第284話 コンサートなんて出来ない?

 コンサートを実施するための準備を始めると、その入り口だけで雲行きが怪しくなった。


「楽器が無い!」


 瑛沙てれさが騒ぎ出す。

楽器はあるけど、笛と打楽器という感じだった。

ギターやバイオリンのような弦楽器やピアノのような鍵盤楽器が無かった。

そして、楽器を演奏出来る人が極端に少ない。

それは芸術家の一種という扱いになっている。


「カラオケが無い!」


 奈緒なおも叫ぶ。

まあ、そんな楽器事情でカラオケがあるわけないわな。


「マイクとスピーカーも無い!」


 マイクっぽいものはあるけど、それは拡声の魔導具で、歌を唄うようなマイクではなく、そもそも伴奏と一緒にスピーカーに流す事が出来ない。

そのスピーカーが無いのだ。


「この世界、歌手やダンサーはいないの?」


 遥香はるかが詰め寄る。

いるけど、それは酒場の踊り子が踊って歌う程度のことだった。

あくまでも小規模な酒場で行われていることにすぎないのだ。

そして、それは色事と通じている職業であり、そのままお金を払って二階で……という流れとなる。


「つまり、そんな場所で歌ったら、私たちも身体を売ってると思われるの!?」


 瑠奈るなが引きつった顔で言う。

さすがに、そんなステージには立たせる気は無いんだが……。


「たぶん」


 いや、さすがにそれは未成年にはっきり言えるような話題ではない。

芝居小屋はあるけど、そこで歌とダンスを披露するという文化はないそうだ。

そもそも歌劇ミュージカルがなかった。


「「「「「コンサートなんて出来ないじゃん!」」」」」


 楽器の種類が少なく、社交ダンス的な文化も発達していなかった。

王にされてしまった手前、舞踏会で踊らされなくて済むのは助かるが、アイドルがコンサートを開くという土壌が全く存在していなかった。


「どうするのさ!」


 瑛沙てれさが詰め寄って来た。

それは俺にもわからないんだがな。


「いったい、何の話なんですか?

コンサートって何ですか?」


 サーラが不思議そうに言うのも、そういった概念が全く無いからなのだろう。

ここは口で説明しても無駄だろう。

説明の最中に、その説明内の単語を説明する必要が発生するという沼に落ちるだけだろ。

ここは百聞は一見に如かずだろう。


「とりあえず、歌って踊ってみてくれないか?」


 俺は瑛沙てれさたちアイドルに、サーラたちの前で歌って踊るように提案した。

現物を見せるのが一番早いからだ。


「でも、カラオケの伴奏が無いと……」


「某アイドルの〇〇という曲で良いか?」


 俺にはその曲を演奏するあてがあった。


「その曲ならば、レッスンで使ったので完コピしてます」


「じゃあ、リビングでやってもらおうか」


 俺は不思議そうな瑛沙てれさたちを引き連れて、リビングに向かった。

といっても、雑談していたダイニングから少し移動しただけだ。


「これ、ダウンロードしてあったから、流せると思うんだが」


 俺はスマホを取り出し、音楽再生アプリを起動した。


「ちょっと、なんでスマホが使えるんですか!!!」


 ああ、そういや、【給電】スキルでスマホの電池が充電できるのって、みんなは知らなかったか。

シノンギャル子は知っているはずだが、本人がスマホを手放していたから話題にもならなかったのか。


「スキルで充電できるんだよ。

ただし、ネットに繋がらないから、それに依存しているアプリは動かないよ。

曲もダウンロードしてあるのしか無理」


「あー、サブスクだと駄目なやつか!」

「じゃあ、作曲アプリなんかは動くのかな?」

「あれが動けば、うちらの曲も流せるね!」


 なるほど、そういう使い方をしていたならば、いけるかもな。


「試してみる?」


「是非!」


 そう言うと、美月みづきがだーーーっと自室まで駆けて行くと直ぐに戻って来てスマホを差し出した。

どうやら、彼女が自分で作曲しているみたいだ。


 そして、そのスマホに充電ケーブルを繋げるとその逆の端を手に持って【給電】スキルを使って充電した。


「電池が100%になった!」

「本当だ!」

「急速充電だー!」

「ああ、電池切れでスマホを手放すんじゃなかった」


 王国では時計にスマホを使っているそうだ。

その時計を使って時間で鐘を鳴らしている。

その充電は過去の勇者が持ち込んだ太陽電池パネル付きのモバイルバッテリーで行っているらしい。

なので、なにかと予備のスマホを召喚者から手に入れようとするらしい。


 そして、美月みづきのスマホが復活したことで、彼女たちは自分たちのオリジナル曲のカラオケを流せるようになったのだった。

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