第53話 大罪


 「どういうこと〜?」


 桜さんが寝ぼけ眼で聞いてくる。まぁ、起き抜け一発目にこんな事を言われても理解出来ないだろう。


 「あいつはとんでもない罪を犯しやがった。これだけは許せねぇ」


 「なんなの急に〜?」


 そう。あれは昨日。

 いつもの様に桜さんと夜の格闘技をお相手願い、12Rまでもつれ込んだものの、なんとか判定勝ちを掻っ攫い気持ち良く睡眠した時の事だった。


 「あいつ夢に出てきやがった」


 「草」


 何が悲しくてあいつを夢でまで見ないといけないのか。初めはそういう能力かと思って跳ね起きたぐらいだ。


 「そうじゃないと分かって、気を取り直してもう一回寝たんだけど…。また夢に出てきやがって」


 「草」


 わざわざ嫉妬レヴィアタンに憑依して精神に異常がないか確認したというのに。

 何故夢に出てくる。何故、夢の中で老害が裸で狭間を攻略してるのを見なければならないのだ。


 「お陰で寝不足。現在、俺の脳みそは老害の裸で埋め尽くされてやがる」


 こんな事、異世界で魔王討伐に苦労してる時でもあり得なかった。ここまで俺を苦しめるとはな。

 老害、中々やるではないか。


 「って事で攻略が終わったら、老害を仕留めに行くぞ」


 「ふ〜ん? まぁ、だんちょ〜がそう言うならそれで良いけど〜」


 いや、殺すだけでは生温いな。嫉妬レヴィアタンを使って精神操作して、地獄を見せてやる。

 あいつにはとことん恥をかいてもらおう。


 「はぁー。初めからこうしておけば良かった」


 「まさか老害さんも夢のせいで失墜させられるとは思わないだろうね〜」


 知るか。あれだけ俺にちょっかいをかけておきながら、今までまともに生きれていた事を喜べ。





 「はい。じゃあ今日で攻略は終了になると思います。ボス戦だけですからね」


 気を取り直して合同攻略。

 明智さん達工作員にやっぱり消えてもらう事にしたのを後で伝えておかないとな。


 俺は今、カメラの前で大村さんにインタビューされている。ギルドリーダーのコメント等も映像の合間に挟んだりするみたいだ。

 なんかドキュメンタリーみたいな映像に仕上がりそうだね。


 「織田さんにおんぶに抱っこな状態ですが、なんとかここまで来れました。最後まで気を抜かずに頑張ります」


 優等生みたいなコメントをする稲葉さん。『暁の明星』はほとんどサポート無しでやれてたと思うけどね。次はギルドのみでの攻略を目指す事だろう。


 「三日間っていう短い時間だったけど」


 「魔法の使い方は格段に上手になったね!」


 元気にコメントするのは毛利双子姉妹。

 まだ若くてまだまだ成長出来る。それを証明するかのように、短時間の指導で魔法効率は恐ろしく上がった。火力や継戦能力が上がって、これからますます躍進出来る事だろう。


 「わいらギルドがまだまだやって事を思い知らされたわ。天魔には既に指導を頼んだし、これからの活躍に期待してくれな!」


 柴田さんが率いる『リア獣撲滅』。ここは有用な能力を持ってるのに、それにあぐらをかいていて勿体無いギルドだった。

 今回の合同攻略で自分の未熟さを知ったからか、攻略中の指導は一番貪欲に聞いてくる。

 桜に話しかけられてデレデレしてるのは如何なものかと思うが。


 「私達のギルドはまだ本格的な指導はしてもらってないんだ。今回の攻略ではあまりお役に立たなくて残念。指導が終わった後の新生『夜明けの時間』を楽しみにしておいてほしい」


 相変わらずイケオジの吉岡さん。さぞかし世のご婦人方の人気がある事だろう。

 申し訳ないけど、吉岡さんは意図的に避けてきた。だって、あの人銃を持ったら話聞かないんだもん。あれだけ豹変するのに、人気があるんだからな。世の中、性癖が歪んでらっしゃる方が多いんだなと思いました。まる。


 因みに協会のお抱え探索者のコメントは無し。一応戦ってはいたけど、名目は大村さんの護衛だし。

 メインはギルドの人達って事だろう。




 「さって。じゃあ入りますか」


 2級だし、ボスで出てくるのはキングって事はないだろう。オークジェネラルに取り巻き多数って感じだと思われる。


 「やばくなったら介入しますが、皆さんだけで充分やれる筈です。頑張ってくださーい」


 「ふれ〜ふれ〜」


 チラッと大村さん達の方を見ると、真田さん他協会探索者も参加したそうにしている。

 ふむ。まぁ構わんだろうよ。


 「大村さんの護衛は俺と桜で請け合いますよ。皆さんはどうぞ、参加して来て下さい」


 「え? 良いんですか? 悪いですねぇ」


 全く思ってなさそうにウキウキと前線へ向かう真田さん。他の皆さんも仕方ないなぁという雰囲気を装いながらも嬉しそうだ。


 「申し訳ないです」


 「いえいえ。お気になさらず。見てると戦いたくなる気持ちは分かりますしね」


 俺は大村さんの隣に立ち、今にも扉を開けようとする面々を見る。

 みんな気を引き締めつつも、これから起こる戦いを楽しみにしてるように見える。


 「桜も行くか?」


 「あたしはいいや〜。今日の晩御飯の事を考えるので忙しいし〜」


 北海道名物はまだまだ食べ尽くしてないしな。

 あのラーメンももう一回食べたいし。


 「織田さん達はいつも通りですね」


 「まぁ、2級ですし。万に一つも負けはありませんよ」


 ちょっと舐めてるかもしれないけどね。

 事実ですし。なんなら憑依して魔法一発で終わりますし。

 大村さんはデンと構えていい映像をお願いしますよ。


 

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