第92話 怠惰


 狭間から出ると、パシャパシャといっぱい写真を撮られる。


 「も、もう出て来ました!! まだ狭間に突入してから10分程度しか経っていません! 海のフィールドをどう攻略するか注目されていましたが、もう攻略したんでしょうか!?」


 レポーターっぽい人がフランス語で大声で捲し立てる。

 興奮し過ぎて血管が切れたりしないんだろうか。

 とりあえず報道陣に向かって手を振っておく。


 「使徒様が手を振ってらっしゃいます! これは攻略成功という事で間違いないでしょう!!」


 レポーターの人がそう叫ぶと野次馬は歓喜に包まれる。

 これでまだですとか言ったらどうなるんだろう。

 しまったな。敢えて攻略せずに出て来てその反応を見てみたかったぜ。


 俺はちょびっと邪な事を考えつつ、笑顔で手を振りつつその場を去ろうとする。

 その時だった。


 パーンと銃声の様な音が聞こえた。


 「なになに〜? 危ないよ〜」


 どうやらそれは俺を目掛けて撃たれたらしく、桜が瞬時に糸で絡め取っていた。

 ただの強キャラムーブなんよ。


 集まっていた野次馬は一瞬の静寂の後に、大混乱に陥った。


 「おおー。大パニック。映画みたいだ」


 「呑気だね〜。狙われたのだんちょ〜だよ〜?」


 銃撃ぐらいなら『反転』で弾き返せましたし?

 あんな単純な武器。魔法よりよっぽどやりやすいですぜ。今回は桜さんの強キャラムーブに花を持たせただけだし?


 「とはいえ、これは不味いな。統制が取れてない」


 「犯人には糸を既に糸を付けてあるからいつでも捕まえられるよ〜」


 優秀かよ。『万能糸』って俺の『憑依』より使い勝手良くない?

 羨ましいんだけど。


 「仕方ない。悪魔に憑依するから糸で俺を隠してくれ」


 「ういうい〜」


 悪魔に憑依するのは誰にも見られたくないので、桜に俺の事を糸で覆い隠してもらう。


 「憑依ポゼッション:勤勉サンダルフォン


 傲慢ルシファー の呪言で黙らせても良いんだけどね。

 せっかくだし、久々に違う悪魔に憑依したい。


 「反転せよ」


 問題はこいつは全悪魔の中で一番調整が面倒だって事だけど。たまには憑依しとかないと嫉妬レヴィアタンみたいに肝心な時に失敗してしまう。

 初めてこれに憑依した時は死にかけたし。


 「怠惰ベルフェゴール



 その瞬間、体が一気に脱力しそうになる。

 俺はすんでのところでそれを抑えて軽く深呼吸。


 「ふぃー。こいつは本当に面倒だ」


 「うわ〜。だんちょ〜それはダサくな〜い?」


 だまらっしゃい。

 付属品が付いてないだけありがたいと思え。


 「いや〜。その姿はきついよ〜」


 今の俺の姿は醜悪な顔をした悪魔だ。

 身長は縮み、ガリガリに痩せ細り、二本の角と尻尾。分からない人はグーグ○で調べて欲しい。

 あの便器に座ってるやつだ。流石に便器は顕現していないが、それでも酷い容姿をしている。

 こんな姿見られたらファンが離れちゃうぜ。調整が難しい分、能力はかなり強力だが


 「さて。さっさと落ち着かせてしまおう」


 怠惰ベルフェゴールの能力は意思消失。

 色々な使い方があるが、簡単に言えばやる気がなくなるよーって事だな。

 これに俺は殺されかけた。初めて憑依した時は何もやる気が起きなくて。

 ご飯食べるのも面倒でその場から全く動かなくなったからな。後少し能力に慣れるのが遅かったら死んでただろう。


 「意思消失マインドディサピアー


 俺は集まってる野次馬やその他諸々に向かって能力を行使する。

 するとさっきまで騒いでた全員がその場で動きを止めてパタパタと倒れ始めた。


 「ふぅ」


 騒ぎが収まった事を確認して憑依を解除する。

 あー体がダルい。


 「凄いね〜。こんなの使えば狭間なんて一瞬じゃないの〜?」


 「まぁな。こればっかりは精神力がモノをいうから。単純思考な魔物なんてちょろいもんよ。魔王には効かなかったけど。ってか、魔王の前でこれに憑依する暇があんまり無かった」


 覆い隠してもらってた糸をどけて周りを見渡す。

 凄いな。マジで映画みたい。こんな大勢の人が倒れてるなんて。現代じゃ中々見られない光景だぞ。

 異世界では結構見たが。


 「さてさて。じゃあ俺の華々しい凱旋にケチをつけてくれた下手人の顔を拝むとしますか」


 倒れてる人達は一旦放置。

 効果時間は短めにしておいたし、そのうち目覚めていくでしょう。

 言い訳は適当に。眠りの魔法でも使いましたとでも言えばいいだろう。


 「桜」


 「ういうい〜」


 桜にお願いして糸で捕まえてもらう。

 撃った奴はすぐに逃げ出したみたいだが、桜の糸でこちらにどんどん引き寄せられていく。


 「あ〜何かにぶつかった〜。生きてるかな〜?」


 「死んでても良いだろ。なんでこんな事をしたのかは気になるが」


 桜は相当雑に手繰り寄せてるらしく、道中どこかにぶつけまくってるらしい。

 そして、目の前に連れて来られたのは腕や脚がいけない方向に曲がって気絶している一人の欧米風の男だった。


 「知ってる?」


 「知らな〜い。外国の人ってある程度顔が整ってないと一緒に見えるんだよね〜」


 それは諸外国から見たアジア人にも言える事だぞ? 俺も人の事言えないけど。一緒に見えるし。

 

 「うーん。無理矢理起こすか。生きてるっぽいし、なんでこんな事したのか気になるし」


 銃撃で俺を殺せるとでも思ったのかね。

 流石に舐めすぎだと思うんだけど。

 天使に憑依してなくても、俺ちゃんは結構強いのよ? 生身でも避けようと思えば銃撃ぐらい避けれる。黙ってる『反転』もあるしさ。

 何より今回の事でも分かっただろうが、桜さんは万能だ。何故こんな無謀な事をしたんだろうね。


 


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