第162話 課題
「やっぱり厳しそうだな」
俺は目の前で繰り広げられてる戦いを見ながら呟く。デスナイト抑えるのでいっぱいいっぱいな公英と神田さん。
抑えられてる間にリッチ二体が魔法をバカスカ撃ってくる。桜と陽花は対応に忙しそうだ。
「全く。やっぱり陽花には防御についてしっかり学ばせないとダメだな」
前にも言ったんだけど。
陽花はなまじ不死性があるからか、防御を疎かにし過ぎてる。俺が何度も口酸っぱく言ってるから改善傾向にはあるものの、やっぱりどうせ死なないという驕りが消えてないように思う。
まぁ、確かに死にはしないだろう。
今もリッチの火魔法を特に対処せずに、聖水をばら撒こうとしてるが、陽花の体積がどんどん減って行っている。
リッチの対処に追われて、水分補給も出来てないしね。
「公英と神田さんもだな」
あの二人もやっぱり武術が必要だ。
公英は未だに迷ってるからね。そんなに迷うなら、とりあえず色んな武術に手を出してみればいいのに。身体能力だけのゴリ押しじゃいずれ限界がくる。
俺みたいに我流でもいいから、ちゃんとした体の動かし方ってのを学ぶべきだ。
神田さんは経験不足もあるな。『シークレット』に入って急激に成長してる神田さんだけど、まだ探索者学校を卒業して1年も経ってない。まだまだ動きの荒いところが多々ある。神田さんにも何か習ってもらうべきなんだけど、こっちはちょっと扱いが難しい。
変態対象によって合う武術も違うだろうしね。色々な変態先に合わせて武術を使えれば文句ないんだけど、そこまでの域に達するにはかなりの時間が掛かるだろう。
それに神田さんには変態先を増やす為に観察もしないといけない。時間の使い方が重要になってくるな。
「桜は…うーん…」
桜はアンデッド相手には相性が悪い。
技術とかは『シークレット』の中でも頭抜けているしね。根が真面目なのか、ちょこちょこ糸を動かす練習もしてるし。
桜にはここらで一つレベルアップをしてもらうべきか。糸への属性付与。
『万能糸』って能力名なんだから、そういうのも出来ると睨んでいる。
光属性の糸とか出せるようになったら、アンデッド相手にも有利に立ち回れるだろう。
ペルーに来た当初はさっさと攻略して観光しようと思ってたけど、これは良い教材になりそうだ。この狭間で『シークレット』の課題を浮き彫りにして、各自スキルアップしてもらおう。
「あ、やばいな」
陽花が5歳児ぐらいまで小さくなってる。
公英と神田さんも少し押され気味だけど、あそこは時間を掛ければなんとかなるかもしれないから少し様子見。
リッチの数を一体減らしてやろう。これでとりあえず陽花が水分補給する余裕が出てくるだろう。
俺は光魔法の極太レーザーでリッチの魔石を消し飛ばす。アンデッドは頭を刎ねたり、潰したりしてもあんまり意味がないからね。魔石を直接狙った方が早い。
勿論弱点という事もあり、そこの防御は堅固だが、俺からするとそこらの魔物と変わらん。異世界の野良で出て来た魔物なら、素材の質とかを気にして倒し方にも気を配らないといけないけど、ここは狭間なので、ドロップ品として綺麗な状態で出て来てくれる。
その点は楽で助かるね。
「おーい。早く仕留めないと、なんかまた魔物が寄ってきてる気配があるぞー」
この戦闘に時間をかけすぎだ。
戦闘音が聞こえたのか、生者の気配に誘われたのか、別の魔物がこっちに向かって来ている。
「だ、だ、大丈夫なんですよね?」
撮影をしていた大村さんが少しビビりながら聞いてくる。数々の1級を撮影してきた大村さんでも今回の狭間は不安らしい。
まぁ、普通の1級だったらボスの奴が、モブでわらわら出てくるもんな。
そりゃ心配にもなるか。でも大丈夫。その気になればすぐに攻略出来るので。
「大丈夫ですよ。いざとなれば俺がなんとかするので」
「本当に、本当にお願いしますね」
すっかりへっぴり腰になっちゃった大村さん。非戦闘員が1級の狭間に入ってるってだけで凄いからね。無様だとかは言えない。むしろ誇るべきだ。
魔族みたいに魔法に耐性がある相手じゃなくて良かったなぁ。今回の禁忌領域はかなり楽な部類だ。半ば俺の趣味の為に結界を張ってたみたいなもんだし。
「むーん。一旦魔物を処理して休憩時間を入れるか」
みんなかなり消耗している。今回の魔物はどうにかなっても、次に寄って来ている魔物はきついだろう。
初日だし、あんまり飛ばし過ぎるのも良くない。じっくりねっとり追い込んでいこう。
俺はそんな事を思いながら、光魔法を乱射して雑に魔物を処理した。
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