第112話 推し騒動


 「牛丼が一番に決まってるんだよ〜!」


 「焼き鳥の美味しさが分からないなんて。桜ちゃんはまだまだ子供ねぇ」


 「中華こそ至高!! それに勝るものなど存在せん!!」


 「なんでも良いから早く決めてくれ」


 ギルドを見回った日の夜。

 桜と陽花が買い物から帰ってきて、ご飯を食べに行こうと言ってきた。

 どうやら食べて帰って来なかったらしい。

 で、どこに行くって話になった訳だけど。


 「お姉さんこそ牛丼の良さが分かってないんだよ〜! あのお値段であの量と質! これはどの料理にも真似出来ない事だよ〜!」


 吉野さん推しは勿論桜。

 今までは俺と二人だったから、行きたいって言えば大体OKだった。俺は基本なんでも食べるし。ご当地に行ったら名物を食べたいけど。


 「お酒と一緒に食べる焼き鳥こそが一番良いんですよぉ」


 鳥貴品推しは陽花。

 陽花はこれまでの言動でお酒大好きってのは良く分かったからね。焼き鳥をアテにしてお酒を飲みたいって事なんだろう。


 「餃子! 焼き飯! ラーメン! 全てに置いてパーフェクト!!」


 玉将推しは公英。

 こいつは筋トレ終わりに栄養をチャージしてたはずだけど、晩飯はそれと別腹らしい。

 なんでもいいけど静かにして下さい。


 「宅配でお願いしたら良くない? 各々好きな物頼んでさ。このままじゃいつまで経っても決まらないよ」


 こいつら、あとちょっと放置してたら戦闘に発展しそうだったぞ? 

 晩飯をかけてバトルしようとすんなよ。家が壊れるだろ。


 って事で桜がみんなの分を注文して丸く収まりました。俺は全部を少しずつ摘む感じですな。

 俺と桜は滅茶苦茶食べる方なんだけど、陽花と公英はどうなんだろうか。

 公英は無限に食べれそうな体型してるけど、陽花は未知数ですよ。でも注文した量的にかなり食べるんだろうなぁとは思う。


 二人増えた事でエンゲル係数が爆上がりですよ。

 いつかご飯代を稼ぐために狭間に行かないといけなくなるかもしれんな。




 「よ、よ、よろしくお願いしましゅ!」


 翌日。あいつらはまた夜通し飲んで騒いでと楽しんでたらしい。俺は眠たくなったので途中で抜けたけど。流石に連日のお酒は疲れる。


 で、今日は神田さんの指導。

 場所は13階の何もないスペースだ。一応軽く暴れても大丈夫なように結界は張ってある。

 本当は桜も来てくれる予定だったんだけど、爆睡してらっしゃるので、俺とマンツーマンでの指導だ。あがり症の神田さんには少し辛い時間になるかもしれないが頑張ってほしい。


 『変態』は可能性を秘めた能力なんだ。

 異世界にも二人ぐらい居た。そいつらは魔物に変身して戦う事が出来てそこそこ強かったんだよね。


 「神田さんが今変身出来るのは?」


 「ヒグマとオオスズメバチです!」


 お、小〇艦長ですか。

 まだ二つだけだけど、これから数も増やしたいきたいところ。条件が結構厳しいけど。異世界の奴らと一緒なら時間が掛かるんだよね。


 まず、変態したい生物をひたすら観察し続ける。すると急に、ピーンと閃く感じになって変態出来るようになるらしい。時間はその時によって違う。

 ヒグマは一ヶ月で。オオスズメバチは半年かかったらしい。


 制限があるタイプや条件があるタイプの能力ってクリアするとめっちゃ強いんだよなぁ。

 神田さんもこれから強くなっていく事だろう。

 俺達『シークレット』が全面的にサポートするしね。目指せ! テラフォーマー〇コンプリート!

 毒があるやつとかも平気だからね! 万が一死んでも俺が蘇生出来るから! 安心して観察して下さい! 欲しいものはなんでも調達してきますよ!


 「まぁ、でもまずは変態時間を伸ばす事からだな。魔力依存だよね?」


 「は、はい!」


 じゃあまずはひたすら能力を使って魔力を増やす所からだな。ついでに戦闘技術向上の特訓もやろう! 




 「七海ちゃんごめんね〜。だんちょ〜に変な事されなかった〜?」


 「だ、大丈夫です!」


 訓練が始まって一時間。

 桜が慌てて13階にやってきた。


 「だんちょ〜が起こしてくれないからだよ〜!」


 「気持ち良さそうに寝てたし」


 ポテをお腹に乗せてそれはもうぐっすりと。

 別にどうしても桜が居ないと訓練出来ない訳じゃなかったしさ。


 「訓練も終わりそうなんだけど」


 「もう〜? 早くな〜い?」


 「神田さんはまだまだ魔力量が少ないんだ」


 「す、すみません」


 つい最近まで学生だったんだから仕方あるまいて。これからの成長に期待ですよ。定期的に狭間を落札して成長の度合いを確認すべきだな。


 「ふーむ。桜と公英と陽花は今度の上位ギルドブートキャンプに放り込む予定だったけど、神田さんも一緒にやらせようか。一度命の危機ってのも味わうべきだと思うんだ」

 

 「鬼畜〜」


 「ひえっ…」


 いやいや、死ぬ一歩手前を感じるのは大事だぞ? それを知ってるか知らないかで実力は大きく変わると言っても過言ではない。

 ここぞという場面で絶対に役に立つはずだ。


 「ふっふっふ。次のブートキャンプで日本の2級は俺が手を出さなくてもクリア出来るぐらいまで鍛え上げてやる。みんなには地獄を見てもらうぜぇ」


 今のうちから練習メニューを考えとかねば。

 俺の指導は模擬戦がメインだけど、流石に大人数を相手するのは効率が悪い。

 ゴーレムでも使うかな。確かアイテムボックスにそれなりに強いのが入ってたはず。異世界のゴーレム職人に作ってもらった特注品である。

 男の子はロボに憧れるもんなんだぜ。流石に大きさは等身大サイズだけど。でっかいのは諦めました。


 

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