第39話 死屍累々
「うぅ…」
「ぐっ…」
「……」
「だめだめ〜。これ以上やったら死んじゃうよ〜」
『暁の明星』の指導が始まって、早くも1週間が経過した。
朝に事務所にやってきて、夕方までひたすら模擬戦。しっかりと死ぬ一歩手前まで追い込み、最後は光魔法で回復してから帰る。
こんな生活をしてると、先に精神がやられるんだよね。体は治せても、精神は無理だ。
これを乗り越えてもらわないと、一段上の探索者にはなれない。是非頑張ってほしい。
「桜は比較的早く順応したな」
「それでも毎回死にそうなんだけどね〜」
眷属ガチャから出てきたお陰か、スペックが高い。最初はヒーヒー言ってたくせに、今では模擬戦も一番長く続けられている。
「『暁の明星』の皆さんはもう一声欲しい所ですね。せめて近接では俺に勝てる様になってもらわないと」
恵まれた能力があるのに、悪魔に憑依していない俺に勝てないのは問題だ。
天使への憑依も、身体強化は軽くされているが、本当に軽くだ。
専門の能力には遠く及ばない。
まだまだ無駄ばかりの使い方をしてるという事だね。
「では、今日はこの辺にしておきましょうか」
「あ、ありがとうございま…した…」
光魔法で回復してあげると、稲葉さんはなんとかお礼を言って気絶した。
いつもの事だから気にしない。最初は最後まで意識を保つ事すら出来なかったんだし、進歩はしてるだろう。
「さーて、飯でも食いにいくか」
「今日は牛丼ね〜。訓練終わりは牛丼食べないと生きていけないよ〜」
地下にある訓練者から出て、近くにいたギルド員に倒れてるメンバーを頼む。
最初は尊敬した目で俺を見ててくれたんだが、日が経つにつれて、畏怖するような目に変わっていった。失礼しちゃうよね。
まぁ、上位ギルドの攻略メンバーを毎回ボロ雑巾にしてたらこういう評価にもなるか。
「今日はじゃなくて、今日もだろ? まさか週7で晩飯が牛丼になるとは思わなかったぜ」
「牛丼ってなんで飽きないんだろうね〜。最高の食べ物だよ〜」
いや、俺は飽きてるが。
最近は牛丼メニューを全制覇したから、カレーにシフトチェンジしてるぐらいだ。
ネギ玉牛丼は絶対に頼むが。
「よし。中々良いじゃないですか」
「休暇も無しにあれだけやると流石にね。これで成果無しなら唯のイジメですから」
あれから更に2週間。
未だに牛丼生活から抜け出せない。
毎日の様に行くから店員も苦笑いである。
そんな事はさておき、指導はそろそろ大詰めだ。
一応期間は一ヶ月の予定だったから、なんとか間に合いそうである。
毎日顔を合わせているからか、指導メンバーとは仲が良くなったと思う。
軽口を交わせる程度には交流は深まった。
「イジメとは人聞きの悪い。最初に地獄を見てもらう事は了承済みだったはずですよ」
「ここまできついとは思ってもみませんでしたよ! 曲がりなりにも上位ギルドって言われて増長してたのは否めませんが、もう少しやれると思ってました。天魔さんはどうやってここまで力をつけたんですか? 探索者学校出身でもないみたいですし」
「異世界に行って魔王討伐する為に死ぬ気で訓練しました。地球とは比べ物にならないぐらい危険な世界でやらざるを得なかったんですよ」
「あーそうですか」
毎日一緒にいるからか、俺の人物像はかなり割れている。適当な人間だってのもバレてるし、この話も嘘だと思ってるんだろう。
本当の事を言ってるんだけどね。
こんなファンタジーな世界になったんだし、異世界転移とかもあり得る話だと思うんだけどさ。
「今日はここまでにしましょうか。明日は休暇にします。最後の追い込みをしますので、しっかり英気を養っておいてください」
「さ、最後の追い込みだって…っ!」
俺がそう宣言すると、倒れていたメンバー達がゴクリと唾を飲み込みこれから来るであろう最後の地獄に心をはせた。
「さてと。俺は俺でやる事を済ませないとな」
「何かあったの〜?」
桜は既に訓練についてくる事が出来るようになっており、身体的にも精神的にも余裕がある。
今も最近泊まってるホテルで一戦交えた所だ。
「警察から電話があったんだ。協会からも。あの襲撃者の事について色々判明したから、一度署にきて欲しいって」
「お勤め頑張ってくるんだよ〜」
何故俺が捕まる話になってるんだ。
全裸でベッド上に寝転がり、スマホをポチポチしてる桜のケツを引っ叩き抗議する。
ちゃんと証拠もバッチリあるし、正当防衛は認められてる筈だぞ。
「桜はどうする? せっかくの休みだし、ゆっくりしてても良いぞ。話を聞くぐらいだし、俺だけでもなんとかなるだろ」
「ゴロゴロしてても暇だし一緒に行くよ〜。最近訓練続きでゲーセンにも行けてないし〜。帰りに寄っていこうよ〜」
「なら一緒に行くか」
依頼者とか分かったのかね。
分かり次第潰しに行く予定なんだが。
協会の人も同席してくれるらしいから、そんな困った話にはならないと思うんだけど。
「指導が終わったら面接があるからね〜。地方からわざわざ来てくれる人もいるみたいだし〜。時間をかけて選別したから後はだんちょ〜次第かな〜」
「そこまでやったならもう合格で良いじゃん」
「実際会ってみないと分からない事もあるでしょ〜」
俺にそんな人間性を見抜く目は無いんだが。
まぁ、余程ひどく無い限りは合格にしましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます