第139話 生産ギルド


 「とりあえず4つですか」


 「ええ。岩手、千葉、京都、福岡に」


 今日は俺と陽花で協会に来ている。

 いつもはお供が桜なんだけど、桜は吉野さんの方に行ってるので。あっちには神田さんが一緒に行っている。公英は警備員と遊んでる。


 で、なんの話しかというと、生産者学校を建てる場所といくつ作るかって話だ。

 俺としては今ある探索者学校を拡張して、生産者学校を併設してしまえば楽なんじゃないのと思ったんだけどね。三年生は狭間素材を持ち帰ってくるし、それを練習材料にも出来る。

 我ながら冴えてると思ったんだけど。


 『どうせなら探索者学校がない都道府県に建てて地域活性を』


 日本の政治家さんはそう考えたみたいですね。

 まぁ、日本が盛り上がるなら良いかと俺も了承した訳だ。生産者学校を作ったくらいで、地域が活性化するのかは疑問だが。


 「それから出資の件なんですが」


 「ああ。耳聡い企業が聞き付けてきたとか」


 「ええ。自分達も出資して優先的にスカウトしたいみたいですね」


 「良いんじゃないですか? それがちゃんとした企業なら」


 ほら。大村さんみたいにさ。

 ブラック企業に潰されるなんてダメだから。

 優秀な成績で卒業してブラック企業勤めなんて、昔はあるあるだったけど、俺が噛んでる仕事でそういうのは出来るだけ無くしたいよね。


 「後は講師ですねぇ」


 陽花が出されていた紅茶を優雅に妖艶に飲みながら呟く。こいつが酒以外を飲むとは。狭間で水をがぶ飲みしてた時以来じゃないかね。

 流石に朝倉さんの前でお酒を飲むほど非常識じゃないらしい。桜は爆睡かましたりしたけど。


 「生産関係は遅れてるもんなぁ。生産ギルドに依頼を出して出向してもらうか…」


 「そちらの交渉は協会がやりましょう。今現在、日本で一番進んでるのは生産者ギルドでしょうし。『シークレット』を除いてですけどね」


 朝倉さんが苦笑いしながら答える。

 まぁ、山田花子さんが狭間探知機とか発明しちゃったしねぇ。その山田花子さんは人に教えるのに向いてないし。


 「武器、薬、魔道具。とりあえずこの三つは重点的に育てたいですね。建築やらも重要ですけど」


 「鍛治なら『打倒アスカロン』、薬は『魔女の釜』、魔道具は『マッドサイエンティスト』ですね」


 「名前が物騒」


 朝倉さんが挙げてくれたのは、日本で恐らくトップであろう生産ギルドらしい。


 『打倒アスカロン』

 名前の通り、聖剣アスカロンを超える剣を生み出すのが目標のギルドだ。別に柴田さんと仲が悪い訳ではない。むしろ、柴田さんは積極的に交流している。鍛治師が多く在籍してて、剣以外にも中々の品を探索者に売っている。


 『魔女の釜』

 ここはポーションやら、お薬関係を主に扱っている生産ギルドだ。ポーションの素材は魔石と薬草がメイン。薬草は低級の狭間の宝箱で出たりする。後は、フィールドタイプの狭間で採取したり。フィールドタイプは1級か2級が主だから、滅多に入手出来ないけどね。それを栽培したりもしてるみたいだな。その関係で農業系の能力を持ってる人も在籍している。ほとんどは薬師とか錬金術師だけどね。因みにギルド長は男だ。何故魔女なのか。


 『マッドサイエンティスト』

 名前がアウトなギルドだが、危ない事は一切していない。真面目に魔道具を作っている。

 といっても、このギルドは探索者を相手にしている訳ではなく、主に相手にしてるのは国だ。

 エネルギー問題の解決。魔石を運用して国の役に立つ魔道具を開発してるみたいだ。


 「後は細々した生産系ですね。細工とかも魔道具を作る時の魔石弄りに使えますし」


 「そうですね。各ギルドに声掛けさせて頂きます」


 「激務ですねぇ」


 それな。陽花が言うように、朝倉さんは優秀すぎる。それ故に仕事を抱え込みすぎてるように思う。

 大丈夫なんだろうか?


 「はははは。慣れたものですよ。会長も今は忙しいみたいですからね。私も頑張りませんと」


 死んだ目で言われても説得力がないんだよな。

 因みに日本探索者の会長、伊達さんも激務の真っ最中である。1級攻略の後始末に、他国から俺への攻略要請の仲介と折衷、更に世界探索者協会へ狭間探知機の売り付け。

 ………ほとんど俺が関係してますね。


 「これどうぞ」


 俺は朝倉さんに断って憑依してアイテムボックスから箱に入ったポーションみたいなのを渡す。


 「織田さん、これは?」


 「疲れを吹っ飛ばせ薬です」


 「はい?」


 「疲れを吹っ飛ばせ薬です」


 俺が渡したのは異世界産のお薬。

 名前の通りそれを一本飲むと疲れが吹っ飛ぶ。

 効き目がやばいエナドリみたいなもんだ。

 名前は気にしないで欲しい。向こうでそれを作った奴がそう言ってたんだ。

 魔王戦ではお世話になった代物です。


 「1日1本までならそれを飲むと疲れが吹っ飛びますよ。やばいものは入ってないので、是非伊達さんと朝倉さんで使ってやって下さい」


 容量用法は守ってね。

 転移酔いより酷い気持ち悪さが襲ってくるよ。

 耐性がある俺でも1日3本が限界だ。

 死んだりする事はない。ただ気持ち悪くなるだけ。その気持ち悪さがこの世のものとは思えないだけで。拷問とかにも使えますよ。

 

 

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