第190話 変態じゃない

お知らせ

 第189話において、勇者拓哉の実力が騎士を若干下回ると書いていましたが、若干上回るの間違いでした。

訂正致します。

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「【隠蔽】で一緒に姿を消すために触れるぞ?」


 【植物シェルター】を消して姿を現すと、そう確認してから女武者っ子の手に触れる。

一瞬ビクッとされるが、勇者拓哉から身を隠すという理由があるため、女武者っ子はそれを渋々受け入れた様子だった。


「嫌ならば、そちらが俺に触れるのでも良いぞ。

ただし手を離すと解除されてしまうからな?」


 そう言うと女武者っ子は無言で頷いて俺の手を離し左上腕に触れた。

やはり嫌だったらしい。

彼氏持ちだから、さすがに他の男と手つなぎは嫌か。


 猫っ子はがっつり俺の右腕を組んで来ている。

犬っ子は自前で姿を消した。


「【隠蔽】」


 全員で姿を消して上へと昇る階段を目指す。


 勇者拓哉たちの戦いは、勇者拓哉の取り巻き騎士に傭兵隊が絡み出し、一気に侯爵家騎士が勢いを盛り返すところだった。

勇者拓哉が思ったよりも弱い。

もしかすると、このまま討たれてくれるかもしれない。

俺がそうなるように誘導したことは犯罪になるのだろうか?

そこだけが心配だ。


 ◇


 ダンジョンの2階に上がり、勇者拓哉たちの目から逃れると、全員でローブを被り、身を隠して行動した。

低階層に来ると人が多くなるため、隠蔽状態の俺たちに気付かない人がそのまま向かって来るからだ。

そして避けることなくぶつかられてしまう。

こちらとしては猫っ子と犬っ子のビキニアーマーが目立たなければ良いのだ。

肌を晒さないと戦闘に支障があるからこそのビキニアーマーなのだ。

戦闘が必要なければ隠しても問題ない。


 女武者っ子も和鎧で目立つ格好だが、変身の指輪で全身偽装をして普通の女冒険者になっている。

それが女武者っ子の通常スタイルらしい。


 ◇


 ダンジョンから出ると、王都のオーブ屋へと向かった。

王都の入口で、女武者っ子の変身の指輪が引っ掛かるというハプニングがあったが、勇者パーティの一員ということで無事通過出来た。

出る時はスルーされたので気付かなかったらしい。

まあ、侵入に人員も装置も割り振るのは当然だろうな。


 リュミエールの警備装置はしっかり作動しているようだ。

さすがに部下を切り捨てて罪を逃れた貴族も、また警備に穴をあけろとは命令出来ない様子だ。


「すまない、本当に獣人ではなかったのだな」


 猫っ子と犬っ子が入口で衛兵に顔を晒したが、そのまま人間の姿だったので、女武者っ子は彼女たちが変身の指輪を使っていないと思ったようだ。

これはリュミエールによる裏機能だからな。

俺たちが使っている変身の指輪だけは機能阻害を受けないようになっているのだ。

それを教えても面倒なので、スルーしておく。

良い方向に勘違いされていて悪いことは無い。


 だが、女武者っ子との距離が若干遠ざかったのを感じた。

そうか、俺が女性にビキニアーマーを着せて喜ぶ変態だと確定したってことか……。

変態扱いは甘んじて受けようとは言ったが、これはこれでキツイところがあるな。


 女武者っ子をオーブ屋まで連れて来るのに躊躇いはあったが、ギャル子と優等生っ子と会って勇者拓哉の悪業の証言を聞き、彼女たちの身の安全を考えてくれれば女武者っ子も黙っていてくれると信じたい。

まあ、調べれば直ぐにオーブ屋に辿り着くだろうし、隠す方が誠意に欠けそうだしな。


 オーブ屋に到着したところで、俺はオーブ屋の警備装置のことを思い出した。


「あ、そうだ。

ここオーブ屋の入口では変身の指輪を使っていると警報が鳴って入口が封鎖されてしまうから変身は解除しておいてくれ」


 鎧武者っ子も勇者パーティの一員であることを隠したいらしく、入口で強制解除された以外ではずっと変身の指輪を使っている。

黒髪だと召喚者だとバレるし、勇者崩れとも関わり合いたくなければ、そうなっても仕方が無いところだろう。

だが、うちのオーブ屋では、その勇者崩れ対策で警備が厳重になっているのだ。

それに引っ掛かられても面倒だ。


「それは2人を守るため?」


「そうだ。

勇者拓哉以外にも、黒髪の召喚者だというだけで変なところからも狙われてしまうからな」


 特に女の子は好事家にも狙われるからな。


「あなたがその好事家だということはないんだよね?」


 あ、ビキニアーマーのことで変態だと思われているんだったか。

さすがに俺の正体までバラすのはまずいんだが。


「そこは2人に聞いてくれれば誤解も解けるさ。

俺が何と言おうと信じないんだろ?」


「それもそうね」


 思った以上にビキニアーマーがネックになっているな。

ダンジョン内の人目につかないところだけと思っていたが、いつのまにか情報が拡散していた。

男のエロ視線はさすがに侮れないということか。


 オーブ屋の警備装置を突破して無事に中に入る。

俺たちがではなく女武者っ子がね。


「お帰りー……」


 シセルが俺たちに視線を向けて固まった。

その視線は女武者っ子にロックオンしていた。


「店長がまた女連れて来た!」


「今回は違うわ!」


 そして女武者っ子も固まった。


「やっぱり変態……」


 その視線はシセルと茶肌っ子の店員ユニフォームに向かっていた。

そういやギャル子がメイド喫茶張りのユニフォームを作ってたな。

完成したんだ……。


 俺の変態レッテルが強固になっていく。

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