第189話 大統領と協会長


 ☆★☆★☆★



 「良かったのですか? 自国での攻略を達成して支持率を高めると言っていましたが」


 「致し方あるまい。あの狭間は我が国の探索者では攻略出来ん。意地を張ってこれ以上死傷者を出せば、支持率は逆に下がってしまう。アメリカが良い例だ」


 ロシア大統領官邸、クレムリンのとある一室にて。


 ロシア大統領とロシア探索者協会の協会長が話し合いをしていた。


 「織田天魔へ支払う報酬は安くはないが、アメリカやバチカンのように無視されたら目も当てられん。他国の人間に頼らないといけないのは非常に悔しいが、これ以上死傷者を出すよりはマシだと思うしかあるまい」


 「そうですね。織田天魔の機嫌だけは損ねてはなりません。かの者に梯子を外されると、世界から弾き出される可能性も否定出来ませんからね」


 ロシア大統領、協会長は自国の探索者で攻略したいという気持ちはもちろんあった。

 特にロシア大統領は探索者上がりの大統領であり、自国の探索者からの支持も大切にしていたのだ。


 しかし、狭間内のあの植物の魔物。

 最初は燃やし尽くせば楽に攻略出来ると思い、国内の火魔法使いを招集し、油などを大量に持ち込み、熱心に攻略に取り組んでいた。


 だが、生半可な火力では燃やし尽くす事が出来ず、時間が経てばあっという間に再生する。しかも、毒の花粉の様なのが出回っており、すぐに死ぬような事はないが、麻痺などで動けなくなる探索者が続出したのだ。


 ロシア大統領と協会長は苦渋の決断で、織田天魔に攻略要請をした。

 国民からもこれ以上犠牲が出るよりはと、一定の理解は得られた。


 それに国民は織田天魔一行がロシアに来るのを楽しみにしていたのだ。


 ロシア大統領も探索者上がりという事もあり、織田天魔やパーティメンバーの凄さというのは理解している。


 圧倒的な力で魔物を捩じ伏せていく動画は、国民の心だけではなく、大統領の心をも揺さぶった。


 「それに織田天魔の報酬は高いが、我が国にお金を落として行ってくれる。攻略後は国の観光をするのが好きみたいだしな。それに付随して経済が活性化する。長い目で見たら悪くあるまい」


 「そうですね。これで探索者の指導なんてのもしてくれると嬉しいのですが」


 「無理だろうな。アメリカは探索者を同行させようとして、拒否されておる。まあ、あれは他の条件も色々おかしかったが。どうしても言うなら、日本に我が国の探索者を派遣するというのはどうだ? きちんと報酬を用意して、とりあえず聞いてみるだけなら、織田天魔も機嫌を損ねる事はあるまい」


 「検討しておきます。織田天魔も忙しいでしょうしね。まだ世界には1級を攻略されていない国が多数あります。これからも攻略要請がある事でしょう。少し落ち着いてからの話になりそうです」


 ロシア大統領は日本に探索者を派遣する事を提案する。我が国で指導してもらうのではなく、こちらから日本に出向く。

 誠意は伝わるだろうし、織田天魔はきちんと筋を通せば話は聞く人間だ。


 その分、道理に合わない人間には滅法厳しいが。


 「それにしても、我が国が言えた事ではないが、他国は大丈夫なのか? 織田天魔が精力的に攻略しているとはいえ、1級の狭間の崩壊期限は2年だぞ? このペースなら間に合うか、間に合わないかギリギリだと思うが」


 「世界探索者協会でもその事を気にしていますね。織田天魔が本気を出せばすぐに終わるのではと楽観視している者もいますが」


 「ふむ。一人に頼り切りは良くないと思うのだがな。これも我が国が言えた事ではないが」


 「織田天魔もそれを危惧して、日本の探索者を育てたり、自分のパーティメンバーに積極的に経験を積ませているのでは?」


 「なるほどな。………やはり我が国もウカウカしてられんか。先程は落ち着いたらと言ったが、探索者の派遣の件は話だけでも先にしておいた方がいいかもしれん。また世界で同じ様な事が起こった場合、織田天魔しか頼れないというのは、あまりに危険だ」


 「分かりました。滞在中に話し合いの場を設けてもらいましょう」


 「くれぐれも機嫌だけは損ねてくれるなよ」


 その後も軽く雑談をして解散となった。

 協会長は織田天魔との交渉に胃が痛くなりそうな思いだったが、なんとか自分を奮起させ、素案をまとめるのであった。


 

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