閑話 狙われた犀


 「よっしゃ。今日の仕事もこれで終わりや。みんな飲みに行こうでー」


 「お疲れーっす」


 定時の時間が来たので、犀はみんなに声を掛ける。犀が眷属ガチャで召喚されてからの主な職場は、システム関係。


 サイバーテロなどの防衛を担っていた。他にも色々やってるが、主にやってるのはこれだ。


 織田天魔が台頭し、『シークレット』というギルドを設立してからというもの。武力方面では敵なしだったが、様々な機関からせめて情報だけでも抜き取ろうと、攻撃を受けていた。


 天魔も一応そっち方面も警戒していたようだが、当の本人が機械オンチ。設備だけ整えて、後は専門の人にお任せという感じであった。


 そして任された側も当然頑張っていたが、犀が来るまではかなりギリギリだったのだ。そこで、犀がテコ入れして、万全の状態になったのはつい最近。


 その頃には職場の人間とも仲良くなり、仕事終わりに飲みに行くのがいつもの流れになっていた。


 「今日はアケミちゃんおるかなぁ」


 「犀さんはすっかりアケミちゃんにお熱ですね。俺はミナミちゃん一筋ですよ」


 「大和撫子って感じがええねん」


 飲みに行くと言っても、行くのはキャバクラである。初めの頃は天魔に風俗に着いて来て欲しいとお願いしていたくらいのチキンであったが、今では女遊びも手慣れたもの。


 キャバクラで楽しくお酒を飲んでから、風俗でしっぽり楽しむのが最近の定番である。


 恐らく、犀が召喚された中では一番エンジョイしてるんじゃなかろうか。


 今日も今日とて、仲良くなった職場の人間数人と最近通ってるキャバクラに向かう。そしてその道中。


 犀の後ろに結界が展開される。


 「うわっ!」


 バチッという音と共に、地面に落ちたのは一発の弾丸。どうやらどこからか狙撃されたらしい。


 犀は運動オンチである。その為、もし襲われたら一般人相手でもなす術がない。だから、犀には天魔から護衛の魔道具をしこたま持たされている。


 そして少し性能は落ちるが、『シークレット』に所属してる非戦闘員にもみんな護衛の魔道具を支給されている。


 たとえ行為中であろうが外すなと厳命されて。織田天魔や戦闘員には手を出さないが、非戦闘員なら狙う奴もいるだろうと、一応警戒はしていたのだ。


 「大丈夫ですか!?」


 「大丈夫や。それよりも犯人を早く…」


 「何があった?」


 犀が犯人を早く捕まえるように言おうとすると、天使の翼を広げた天魔が転移してきた。どうやら、緊急の魔道具が発動したのに気付いて来たらしい。


 「狙撃や。誰かに狙われた」


 「居た。あそこか。俺を見て慌てて逃げようとしてるな」


 天魔が一瞬でその場から消えて、また一瞬で戻ってくる。その手には狙撃したであろう下手人が抱えられていた。


 「うえっぷ。転移は本当に酔うな」


 「助かったで、兄やん。ありがとうな」


 「それは良いけど。今日はもう戻れ。それから当分外出する時は警備の人間を付けろ。魔道具があれば安心だろうけど、万が一があるからな」


 「えぇ…アケミちゃん…」


 「どうしてもそのアケミちゃんとやらと飲みたいなら、呼べば良いだろ」


 「アホ抜かせ! キャバで飲むからええんやろうがい!! 俺はキャバの雰囲気で楽しくお酒を飲むのが好きなんや! 家に呼んでもうたら、それはもうデートやろ!」


 「そ、そうか」


 物凄い剣幕で天魔に詰め寄る犀。犀には犀のなりのこだわりがあるみたいだ。まあ、天魔はキャバに行った事がないので、気持ちは分からないのだが。


 そもそもキャバ嬢を家に呼ぶというのは、大抵の店ではNGである。アフターで仕事終わりにどこかの店に行くのとは訳が違うのだ。


 「まあ、とりあえずこいつが誰に雇われたか分かるまでは、警備の兵を付けるか、夜遊びは控えてくれ」


 「しゃーないか…。分かったわ」

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