第2話 どん底の記憶

 僕こと、三月巧也の人生は、生まれた時から不幸が続いていた。僕の生まれた家系はとても裕福で周りの地域では有名な家系だったが、僕が生まれた時、お母さんが死んでしまった。このことから、家ではお父さんにも兄弟にも嫌われ、みんなからは「親殺し」と呼ばれていた。僕は何もしていない。何も悪くないのに…そんなあだ名が原因で、同世代の子達にも嫌われて、ことあるごとに虐めが起きた。先生でさえ、虐められている様子を見て笑っている。

 それは中学生になっても同じだった。放課後になったら、ひと気のないところに呼び出され、殴られ蹴られの毎日。そうして遅くなって帰ってきて、家でお父さんに怒られて…時には、ご飯だって抜きにされる時だってある。

 そんな生活に慣れてきてしまったころ、僕に1つの幸運が舞い降りた。中学3年生に進級した時、ひとりの転校生がきた。その転校生は、いかにも陽キャらしい挨拶の仕方だ。でも、挨拶の時彼はずっと僕を見つめていた。

 休み時間になると、クラスのみんなは転校生の彼に近寄って「どこからきたの?」「好きなものは何?」と質問の嵐だ。でも彼は真っ先に僕に近寄り、笑顔で「俺と友達にならないか?」と意外な言葉に教室が一瞬静けさがともった。そして一斉に笑い出す。それはそうだ。毎日のようにいじめておもちゃの様に扱っている人にいきなり、友達になろうだといっているのだ。でも、僕はそんな彼がとても眩しく見えた。希望が見えた気がした。それから、僕は彼と友達になった。

 その次の日から、虐められた時には助けてもらって、時には一緒に遊んだりした。彼がいるから頑張れると思った。しかし、現実は甘くなかった。

 1月の半ばのころ、彼は、雪の降った日に、良い景色のある場所を見つけたということで、僕をある場所へ連れていった。しかし、ついた先には、素晴らしい景色ではなく、最悪の光景があった。そこには、僕をいままで虐めてきたクラスのみんなが10人近くいた。


「どうして...」


僕はそう言葉をこぼす。すると彼は


「いやぁ、運が良かったよ。転校して面白いやついないかなと思ってさ。そしたら君がいたんだよ親殺しの三月巧也君」


わけが分からない。僕は現実に背を向ける。冗談だろ?


「巧也君さぁ、僕のこと友達だと思ったでしょ。でも残念。それは全て演技だったんだよ。今日のこの時のためにわざわざ君に期待を持たせてどん底に落とした時の顔が最高だと思うんだよ。みんなもそう思うだろ?」


周りはうなずくもの、笑っているものなど…最悪だった。


「・・・」


「おい、早く巧也のことボコそうぜ」


逃げなきゃいけない。でも、絶望、恐怖などの負の感情が込み上がって足が動かない。足が動いた時にはもう遅かった。僕は、彼らに捕まって殴られ続けた。何分も何時間も…僕は深い絶望と痛みで気絶した。

 目覚めた。今は何時だろうか、分からない。なぜ人生がこんなに辛いのか、分からない。僕が起きた時には、そこは殴られていた森の中とは違って、見覚えのない河原だった。僕は感覚で家の方向を割り出し、歩き出す。体全身が痛い、でも、歩き続けるしかないんだ。歩き始めてから体感3時間が経った。川沿いを下り、傷だらけの体で道を歩いて、ついに家についた。空には太陽が出始めている。家に入ると、お父さんが、傷だらけであることに少し驚きつつも、僕を怒鳴りつけた。どうせ叱られるのだろうとわかっていた。僕の瞳から光が消えた。そして、かけられた言葉が、


「中学を卒業したら出て行ってもらう」


その言葉を聞いた時、1つの考えが思い浮かんだ。これはチャンスではないかと。この家から出て行ったら、お父さんや兄弟からも罵声をあびせられない。しかも、僕を虐めた中学の奴らにも出くわさない可能性が高い。なら、やるしかないと。

 その日のお父さんの言葉から、僕は思いっきり勉強して、虐めが続いても諦めない覚悟であいつらを無視して、家に帰るとすぐに勉強をした。そして3月、高校受験の結果は合格だった。これからは、自分が三月家のものであるのをバレないように目立たずに過ごそう。

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