第250話 ミリスと公英


 はい、やって来ました、空きフロア。警備員が訓練したり、非番の奴らは駄弁ったりしてる。もう、ここは本格的に訓練場にした方がいいかもしれんな。


 壊れない様にかなり念入りに補強しないといけないだろうが。結界を張ればいいか。


 警備員達にちょっとの間外してくれとお願いして、ここから出て行ってもらう。ゴーレムが動いてる事もあって、興味津々そうにしてたけど、空気を読んですんなり出て行ってくれた。


 「テンマ、私の魔道具」


 「どれを出せばいい?」


 「指輪」


 「はいはい」


 俺はアイテムボックスから、異世界でミリスが作った魔道具を出す。何故か完成した魔道具をポイポイと俺に寄越すもんだから、俺に必要のない魔道具まで、大量にある。


 その中の一つが、この指輪の魔道具である。これ、俺はいらないだけで当時は凄い発明だったんだよね。


 「誰か相手をして欲しい」


 「がっはっはっは! そういう事なら、まず俺様からだ!」


 ミリスが七つの指輪を嵌めて対戦相手を求めると、意気揚々と出て来たのは公英。こいつは戦うのが大好きだからね。


 「じゃあ審判は俺がやろうかな。はじめー」


 俺が間に立って合図をすると、公英は物凄いスピードで、ミリスに接近する。まだ能力も使ってない素の身体能力のみだけど、筋肉ダルマの公英の突進は怖いよね。闘牛が突っ込んでくるようなもんでしょ。


 しかし、ミリスは一つの指輪の魔道具を起動。透明の結界が現れて、公英の突進を止める。


 「むっ! 硬いな!」


 結界を殴って壊そうとした公英だけど、弾かれる。それならばと、能力を使って再度結界を殴る。結界が壊されそうになったところで、ミリスは残りの指輪の魔道具を全て起動させた。


 「魔法か!」


 火、風、水、土、光、闇。基本属性の魔法の矢を各十本出現させて、公英に狙わせる。当然公英は回避しようとするが。


 「逃がさない」


 魔法の矢は公英を追尾する。全方位から魔法の矢で狙い、躱しても再び狙ってくる。


 「ぬおおおおっ! 筋肉最強! パージッ!」


 このままでは埒があかないと判断した公英は意味の分からない掛け声と共に、着ていたタンクトップを筋肉のパンプアップのみで弾けさせる。


 そして魔法の矢を素手で殴って落とし始めた。


 「この世界にも脳筋はいるんだ」


 魔法の矢を素手で叩き落としていく公英を見て、ミリスはうんざりしていた。異世界にもいたからねぇ。まあ、公英の見た目で脳筋じゃなかったら、詐欺だけどさ。意外とインテリなところもあるんだぜ?


 「どこまで頑張れるかな」


 ミリスはそう言って矢を更に追加した。


 そこからはもう、同じ光景だ。公英が叩き落とす。ミリスが矢を追加する。以下ループ。


 勝敗は先に魔力がなくなったミリスの降参で終わった。


 「がっはっはっは! 楽しい運動だったぞ!」


 「これだから脳筋は嫌い」


 公英はまだ余裕がありそうだ。公英だけに限らず、うちのメンバーは特別プログラムのブートキャンプを潜り抜けてきたからね。


 ガチャで出て来たばっかりの頃なら分からないけど、今ならミリスに勝てるぐらいの事は出来る。


 「ミ、ミリスさん! その指輪は一体!?」


 「私が昔作った作品」


 「す、凄いです!」


 「むふん」


 山田花子さんのよいしょにミリスは良い気持ちになっていた。


 「ねぇねぇ〜? その魔道具ってそんなに凄いの〜? 花子ちゃんも浄化の魔道具を作ったりしてたし、それが魔法の矢に変わっただけなら、そんなに大した事はないと思うんだけど〜」


 「何を言ってるんですか! 桜さん! これは本当に凄い事ですよ!」


 まあ、俺も魔道具の事を理解するまでは、桜とおんなじ様に思ってた。けど、多少理解した今は、まあ、凄いなーぐらいには分かる。


 でもね。この指輪の魔道具を作るのに、素材を取りに行ったのは俺なんですよ。そっちの苦労の方が記憶に多くて、素直に賞賛出来ないや。

 

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