第24話 反転


 「あぁ。この感覚。だるいなぁ。精神を落ち着けるのが難しいんだよ」


 俺の二つ目の能力。

 『反転』。


 この能力を貰った時は強いと思ったんだよね。

 拡大解釈するなら、魔法とか反射させたり、ベクトル操作的な事も出来たりするんじゃなかろうかと。

 俺は厨二心を満載に、わくわくしながら色々試してみたもんだ。


 結果は全然だめ。

 反転させるものをしっかり理解しないと駄目なんだ。にわか知識ではベクトル操作なんて出来る訳がない。転移する前は平凡な中学生だったんだぞ?


 魔法だって、その属性、魔力量をしっかり把握しないと、反射させれない。

 強い相手と戦ってる時に、一々そんな事考えてられないんだ。


 まぁ、魔王と何回も戦って理解したお陰で魔王の技を何個かは返す事が出来るようになったが。


 だから、俺は普段は専ら、温度調整やらその他諸々生活を便利にする為に使っていた。

 でも魔王に何回も負けて、行き詰まっていた時に思ったんだ。


 「これ、能力を反転させたらどうなるんだ?」


 俺は憑依が反転したりしたら、天使を顕現したり出来るんじゃないかと思ってたんだ。

 でも結果は、憑依対象の天使が反転して、悪魔になりやがった。

 こいつらが中々に曲者で。


 「あーやばいな。イライラする。天使達みたいに大人しくしてくれよ」


 俺と悪魔達の折り合いはかなり悪い。

 悪魔達が魔王寄りなんだろうな。しっかり手綱を握らないと、暴走しそうになる。

 初めはかなり苦労したもんだ。

 別に俺が善なる者って訳じゃないけど、魔王討伐を目標にして、実際討伐したから相性が悪いんだと勝手に思っている。


 「だんちょ〜? それ〜大丈夫なの〜?」


 「大丈夫大丈夫。久しぶりだから、ちょっぴり不安定だけどすぐ慣れる」


 「あたしが言ってるのは見た目の話なんだけど〜? 人類の敵みたいな見た目だよ〜?」


 ああ、そっちか。

 見た目は本当に悪魔だからか。顔はそのままだけど、体は真っ黒になって、目が真っ赤。

 蝙蝠みたいな悪魔の翼に、二本の角が頭から生えている。

 憤怒サタンは思いっ切り悪魔チックだからな。憑依対象によってはマシなのもあるんだけど。


 「これは流石に一般人には見せられん。せっかく天使のお陰で聖人キャラで売っていけそうなんだ」


 「だから撮影禁止なんだね〜」


 そういう事。アンチにこんな姿見られたら、嬉々として叩いてくるだろうからな。

 今回みたいに魔法にメタ張ってる相手ぐらいにしか使わないし大丈夫だろう。

 禁忌領域はそんな奴らばっかりだけど。



 「出て来たな。残党共が」


 「ケキャキャ!」


 こいつら。俺は魔族と呼んでるが、どうやって増えてんだってぐらい、数が多い。

 ゴブリン並みの繁殖力。どれだけ消しても気付いたら増えてる。

 現代のゴキブリ魔族みたいなもんだ。


 「まぁ繁殖じゃなくて、上位魔族の余剰魔力から生まれて来てるらしいけど。殆ど殺した筈なのに、どこかしらに撃ち漏らしが居るんだよなぁ」


 だから俺は絶滅を諦めた。

 現代でもゴキブリ絶滅しようとしても無理だろう。そういう事だ。じょうじ。


 「見た目はだんちょ〜と大差ないね〜。これじゃあどっちも敵みたいに見えるよ〜」


 「桜は防御する事だけを考えとけよ。こいつらモブでも中々の強さで一体でも殺すと、地の果てまで追いかけようとしてくるからな」


 身内意識とかは無いだろうに。

 一体でも殺すと、狂った様に狙ってくる。

 全滅させる自信がないなら、逃げが正解だ。


 「ハッハァー!」


 憤怒サタンの能力は身体能力の向上である。しょーもないと思っただろう。

 これ、上がり幅が半端じゃない。

 石ころから月ぐらい変化する。

 制御するのにどれだけの時間を費やしたか。

 精神を落ち着けつつ、体を制御する。

 中々出来る事じゃない。

 しかしだ。


 「うははははは!!」


 それが出来ると、ゴリゴリの近接マシーンになれる。最終的には魔王と近接でやり合えるぐらいには。それだけじゃ倒せなかったけどね。


 「どらぁ!! どんどんこいやー!!」


 魔族をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

 返り血なんて気にしない。側から見ると、とても制御出来てるようには見えないだろう。


 「うわ〜。ひどいよこれは〜」


 桜が引いてるな。でも仕方ないんだ。

 魔法が効かないなら物理で殴る。定番でしょ。


 「いてぇ! この野郎!」


 魔族も弱くない。所々で攻撃を貰ったりするけど、多少のダメージは無視する。

 モブ魔族でも、群れられるとダメージ0で勝てる程弱くはないんだよ。

 勇者(笑)の俺以外に勝てる奴は居るのかね。

 数体ならなんとかなるかもだけど。


 「ケキャキャ!」


 「何言ってるか、分かんねぇんだよ!!」


 何かを叫びながら、背後から攻撃してくるのを裏拳で弾き飛ばしつつ、目の前の魔族にはハイキックで頭を潰す。


 現代に戻ってきたし、空手とか習おうかな。

 俺は向こうで身に付けた我流だし。

 異世界にも色々武術の宗派があったりしたんだけどね。俺が習おうとしても、恐縮したり、俺の名前を使って売り出そうとしたりして、まともに習える状況じゃなかったんだよな。


 異世界では老人の師匠キャラは定番だと思ってたんだけどな。そういうまともな人は最前線で魔物と戦って殉死してばっかりだったから。

 道場を開いたりしてる奴は、安全圏でぬくぬくとしてるのばっかりで使い物にならなかった。


 「いや、こっちでも一緒か。俺もだいぶ名前が売れたし。むしろ、現代の方が酷そうだな」


 そんな事を考えつつも、魔族をどんどん倒していく。

 これ、いつまで続くのかなぁ。

 本当に禁忌なら無限に出てくるけど、狭間になってこっちに来てるから上限はあると思うんだよね。

 ボスもなんなのか気になるし、早めに先に進みたいんだけど。


 舐めプで倒せる程弱くないのがなぁ。

 少し思考を逸らす程度なら、大丈夫だけど。

 こいつらを倒してからボス戦にしないと、乱入とかしたりしてきたら面倒だし。


 俺は鬱屈とした気持ちになりながらも、少し集中して魔族を倒していった。


 

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