストは皆に黙って
きっと、アリアなら歯牙にもかけない魔物だが、エストには十分な脅威だ。
気を引き締めて行く。
グググッと手を押すと、扉が開く。
5人が部屋の中央付近に行くと、遠吠えと共に赤い瞳が10個も光った。
「調査開始だ。
3属性の針が風を切って飛翔すると、真ん中のダークウルフの頭に刺さった。しかしあまり深くは刺さっておらず、首を振っただけで全て抜け落ちてしまう。
それを見たエストは、最初の指示である、戦闘継続か撤退の指示を出す。
「戦闘継続ッ! 物理組は怪我を恐れるな!」
「「ッ、おう!」」
「ニャ!」
「……凄い気迫」
今まで聞いたことのないエストの大声には、尋常ではない気迫があった。
それは恐怖か。
それは意地か。
それは覚悟か。
違う。飛び抜けた好奇心による知識欲だ。
エストは既に、ダークウルフを倒す魔法陣のイメージはできている。
となれば、次はどの程度から魔術が効くかの検証である。
リーダー格の真ん中のダークウルフがひとつ吠えると、3体のウルフがディアに襲いかかった。
「くっ! ……あれ?」
明らかに腕を噛まれた一撃だったが、鋭い牙は皮膚を貫けず、ディアは無傷のままだった。
それが示すのは、エストの
「帝国に来て初めてのミスは、ダークウルフと戦う前に逃げたことかな。ただ、良い経験をさせてもらった」
初めて、家族以外に沢山褒めてくれる人に会った。
初めて、適性魔力を2つ持つ人に会った。
初めて、冒険者とパーティを組んだ。
「高い魔術耐性? 勝負だダークウルフ。これに耐えたら認めてやる────
純白の多重魔法陣をリーダーウルフの頭上に展開させると、多層魔法陣により一気にその数を増やす。何十とある全ての魔法陣から、氷で出来た針の雨が、音より早く降り注ぐ。
針は深くダークウルフの体に刺さり、その体内で爆発する。
『キャウンッ!』
「……い〜ち」
大量出血によりダークウルフが力尽き、両手でようやく持てる大きさの黒い魔石になった。
それを見て、エストはニヤニヤしながら数を数える。
「ディア急げ! エストが全部やっちまう!」
「分かってる! ミィ、一匹誘導しろ!」
「はいニャ!」
ミィの矢でディアを囲む2匹のうち一匹がミィに向かうと、もう片方のウルフは即座に魔石と化した。
その光景に、ミィは思わず足を止める。
だが、それを見逃すダークウルフではない。
前衛組を襲っていた2匹が一気にミィへと標的を移し、あっという間に飛びかかられる。
が、またもや氷の雨が降り注ぎ、追加で2体が魔石になった。
「よ〜ん」
「待てエスト! コイツは俺達にくれ!」
「頼む! この1匹で良い金になるんだ!」
「ほ、他の4体はエストっちにあげるのニャ!」
「じゃあどうぞ。皆に掛けた魔術だと牙が通らないから、安心してボコボコにできるよ」
あまりに余裕すぎる戦いに、エストはニッコリと微笑んで答えた。まさか針が刺さるだけで死ぬとは、思ってもみなかったことだろう。
魔術とは発想であり、夢を形にする技術だ。
優れた魔術師であれば、その夢は現実として世界に投影される。恐ろしくも面白い、そんな技術である。
「……エスト君は何者なの?」
「僕は忌み子。ただ、人より魔術の才能があって、人より恵まれた環境で育った。魔術を愛した人に愛され、僕も魔術を愛する。そんな魔術師」
最後の一匹がガリオの炎の剣によって首を斬られ、魔石になった。
主部屋がほんのり明るくなると、31階層へ進む階段と、討伐報酬の宝箱が現れた。
「お、終わった……」
「やったな……オレ達、ダークウルフを倒したんだ」
「魔術耐性があると魔石矢も効かないニャんて、初めて知ったニャ」
「僕もそれは気になってた。また実験したい」
「……戦闘狂なのかな?」
それぞれが思い思いの言葉を吐き出すと、今日の仕事が終わった。
今回出てきた宝箱は、やけに縦長だった。
功労者のエストが開くと、中には金属で出来た重たい杖が入っていた。
銀と金の杖は先が鋭く、先端付近にある澄んだ青の結晶は魔術の効力を高めるミスリルで出来ている。
「わぁ……アダマンタイトの杖ニャ……ヤバ」
「アダマンタイトって、希少金属の? 確か延べ棒1つで家が3つ建てられるんだっけ」
エストが興味深そうに頷いていると、ミィは他の3人を集めて話し合いを始めた。
「ニャニャ。ディア、ガリオ、マリーナ」
「当たり前だ」
「だな。オレは文句無いぞ」
「あそこまで相応しい人は他に居ないよ」
「ニャ。じゃあ、そゆことで……」
ミィはニコニコしながらエストの肩をつつくと、エストは振り返って首を傾げた。
これは売って金を山分けするのかな〜と思っていたところ、そんな予想を裏切る言葉が紡がれる。
「それはエストっちの物ニャ」
「え? 売らないの?」
「……売ったら国が買い取っちゃうニャ。なんなら皇帝サマに献上するから、お金も貰えないカモ?」
「え、ヤダなぁ。お金欲しいし」
「だ〜か〜ら! それはエストっちが使うニャ。杖は魔術の効力を高める、知ってるニャ? エストっちが今後魔術師として生きていく上で、その杖は絶対必要になるニャ。だから、ウチが弓を貰ったように、エストっちにはその杖を贈るニャ!」
有難い申し出に、エストは頭を下げた。
あまりそういうことをする子じゃないと知っているガリオは、誰よりも驚いていた。
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
「ニャ! それじゃあ早いけど、戻って祝勝会にするニャ!」
「「「「お〜!!!」」」」
そうして、沢山の成果を持って帰る5人なのだった。
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