第158話 ペルーの狭間


 「憤怒サタン最強」


 「まさか俺様が指スマで負けるとは…」


 ふはははは! 筋肉の鍛え方が足りないのではぁ? そのムキムキは見かけ倒しだったようだな!!

 出直してきやがれ!!


 「だんちょ〜。あと15分ぐらいでつくみたいだよ〜」


 「あいさー」


 結局約20時間のフライトを指スマだけで終わらせてしまった。

 少しばかり睡眠も取る予定だったのに。なんだか眠くなってきたな。


 「今回も野次馬が待ってると思うよ〜。眠そうな顔で出ないでね〜」


 「分かってらぁ」


 途中で指スマを抜けて睡眠を取っていた桜と神田さんはコンディションばっちりだ。

 俺もムキにならないで、少しは休めば良かった。


 「私も体調はバッチリですよぉ」


 「それはそれでおかしいんだ」


 陽花は指スマに参加しつつも、20時間寝る事なくお酒を飲み続けていた。

 それで酔っ払ってないのも不思議だし、体調がバッチリなのもおかしい。お酒臭くもないし。なんか妖艶な匂いがする。


 「ペルーの狭間で鍛えねばなるまいな。俺様の筋肉が負ける事などあってはならん」


 「たかが指スマで大袈裟なんだよ」


 指スマで筋肉の勝敗が決まってたまるか。

 勝った俺がムキムキみたいじゃんか。鍛える事が悪いとは思わないけどさ。




 「使徒様ー!!」


 「桜たーん!!」


 空港に出るとやっぱり野次馬だらけ。

 毎度こうやって出迎えてくれるのはありがたいよね。俺も頑張って狭間を攻略しようって気になります。


 「ぬんっ!」


 どこからか野太い声が聞こえてそっちを見ると、やっぱり筋肉信奉者が集まっていた。

 公英がうちに入ってから見られるようになった、筋肉感染者達。ポージングをして声援に応えてる公英が暑苦しい。


 「これは何語でしょうか? 声を掛けてもらえるのは嬉しいのですが…」


 「スペイン語が多いなぁ」


 神田さんは野次馬に声を掛けられててんやわんやしてた。桜が近くで通訳してあげてるけど、分からんよなぁ。


 探索者学校で外国語も教えればいいのに。

 こうやって海外に遠征する事もあるんだしさ。



 いつも通り憑依して浄化をばら撒きつつ、ペルーの人達と交流してると、探索者協会の人がやってきた。


 いや、結構最初の方から近くに居たんだけどね。俺達が野次馬との交流を大事にしてると分かってるからか、待っててくれたみたい。


 「ペルーへようこそ。狭間攻略よろしくお願いします」


 人当たりの良さそうな男性に案内してもらいつつ、車に乗って協会へ。

 今回からの攻略は楽なもんなんだよね。台湾韓国の人達みたいな付き添いもないし。

 出来れば動画は撮って欲しいって言われてるけど、それだけだ。


 俺が狭間に入って魔法をドッカンするだけで攻略が終わる。狭間に少し寄り道して観光するみたいなもんだ。


 俺に指スマで負けてやる気になってる公英がいるから、少しはみんなにやってもらうかもだけど。1級で戦える経験は貴重だしね。


 「ん? んー?」


 「どうかなさいましたか?」


 「あ、いえ。なんでもありません」


 とりあえず狭間を見たいって事で、連れて来てもらったんだけど。

 これ、禁忌領域っぽい。


 「探索者は誰も入ってないですか?」


 「ええ。我が国には飛び抜けたギルドや探索者が居ないもので。どこも尻込みしてしまってる状況です」


 ふーむ。ペルーの皆さんは助かりましたな。他国と同じ様に攻略しようとしてたら、普通の1級よりも犠牲が出てただろう。


 「崩壊するまでに攻略すれば良いですよね?」


 「はい。タイミングは織田さんに任せます」


 ちょっと山田花子さんをこっちに呼び出そう。禁忌領域を調べてもらうチャンスだ。

 あ、先に中に入って本当に禁忌領域か確認しておくか。本当にそうなら、多分中に入れば分かるはず。


 「ちょっと待ってて。中に入って確認してくる」


 俺は他のみんなには外で待っててもらって、スパッと中に入る。


 「あーなる」


 お下品な事を呟きつつ納得する。

 入った瞬間どこか分かってしまった。

 禁忌領域にしては優しい場所だ。まぁ、確かに魔物は強いけど、ここはいずれ探索しようと思って結界を張ったものの、色々あって結局放置してただけだし。


 「ここなら俺が手を出さなくても、あいつらだけで攻略出来るかもな」


 よし。戻ろう。

 山田花子さんに禁忌領域と1級の狭間を分けて判別する事が出来るか相談だ。

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